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「失礼します、相田先輩はいますか?」
インターハイも終わり通常の生活に戻ったは1人2年の教室に来ていた。中にいた相田先輩を見つけ今迄撮影した試合のDVDを借してもらえないかとお願いすると彼女は驚きながらも承諾してくれた。

「でも全部見るってなると結構時間かかるわよ?」
「構いません。今更ですけど、でもちゃんと勉強したいんです」

バスケのこと、と相田先輩を見れば驚いたように目を丸くして、それから「わかった。じゃあルールブック諸々私のお古も貸してあげるわ」と親指を立てられた。
うん…なんか分厚そうな気配がするけど「ありがとうございます」そういって頭を下げると教室を出る前に呼び止められた。


さん。大丈夫?」
「?はい。あ、リーグ戦後半休んですみませんでした」

そういえば残りの試合は熱が出て試合に行けなかったのだ。その時のDVDはすでに見ていて正直お腹が痛くなったけど。それはもう治ったので大丈夫です、と返すと彼女はそうじゃない、と頭を振った。

「喉が枯れるまで応援したの初めてでしょ。勝ったのも負けたのも…全部持ってかれてるんじゃないかと思ってね」
「…それは、」
「落ち込んでも引き摺ってもいいわ。それが当たり前だもの。でも、ここで終わりじゃない…インターハイと同じくらい大きな大会が冬にもあるの。その為にもここでへこたれないでね」


あなたも大事な戦力なんだから、と肩を叩かれ鼻の頭がツンと痛くなった。そこへ丁度予冷が鳴りは相田先輩に頭を下げると慌てた素振りで2年の教室を後にした。



放課後、顧問の武田先生に鍵を借りて、倉庫でDVDが入った箱を取り出したのだけど思った以上の量に少し、というか結構うんざりした気持ちになった。
とりあえず10枚くらいから始めようかな。強いとわかってる高校と日付がなるべく近い試合のDVDを中心に借りてその足で部室に向かった。そっちには桐皇学園や秀徳戦のDVDがあったはず。


「…よお、」
「火神君…」

薄暗い廊下から見えた大きな体躯に驚きはしたものの見知りの顔だと分かって強張った肩を下ろした。しかし相手の格好に少し眉が寄る。

「日向先輩が見学に来いっていってたよ」
「知ってる」

ジャージでもTシャツ姿でもない授業と同じ制服姿の火神はぶっきらぼうに返すとそのままの横を通り過ぎた。


「少し、付き合えよ」

そのまま行ってしまうのかと思いきやついてこいという彼の後を追いかけると人気の少ない校舎裏に出た。
まるで果たし状を送り付けたかのような緊迫感にまた肩を強張らせると、彼は何の脈絡もなく「黒子は?」と聞いてきた。


「多分部活」
「行ってねーの?」
「体調不良で何日か休ませてもらってるの」

その時間で資料を片っ端から見ているんだといえば彼は微妙な顔をしたが「ふーん」と納得したようだった。火神は一旦空を見上げると少しだけ何か考えたようだったがすぐに視線を落としを見つめた。



「ならいいな。もうわかってるかもしれねーけど、少しの間黒子と距離を置くことにしたから」
「うん、知ってる」

黒子君と火神はべったりとつるんでるわけではないけどそれでも今の2人に何かあったと分かるくらいには互いを見ない話さなくなった。
火神に興味がある子はケンカでもしたのか?と聞いてきたけど私には答えられなかった。


「…解消、しないよね?」
「当たり前だ。俺も黒子も諦めちゃいねーよ」
「……」
「けど、今のままじゃダメなんだってこともわかった。だから距離を置いた」

思ったよりも震えた声に内心舌打ちをして聞けばあっさりとの不安を砕いていく。

火神は火神で答えを出したらしい。
その答えに黒子君がどう答えるか。

その言葉と視線に持っているバッグの取っ手を強く握りしめた。黒子の答えが出るまではこのことを黙っていてほしい、という火神に「わかった」と返すと、彼の手がの頬に触れた。


「顔、能面みたいになってんぞ」
「……普通に酷いね、それ」
「じゃあ蝋人形」
「せめてただの人形にしてよ」

失礼だな、と眉を寄せれば「悪かったな、勝てなくて」と何故か謝られた。何で謝るのよ。脳裏に映る桐皇学園戦には目の前が歪んだ気がして視線を火神から放した。



「仕方ないよ。そこがあの時の精一杯で限界だったんだから」
「……」
「…私も、諦めないよ」

言葉はただの言葉だ。力なんてない。わかってるけどこのまま何もしないのは嫌なんだ。

DVDが入って重くなった鞄の取っ手を強く握りしめれば頬を触っていた手が頭の上に乗り「ああ」といつもより優しい火神の声が降ってきたのだった。




2019/06/11