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火神にとっての地獄のテスト期間も無事クリアし、インターハイに向けて練習が増えていく中、その火神はというと足のケガで満足に練習できない状況が続いていた。

「見ててイライラするなら勉強でもする?」
「なんでだよ!」

折角試験が終わったのに戻ってどうすんだよ!!と沸点の低い火神にその顔でイライラされる方が鬱陶しいんだけどな、と距離を取った。
教室でも部活でもフラストレーションを溜めてるのはわかってるけどそれをもう少し隠すとかしてくれないだろうか。


「ワン!」
「どわああああっ」

あんまりイライラしてると近づきたくなくなるんだよね、と離れたら彼の足元から可愛い声が響き、それ以上の悲鳴が体育館に木霊した。

「火神君煩い!」と相田先輩に一喝された火神はへっぴり腰でなんともヘタレな格好だ。
さっきとの差が激し過ぎる。壁に張り付く火神を尻目にけむくじゃらな物体はとてとてと可愛さを振りまきつつの方へと走り寄ってきた。

この子は先日の大会の後に黒子君が拾ってきたワンコだ。名前は目元がそっくりな本人にちなんで『テツヤ2号』と名付けた。
このテツヤ2号が凄いところは愛想も良くて頭も良くて気がつけば誠凛の面々に快く受け入れられていたところだ。

ん?ああ、火神は犬が苦手らしいので放置である。
出会い頭からこっちが気が抜けるような悲鳴をあげるので正直見方が変わったのはいうまでもない。そのへっぴり腰何とかした方がいいよ。キミのファン見たら多分幻滅する。



「ふふっありがとう。私の代わりに怒ってくれて」
「はあ?どうい」
「ワン!」
「ヒィ!」


お礼と一緒にふわふわの頬を掻いてあげれば嬉しそうにお腹を見せてきたのでデレデレと撫でまわし癒された。
「わ、私も!」と便乗してきた相田先輩にバトンタッチをして立ち上がるとふらりと視界が揺れた。やばい、立ち眩みだ。

「大丈夫ですか?」
「うん、ちょっとふらついただけだから」

たたらを踏んだが黒子君に腕を掴んでもらえたのもあってなんとか踏ん張れたし倒れずにすんだ。セーフ、とへらりと笑ったものの黒子君の表情は硬い。

それを見ていた相田先輩も2号のお腹を撫でながら「マネージャーは選手と違って時間決まってないんだからことあるごとに水分補給しないとダメよ」と心配と一緒に指示をしてきた。

確かにまだ6月だというのに暑さが夏並みだ。体育館のせいもあるだろうけど、ドアを全部開放してもろくな風も通らない。知らない間に脱水症状になっててもおかしくはない、か。


「やっぱり体力つけないとダメかな…」
「夏になれば更に体力削られるからな。やっといて損はねぇと思うぜ」
「あ、2号の散歩とかいいんじゃない?」

下手な運動より体力つきそう、という先輩達の発言に相田先輩もいいんじゃない?とこちらを見てきた。

散歩かぁ。少し考える素振りを見せたが足元ではち切れんばかりに尻尾を振り、ガラス玉のようなつぶらな瞳で見上げてくる可愛い存在にに嫌なんて言葉は浮かばず、あっさりと散歩係に就任したのはいうまでもない。




2019/06/10
結局2号の住処は学校でいいのだろうか…。