15


桐皇学園は強い。数字にされて更に脅威を見せつけてくる。火神は足にまだ違和感を残してるし、青峰君が入った桐皇学園は格段に実力が上がる。

生で見れば数字以上に空気が殺伐としてきての心が冷えていく。怖い。全身が肌寒くて粟立ってこの場から逃げたくなる。負けない。負けたくない。そう思うだけで泣きたくなる。


後半戦に差し掛かる休憩中は何も声をかけられなかった。実はレモンのはちみつ漬けを作ってきたとか声援とか。
フル出場できない黒子君にも火神にも何も言えずベンチで見ているだけ。

桃井さんはかなりのデータ収集をして誠凛の攻撃を封じてきてる。その底上げされた地盤の上に青峰君がいるのだ。

悔しい。私にも、私にも何かできないのだろうか。ただ見てるしかできないのだろうか。


「怖がらないでください」
「……っ」
「最後まで応援してください」

僕達は負けませんから。青峰君の怒涛の攻撃に無理矢理にでも交代せざるえない状況にダメだと思った。

負ける。きっと負ける。

胸の中はずっと冷えていて震えさえ感じる。その冷えた両手を黒子君はそっと包むように手を置き、そう呟いた。

火神が抜け、ミスディレクションの効果もなくなり、体力も底をついても黒子君は絶対に青峰君から離れなかった。食らいついた。『心の』手足をもがれても喉を掻き切られても黒子君の目は死ぬことがない。



「だから、諦めるのは絶対に嫌だ」

私は馬鹿だ。負けるのが嫌いなのはみんな同じだ。これだけ圧倒的な力を見せつけられて心が折れないわけない。それでも黒子君は、火神は、みんなは、絶対に諦めないのだ。

諦めない。放されても放されても1点でも多く返すために走る。


「負けるな誠凛ー!!」


何で私は負けることを想像しながら応援しているんだろう。
何で勝てる気持ちで臨んでいないんだろう。
全力を出しきって戦ってるみんなとは違うんだろうか。
私は全力で応援してるだろうか。

このベンチでただ声を出すだけで、何もできてないんじゃないか?
もっと私に能力があれば、もっと支えられたら負けなかったんじゃないか?


私はなんて無力なんだろう。



試合終了の合図と共に落ちたボールの音は床についてもわからないくらい会場いっぱいに響き渡る桐皇学園の勝利の声にかき消されたのだった。




2019/06/11