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衣替えになり、制服も半袖になった頃、ある特定人物にとって待ちに待ってない合宿が始まった。梅雨入りしたどんよりした憂鬱な天気同様、彼の気持ちも憂鬱であろう。

期末中間以外にも大きなテストがあるとか聞いてないよ。しかも順位が出るとか…あんまり下じゃないといいなあ。

はぁ、と溜息を吐き立ち止まった。彼は今頃リコ先輩宅でしごかれているだろうか。見事に真っ赤な点数に流石に理解したらしい。先輩達の雷が落ちて理解せざるえなかった、ともいうが。

はぁ、と溜息を吐くとビニール袋の中身が揺れた。これは差し入れとご飯諸々だ。日向先輩直々に買ってきてほしいと頼まれた。
リスト分は買えたからあとは相田先輩の家に行くだけだな、と歩いていると「あっれ〜?」とどこかで聞いたことのある、チャラそうな声が聞こえた。


「あ、どうも」
「どうも〜」

歩いてきた人を避けようとしたらその相手は秀徳高校の高尾和成君だった。
意外な人物に素直に驚けば「誠凛のマネージャーさんじゃん!どうしたのここで」と聞かれむしろそっちこそここにいるんだと思った。秀徳ってそれなりに離れてますよね?



「私は、買い出しに…高尾君は?」
「俺はちょっと野暮用で…って俺名前言ったっけ?」
「あ、名簿見たんで」
「そっか」

自己紹介をしなくてもつい先日戦った相手だ。選手じゃなくても攻略するために情報くらい見てるものだ。それが伝わったのか高尾君は軽く受け流すと「たくさん買ったね」と袋の中身を少しだけ覗き込んできた。

「これから勉強の合宿するんです」
「あ、もしかして試験?」
「うん、今週末に。そっちは?」
「俺んとこは再来週かな」
「そうなんだ」

別に聞く必要もなかったけどなんとなく流れで秀徳の試験期間を聞きちょっとだけいいなぁ、と思った。試験が早く終わるのはいいことなんだけど。


「けどそれ持ってくの大変じゃね?」
「いえ、1人で持てる分しか買ってないんで」
「つってもめちゃくちゃ重そうな音してんじゃん!途中まで俺が手伝うよ」
「え、でも」
「いーのいーの!丁度ヒマしてたし」

チャラそうな上に押しも強い高尾君には何となく押し負けてしまい、荷物持ちをお願いしてしまった。
空いた両手の平を見ると真っ赤な線がいくつもできている。隣では「ホラ、やっぱり」と高尾君が可笑しそうに笑った。



「つか勉強の合宿なんて真面目だねぇ」
「私もそう思います。でもどうしても赤点を防がなきゃいけない人がいるんで」
「あーそれ選手でしょ。つか火神辺り?」
「流石。ビンゴです」

急がずゆっくり過ぎずの歩調で歩く高尾君に合わせるように隣を歩いていると彼がこっちを見て微笑むので何度か瞬きをした。
そんなに当たったのが嬉しいのだろうか。というか、成績まで見抜くなんて恐ろしいなホークアイ。


「そういえば、今日は緑間君と一緒じゃないんだね」
「えーセットは勘弁してよ。俺だって1人で行動することくらいあるって」

へらへらと笑う高尾君は本心なのか嘘なのかわからない態度で返してくる。掴めない人だなぁ。と思いつつ、は実は重大なことに気がついた。

思ったよりも高尾君とのお喋りは疲れるかもしれない。黒子君はいわずもがな、火神もリコ先輩達も高尾君程お喋りな方じゃないから頬の筋肉が引きつる感覚が濃くなってきた。
やっぱり笑顔の練習をしないとダメかもしれない、と考えていると高尾君がやっぱりこっちを見てにっこり微笑んだ。


しばらく高尾君と話しながら歩いているとあっという間に分かれ道へと差し掛かる。

「ここまでで大丈夫?」
「うん。ありがとうございました」
「なんのなんの」
「あ、そうだ」

荷物を下ろし、軽く肩を回す高尾君には鞄から財布を取り出すと小銭を確認して取り出し彼に手渡した。「え、何?お駄賃?」と笑う高尾君には肩を竦めると「この前のお好み焼きのお釣りだよ」と返した。



「いつ会えるかわからなかったから裸になっちゃうけど金額覚えてたから…よければ緑間君に返しておいてもらえるかな?」
「律儀だねぇ…って、お釣り多くない?」
「高尾君の分は笠松さんが払ってくれたの。後でお礼言っておいた方がいいよ」
「マジかよ」

笠松さんかっけーな、と笑った高尾君はポケットに小銭を入れると「ん。了解」といってが向かう方とは別方向へと歩き出す。


「あ、そうだ」
「ん?」
「名前知ってるけど、一応教えてくんない?マネージャーさんの名前」
「…、です」


両手にビニール袋を持つと途端に腕が引っ張られる。うわ、こんなに重かったっけ?と顔が引きつりそうになった。
確かに高尾君に手伝ってもらえて正解だったかも、と思いつつ彼の問いにできうる限りにこやかに返せば彼はそれ以上に人懐っこい顔で笑うのだった。

「じゃ、またね。ちゃん」




2019/06/10
TAKAO!TAKAO!TAKAO!!