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木吉先輩が復活し、彼の助言で1年生だけの練習試合が行われた。第一印象は日向先輩とはまた違った発言力があるなと思った。
なんか掴みどころのない先輩ですね、と相田先輩にいったら「ただの天然のバスケバカよ」と返されたけど。
早退して家に篭ったは張り付くようにテレビ画面をじっと見ていた。手元にはノートやら開いたDVDケース、参考書が無造作に放置されている。
その中にあった携帯が震え、表示を見れば黒子君の名前で慌てて通話ボタンを押した。
「テツヤ君?どうしたの?珍しいね」
『さんすみません。今の時間で火神君の居場所知りませんか?』
「火神君?この時間なら家かバスケットコートだろうけど」
『いそうなバスケットコート、わかりますか?』
「3つくらいあるけど…でもあそこだと思う」
確か夜間ライトがあるところは工事中でもうひとつのところに通ってるはず。その住所を教えたは持ってたノートをやや乱暴にかき集め部屋を飛び出した。
髪もばさばさだし、着替えた私服も部屋着同然だけど着替えることすら煩わしくて走りやすいシューズを引っかけ走った。
出足は好調だったが元が元なので走れば走るほど息が乱れペースが落ちていく。さすが体育の成績中の下!そう思いつつ黒子君に教えたコートに辿り着けばうっすらと2人がバスケットをしてる姿が見えた。
「初めてやった時もこんなんだったな」
「……」
「なあ。あん時から気になってたことがひとつある……何で俺を選んだんだ?」
「すみません。ボクは謝らなくちゃいけません」
乱れる息を整えながら会話が聞こえるところまで静かに近づくと動きを止めた黒子君がゆっくり話し始めた。
帝光時代のこと、火神を使って青峰君達を見返したかったこと。その為に嘘をついたこと。
でもそれは火神もわかっていた。けど利用されていたと知っても声色からは怒りを感じなかった。わかった上で一緒にいたと。それぞれ考えがあるのだからそれはそれとして認めていると。
「いいえ。火神君はもう違います」
「……」
「火神君は信じてくれました。あの言葉の真意は決別じゃなく、お互い1度頼ることをやめて、より強くなるため。より大きな力を合わせて勝つために」
火神の気持ちはちゃんと黒子君に伝わっていたようだ。はっきり聞こえる声に自分でもわかるくらい嬉しくなる。
「だから訂正させてください。ボクは誠凛に入って良かった。先輩はみんな素晴らしい人達で、一緒に頑張る同級生もいい人達ばかりで、さんもボクの我儘を聞いてくれて、火神君はボクを信じてくれた」
「……」
「ボクは帝光中シックスマン黒子テツヤじゃない。誠凛高校1年黒子テツヤです。自分の為に誰かを日本一にするのではなく、火神君と、みんなと一緒に日本一になりたい……そのためにもっと強くなって、キセキの世代を倒します!」
目から温かい水が零れた。彼が抱えていた悩みをずっと知っていた。知っていたけど自分ではどうにもできなかった。
自分はバスケが出来るわけでもない、男でもない、何一つ彼の苦しみを解消してあげることができなかった。
彼が見つけたアイデンティティを奪うことはできない、でもそのしがらみのせいで彼は自分の自由を奪っていた。
それが今解放されたんだと、そう思えて、嬉しくて仕方なかった。
「つーか、俺は最初からそのつもりだっつーの」
「……」
「それよりまーた間違ってんじゃねーかお前!なりたいじゃねーよ!なるぞ!!……て、あれ?」
「、さん…?」
黒子君からの火神のダンクシュートにゴールリングが揺れる。その高さからか丁度通った車のヘッドライトのせいかを見つけた2人がこちらに駆け寄ってきた。
「ごめん。私も来ちゃった…」
「つか、お前、泣いてね…?」
「あ、あのね!」
反射で頬が濡れてるのがわかったのだろう。火神がぎょっとした顔をしたのがうっすら見えた。は大きく深呼吸すると「テツヤ君これ!」といって持っていたノートの束を渡した。
「さん。これは…?」
「対戦校の資料!と今回の試合のテツヤ君のパターン書き出した!相田先輩の見様見真似だから多分わかりにくいし間違ったこと書いてるかもしんない!」
「……」
「、お前…」
「私、ずっと後悔してたの。みんな一生懸命頑張ってるのに頑張ってる姿を間近で見ていたのに、私はとんでもなく中途半端な気持ちで応援してたことに気づいたの」
「……」
「2人ならきっとどこまででも行けるって勝手に思ってた。でも2人は人間であってロボットじゃない。私が驕っていたの。そう思っていた自分がとても恥ずかしかった」
他に比べたら目の前の2人はとても強い。今のままでも十分に強いんだ。けれど彼らが戦う相手はキセキの世代で2人よりも確実な強さを持っている。
それなのに私はただ単純に勝利の味を噛み締める為にのうのうとベンチに座っていたのだ。
「だから、だから今度は私も一緒に戦う!最後は結局応援しかできないけど、何もできないかもだけど、でも2人の為に、みんなの為に私も全力で戦いたい!」
中学時代は人とラインを引かなければ自分が潰れてしまいそうだった。だから距離を作って関わらなかった。それがにとっての自己防衛だった。
けれど人は1人じゃ生きていけない。
集団行動の中では誰かしらと関わらなければ自己の証明ができないんだ。
高校に入ってからもずっと怖かった。前に進めば進むほどいつか崩れてしまう崖の上にいるんじゃないかと、そんな気持ちで過ごしていた。
でもバスケ部に入ってマネージャーになってみんなと関わってそれはただの虚勢なんじゃないかと思った。
少なくとも今は他人とを隔てたラインを壁を越えていいのではないかと思ったのだ。それをするだけの価値があると、信頼してもいい人達なのだとそう思えた。
いってるうちに頭が熱くなってぼろぼろと涙が零れ落ちる。そのせいで声が涙声になってて悔しい。もっと格好良く決めたかったのに、と鼻をすするとぎゅっと抱きしめられた。
目の前にはシャツ越しにでもわかるくらい熱くなっている黒子君がを抱きしめていた。
「はい。一緒に戦いましょう。さん」
「テツヤ君…」
「ったく、泣くまで思い詰める前に相談くらいしろよな」
背に回された腕の強さに少し驚いたが、でもどこか心地よくてまた涙が込み上げる。
頭の上に乗った手の主を見上げれば呆れた顔の火神が笑っていて、その顔を見たはやっぱり鼻がツンと痛くなって合わせるように微笑んだのだった。
2019/06/13
彼らの居住区謎なので模造してます。あしからず。