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地面がまだ熱くない朝の時間に2号と散歩してきたは玄関先で旅館の人が何かしているのが見えた。掃除かな?と思ったが黒い板を持っている。

「おはようございます」
「あーおはようございます。お早いですねぇ」

こちらに気づいた旅館の主人に挨拶をすると人好きのする笑顔で返してくれ、『歓迎・誠凛高校バスケットボール部様』の隣に新たな看板を立てかけた。

「え?」

その看板の名前に大いに驚いたのはいうまでもない。



午前中は昨日と同じく砂浜で練習し、午後も体育館で練習する為移動したのだがある意味サプライズが用意されていた。

誠凛がいるコートの反対にはつい先日戦った秀徳高校の人達がいる。彼らと合同練習になったようだ。
誠凛側は「マジかよ」とうんざりというか引き気味にぼやいていたが秀徳側もあまり変わらない表情でこっちを見ている。

よく取り付けたなぁ、としてやったり顔のリコ先輩を横目で見ていれば黒子君に声をかけられた。


さん。顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
「ああこれ?日焼け日焼け」

日焼け止め汗で落ちちゃってずっと焼けっぱなし。嫌になるよ、と笑えば彼の手がの頬に触れ「熱そうですね」と心配そうに見てきた。練習して黒子君も暑いはずなのに彼の手がほんのり冷たい。

「テツヤ君こそ大丈夫?これからまた練習がきつくなりそうだけど」
「そうですね。最後まで持つかちょっと怪しいです」
「だよねー」
「それとずっと考えている新しいスタイルの方向性が決まらなくて練習に集中できない状態です」
「あー」
「すみません。折角さんがボク専用にデータをまとめてくれたのに」


練習相手が秀徳とあればハードになること請け合いだ。黒子君は少しうんざりとした空気で返してきたが目はそれでも楽しそうにしていた。黒子君のメンタルは本当に強いな。

でもその黒子君も火神と約束した新しいスタイルで悩んでいるらしい。が渡した読みづらいであろう収集したノートも読んでくれたようで申し訳なさそうに頭を垂れた。



「ううん!いいんだ!あれはいつか役に立てばいいなっていうか、自己満足というか、方向性でちょっと切欠になったらいいなって思っただけだから…」
「とても役にたってますよ。普段認識されにくいので攻略以外の見方をしてくれる人はいませんでしたから…それに自分だけの考えだとどうしても偏ってしまうのでさんのような柔軟な考えはとても助かります」

全体が見えるビデオ観戦で黒子君を確認するのが1番わかりやすい方法だが、それでもやはり他に視線が動くと黒子君の姿がフッと消えることがある。
生で対戦した人達なんかもっとビックリするくらい彼が瞬間移動したように見えるだろう。

黒子君の存在を気にしながら過ごしてきたですらDVDの確認をしていた時何度かぎょっとしたくらいだ。


何度も見返した産物だけどね、と肩を竦めると黒子君は嬉しそうに目を細め「ありがとうございます。さんの努力を無駄にしない為にも頑張ります」と意気込んでくれた。
そういうのいきなり言われると照れるからワンクッションくれないだろうか。心臓に悪い…と緊張していると名前を呼ばれ振り返った。


「あ、高尾君」
「よーっス。ちゃんも黒子も久しぶり」

歩いてきたのは秀徳の高尾君と緑間君で、チャラ男和成君は人好きのする顔で笑うと「ちゃんめちゃくちゃ焼けてね?」と日焼けを指摘された。前も思ったけどコミュニケーション能力高いなあ。



「日焼け止めは塗ってるんだけどね…でも全然意味なくて…」
「わかる。塗った傍から落ちてくもんなあれ…いやでも黒子は焼けてなくね?」
「焼けてますよ。ホラ」

塗った傍から焼けてくもんな、と笑った高尾君だったが黒子君を見て目を何度か瞬かせた。確かに黒子君は色白のままだ。
それを指摘したらちょっとだけ躍起になった黒子君が半袖をまくってどれくらい焼けたか見せてくれた。うーん。ほんのり。


「焼けた内に入らないのだよ」
「これでも焼けました」
「いやいやいや。ちゃんより焼けてねーぞお前」

火神とか他の奴らなんてもっと黒くなってんのに、とつっこむ緑間君と高尾君に、黒子君は少し眉を寄せ「いつもよりは焼けたんです」と食い下がった。うん。頑張れ黒子君。

「あ、そうだ。ちゃん。うちの監督が呼んでたぜ」
「え?」
「ここって自炊なんだろ?飯の時間ぶつかるだろうからお互いかち合わないように話でもするんじゃね?」


微妙に緑間君と言い合いになってる(というか緑間君も引かないのね)黒子君を尻目に高尾君の話を聞いたはリコ先輩を見やった。
視線に気がついたのか彼女もこちらを見て頷いている。どうやらあっちにも話がいったらしい。

高尾君に礼をいい、その場を離れようとしたがふとこの前のことを思い出し緑間君を見やった。改めて見てもでかいな。

背が高いのはわかっていたものの、前回よりも近い距離とこの見下ろされる視線に思わずビビってしまい声をかけるタイミングを失ってしまった。



「ん?真ちゃんになんか用?」
「え、いや…」
「……」
「………」

あまり目つきがよろしくない緑間君とかっちり目が合って睨まれてる気分になっていれば高尾君が間に入ってを覗き込んだ。うっ高尾君、いい人なんだけどこのグイグイ来る感じちょっと怖いです…。

なんとなく身を引けば高尾君もにこやかな顔で1歩足を踏み出すので余計にビクつくいてしまう。
な、何を考えているのかわからない…そんな気持ちで顔色を悪くすれば黒子君が割って入ってくれた。お、お手数をおかけします…。


「おっ何だよ黒子、いっちょまえにナイト気どりか?」
「違います。緑間君もさんを睨まないでください」
「…!に、睨んでないのだよ!」

人の顔をじろじろと見るから気になっただけなのだよ!と軽くキレた緑間君にビクッと肩を揺らせば高尾君が「真ちゃんキレんなよ。ちゃん怖がるだろ」と見透かされ冷や汗が流れた。
ヤバい。この流れは相手をただイラつかせて怒らせるパターンだ。わ、私がしっかりせねば!!


「い、いい、いや!た、たいしたことなんだけど、高尾君に渡したお釣り、貰ったかなって」
「お釣り?」
「ちょ!ちゃんそりゃねーよ!俺ネコババしねーって」

ヒデーな!と笑う高尾君には顔を青くして彼に謝った。ヤバい。言葉の選択誤った!被害が拡大してる!これじゃ高尾君のこと疑ってるみたいじゃないか。
そういうわけじゃないんです!違うんです!高尾君は悪くないです!



動揺を露わにあわあわしていると「ちゃんと渡したって。な、真ちゃん」と高尾君が緑間君を見やり、眼鏡のブリッジを弄った彼は溜息交じりに「…貰ったのだよ」と返してくれた。小心者ですみません。

「そ、そっか!じゃあ良かったです!ははっすみません!じゃ、じゃあ…ぶっ」

できうる限り明るく返してみたが怪しさしか感じれなくては恥ずかしくて恥ずかしくて逃げようとその場を去ろうとした。が、踵を返してすぐ何かにぶつかってしまった。


「…っぶねーな」
「……っ!?」

ぶつかった相手を見れば顔は幼さを残しているがこちらも首が痛くなるほどに背が高く、金髪に程近い茶髪の秀徳の宮地清志さんが不機嫌そうな顔でを見下ろした。
この先輩、確かことあるごとに緑間君達に轢くとか殺すとかかなり危険な言葉を浴びせてる人じゃないか…?!


「ご、ご、ご、ごめんなさいいいいいっ!」


逆らったら殺される…!そんな考えが駆け巡ったは何かいおうとした宮地さんに震え上がり今度こそ脱兎のごとく逃げ出したのだった。



*



殆ど泣き顔のさんが逃げていった出入口を見つめたまま茫然と固まる宮地さんに高尾君はぶはっと噴き出すと「ちゃんっておもしれーな!」と笑い、黒子の肩を叩いた。

そんな彼に呆れて「さんで遊ばないでください…」といってみたが恐らく伝わっていないだろう。黒子自身もあたふたと困っているさんがちょっと可愛い、と思っていた。


「…俺はただ大丈夫かって聞こうとしただけなんだが…」
「宮地さんこえーから逃げられたんじゃないっスかー?」
「あ゛あ?高尾埋められてーのか?」

なんとなく哀愁漂う宮地さんにこれまた可笑しそうに高尾君はつっこんだが勿論彼の逆鱗に触れ、蹴りを食らったのはいうまでもない。


「……やってられんのだよ」

そして、なんだかんだといいながらもちゃんと最後まで見届けた緑間君が盛大な溜息を吐きコートへと入っていったのだった。




2019/06/16
宮地さん好きなんだけど出番はこれくらいしかない…。