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「へえ。そんなことがあったんだ」

昼休み、1年だけのミーティングをしていたら合宿メニュー試食会の話になったのだけど相田先輩のクッキング能力が恐ろしく破滅的だったらしい。
といえばズル休み、というわけではないが夏に負けて欠席していたためその惨劇試食会は参加しそびれていた。


「でも火神君のお陰で大丈夫になったんでしょ?」
「カレーはな」
「結局カレーだけでお開きになりましたしね」
「これ以上死者が出ないように木吉先輩が必死に止めてたからな…」
「死者ってオーバーな」
「いやいやいやマジだって。今回の合宿4泊5日だろ?朝昼晩で計算すっと11食は確実にあるんだよ」
「さすがにそれ全部カレーってわけにもいかねーじゃん?」

俺らっつーか、カントクが。
福田君の言葉にも「あー、」と返した。相田先輩なら栄養考えて色々メニュー考えてそうだよね。でも夏にカレーかぁ、と少し遠い目になっていると降旗君達3人がに向かって拝むように手を合わせた。


「だからさ!頼む!俺達を救ってくれ!!先輩達にも頼まれてんだ!」
「合宿には来るんだろ?」
「うん。行く予定だけど、でも私だって別に料理が得意ってわけじゃないよ?」
「いい!のはちゃんと食べれたし!」
「そうそう!この前のレモンのはちみつ漬けうまかった!」
「いや、あれ切って浸けただけだし……」

聞く限り火神の自炊能力の方が高い気がする。というか、1人暮らしとかマジですか、と。
実家住まい家事手伝いレベルの料理能力じゃ見劣りもいいとこだ。



試しに火神に手伝ってもらえないか聞いてみたが「先輩達が地獄メニューこなすのに精一杯でご飯作るどころの話じゃない」、といっていたらしく戦力になれないと返された。
どんだけえげつないメニューが待っているのだろうか。

この通り!と拝む降旗君達に悪い気はしないものの、過度な期待も少しされてるように見えて肩を竦めた。
はちみつ漬けも水戸部先輩の美味しかったもんなあ。料理作る人間がどっちもアウトじゃ合宿にならないような。

「あの、さん……」
「ん?」
「レモンのはちみつ漬けって…?」

後で相田先輩のレシピ見せてもらって家で練習するとかした方がいいのかな?と考えているといつもよりも一段と消え入りそうな声で黒子君に呼ばれ、彼を見やった。あれ。しゅんとした2号が2人見える。


「ああ、うん。この前の試合に持ってったんだ」
「いつですか?」
「……………と、桐皇戦の時に…」

顔はいつも通りのポーカーフェイスだけど雰囲気がどんどん沈む黒子君には内心しまった、と思った。「ボク食べてません…」と心底がっかりした声に冷や汗が流れる。

普段忘れられてることが多いからその辺気にしてない素振りを見てたけど、普通に考えたら仲間外れみたいな可哀想な話だよね?
私もいっぱいいっぱいだったんだけど…いやでもやっぱこれは話すべきじゃなかった。としょんぼり視線を下げる黒子君を見て反省していると、その空気を理解したらしい降旗君達が慌てだした。



「や!あれはたまたまだったんだよ!たまたま、がバッグからタッパー出したとこ見ちゃって!そのまま持って帰りそうだったから荷物軽くなるし、だったらくれよ!て、な!」
「そうそう!でも試合の後だったしあんま騒ぐのもどうかなって思って!近くにいたのが俺らだけだったからさ!」
「う、うん。量もたいして入ってなかったしね…帰り軽く感じたから助かったよ」

桐皇学園に負けてあのタッパーが異様に重いというか見たくないというかそういう気持ちになってたから、途中で捨ててしまいかねなかったところを降旗君達に見つかり食べてもらったのだ。
彼らだって疲労と痛みでいっぱいいっぱいだったのに。

フォローと気遣いに改めてお礼をいえば降旗君達は照れたように頭を掻いた。


「…そんなに食べたかったなら次作ってもらえばいいだろ」
「火神君……」
「試合はこれからも続くんだからよ」

一連の話を聞いていた火神はパックジュースを飲み切ると、落ち込む黒子君にそんなことをいって励ました。

インターハイは確かに終わってしまったけど誠凛は冬に向けて動き出している。別に試合にこだわらなくてもいいんだろうけど、今の黒子君には効いたみたいで彼の視線はまっすぐに向けられた。
物凄く期待した目に苦笑せざる得ない。

「はいはい。仰せのままに」
「お願いします」
「つーか、も持ってきてたならさっさと出せば良かったんだよ。そしたらあのまるごとレモンを食べずに済んだかもしんないのによぉ」
「いや、無理でしょ」



レモンのはちみつ漬けくらいいつでも持ってくるさ。ただ次作る前に水戸部先輩に味付け教えてもらおうとは思ったけど。

そんな思案をしていたら火神が超適当なことをいうので手を振って否定した。あの流れで出したら自爆か道連れのどちらかだ。そんなコントみたいなこと出来ないよ。

は溜め息と一緒に今から待ち受ける地獄の合宿に頭を悩ませるのだった。




2019/06/14
1年組を丸っと愛でていきたいスタイル。