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「ガキ共、娘とちゃんに手ぇ出したら、殺すぞ」

そんなこんなで始まった地獄の合宿は名前の通り灼熱地獄だった。浜辺でバスケってありえない。

バスケットゴールを牽引してくれた太っ腹な相田景虎さんはどうやらちょこちょこリコ先輩からの話が聞いていたらしく、初対面だというのにを気に入ってくれたらしい。
実の娘はともかく他人の娘にも牽制をかけてくる大人は初めて見た。

しかしそれも杞憂で終わるだろう。なんてったって練習量が半端ない。しかもこの炎天下で激しい運動を30分以上続けているのだ。
持ってきたクーラーボックスの中の氷はさっさと溶けてしまったし、2回目の水分補給の頃にはドリンクもぬるさを通り越して温かくなっていた。

それでも飲んだり頭にかけたりして暑さをしのいでいたけど初日からこれだけ飛ばして最後まで持つのか正直不安にもなった。いや、黒子君達、というより私の方が先にダウンするかもしれない。


「カントク!そろそろ夕飯作りに行きます」
「わかった。私も後から行くわね」

時間を確認したはリコ先輩に断りを入れると先に体育館を後にした。リコ先輩の後ろの方では降旗君達が『頼んだぞ!』という顔でこっちを見てくる。その真剣な顔に吹き出さないようにしながら頷いた。

旅館までの道なりを走っていると暑い日差しと水面の反射に目を細めた。旅館から海までそれなりに距離があるのに眩しくて仕方ない。
光に飲み込まれそうだ、そんなことを思いながらは逃げるように旅館へと向かった。



黒子君達が午後の練習を終え旅館に戻ってきた頃になんとか夕飯のカレーとご飯が出来上がった。
正直リコ先輩方式の野菜丸ごとぶっこみカレーでもいいんじゃないだろうか、と思ったくらいにはの体力がギリギリだった。

最終日までちゃんと作り続けられるだろうか、と不安に思っているとお風呂から上がった選手達がぞくぞく食堂に入ってきたのだが、悉くテーブルで突っ伏していてまさに死屍累々、になっていた。


「ほら!ここで寝ない!各自トレイを持って順番に取っていくこと。カレーはがよそってくれるわ!」

ご飯は自分でやるように!手を叩き指示するリコ先輩に屍達はよろよろと動き出し列を作った。まるでゾンビか何かだ。
もそろそろ腕が限界だったが無心でカレーをご飯にかけていると1人のカレー皿を見て動きを止めた。

「どんだけ食べるのよ火神君」
「ん?こんだけ」

見れば皿いっぱいにご飯が乗せられていてカレーをかける場所がない。かけたとしたら全部零れ落ちるくらいご飯しかない。
疲れて思考が散漫になっていたがそれでも火神の皿を見て『こりゃ無理だ』と察したは別の皿を用意してそれにカレーをかけた。


「お、悪ぃな」

悪いと思うならカレーをかけられるだけのスペースを作ってきてくれ。そう思いながらも「サンキュ」と礼をいう火神に頷き次の黒子君のご飯にカレーをかけた。火神の後だと異様に少なく感じるね。



「…なんか、結構まともじゃね?サラダとかスープもあるし」
「ご飯自分でよそえたしカレーもだったしマジセーフじゃね?」

普通に食べれる…!という先輩達のひそひそ話を後ろを通りながら聞いたはリコ先輩なりに気をつかってくれたのかもな、と思いつつ2号のご飯を置き、黒子君の隣の席に座った。


「それじゃ、いただきます!」


日向先輩の号令と共にみんな一斉に食べだした。ゾンビから人間に戻ったらしい。「んーっうめー!」「ご飯サイコー!」という声が方々から聞こえてくる。

「スープもうめぇ…!」
「野菜のシャキシャキ感最高ー!」

試食会での出来事が確実にハードルを下げてきてるらしい。
確かに作るのは大変だったけど味は普通だと思う。まあ、スープ作ったの大体私だから美味しいっていってもらえるのは嬉しいな。

安易な誉め言葉に内心喜びながらカレーを食べようとしたら手が震えて動きを止めてしまった。


さん。大丈夫ですか?」
「うん。多分…」
「そんな震えるまで包丁握ってたのか?」
「ううん。あー、そっちはそっちで大変だったけど、これはどちらかというと鍋をずっとかき回してたのとよそう時のご飯皿が重くて…」



成長真っ盛りの男子高校生に均等とか程々という言葉がないことは今日十分理解した。
「火神君の皿持ったら絶対落とすって瞬時に思ったしね」とプルプル震える手を気にしないように食べれば「確かに火神の皿はヤバいよな」と降旗君達が黒子君の前に座る火神の皿を見て口々に同意してくれた。

むしろ今回は火神の胃袋に合わせて設定量を増やしてるから手間もそれなりにあるんだよね。
明日確実に筋肉痛だわ…と溜息を吐くと今にも寝てしまいそうなくらい瞼が落ちてる黒子君が手伝ってくれるようなことをいってくれた。優しい。


「黒子が料理したら全部ゆで卵になりそうだな」
「栄養がありますよ」
「そればっかじゃ偏るだろうが」
「卵白と一緒に食べれば偏りませんよ」
「どういう理屈だよそりゃ…」

黒子君がゆで卵好きとは知らなかったけど、でも多分うつらうつらしてる思考で喋ってるからもしかしたら他意はないのかもしれない。黒子君それスプーンだから食べれないよ。

疲れがMAXだとわかったのか話しかけたはずの火神も黒子君のゆで卵話をさらっと流し、パンパンに膨らました頬の中身を全て飲みこむとを見やった。


「けどまあ、作るのは手伝えるかわかんねーけど洗い物とかなら手伝うぜ」
「…!ありがとう!」

その手じゃ皿割りそうだしな、と零す火神にはマジか!と驚きつつもめちゃくちゃ助かる!といって破顔した。この後大量にある食器を洗うのかと思うと少し憂鬱になってたんだよね。

嬉しくてへらりと微笑めば火神は驚いたように目を見開き、視線を泳がせた後「ま、まあ、そんくらいはやってやるさ」といって顔を隠すようにカレーを食べたのだった。




2019/06/15
面食らう。