22


缶ジュースを買ってこいとパシリにされたと思ったら忘れられ(黒子じゃねーのに)、汗を流そうとしたら湯船の栓が抜かれてシャワーしか浴びれなかった。

散々な1日にまさか夕飯までないとかいわないよな?と不安になりつつも食堂を覗くと電気は点いているものの、調理場は真っ暗だった。

「あれ、」

マジかよ…と肩を落としつつも空腹に耐えられず、とにかく何か食べるものをと食堂に入ると視界の端に誰かがいるのを見つけた。

視線をそちらにやれば奥のテーブルで突っ伏して寝ている人物がいる。一瞬、幽霊かと思って少しビビっていた火神はホッと息を吐きそちらに近づいた。
横顔を確認すれば誠凛マネージャーのがすやすやと肩にタオルをかけ眠っている。


「おい。こんなとこで寝てると風邪ひくぞ」


それでなくともはか弱いのだ。痛くない程度に肩を揺すってみたが当の本人は眉を寄せたくらいで起きる気配はない。思ったよりも深く眠っているようだ。

夕飯を食べに来た火神だったが、眠っている彼女を見ていたら冷蔵庫の中を漁ったり調理場で料理をするのが億劫に感じて、椅子を引きの隣に腰かけた。



頬杖をつき隣で眠るを見るとやはり起きる気配はない。腕を枕代わりに寝ている彼女の背中は規則正しく上下に動いていて、試しに頭に手を置いても起きなかった。
顔にこぼれ落ちた邪魔そうな髪を掬い耳にかけると彼女の寝顔が良く見え、いつも彼女を悩ませているらしい目の下のクマが強く出ているように見えた。

日焼けして頬が赤いままだがそれでクマを消してくれるわけではないらしい。自分もへとへとだがも大変だったようだ。


今日もよく頑張ったな、と褒めるように撫でればこれまた柔らかい髪の感触が火神の指の間をすり抜けむず痒くなった。
肩は細いし柔らかいし髪の毛までふわふわでやんの。本気で掴んだら壊れそうだな。

心地よさそうに寝ているを見ていたら自分も眠気がやってきて俺も寝ちまおーかな…と欠伸をかいた。


「全然起きませんね」
「!!??っうわああああってめっ黒子!いつから?!」
「煩いですよ火神君」

飯も明日でいいかもな。と諦めたところで前から声がかかり、見ればの前の席に座って同じように突っ伏して顔だけこちらに向けている黒子と目が合い椅子から転げ落ちそうになった。お前は俺の心臓を止める気か。

しかし煩いといわれ、寝ているを思い出し隣を見やるとやっぱり寝ていて良かったような悪かったような複雑の気持ちになった。



「い、いつからいたんだよ…」
「最初からいましたよ」

こういう場合、確認したところで後の祭りなのだけど、試しに聞いたらとても想定内のことを返され頭を抱えたくなった。
何もかも柔らかいな、とか、壊さないようにそっと撫でていたところも見られたってことか…。なにそれ、恥ずいだろ。

「…つーか黒子。ここで落ちる前に部屋で寝るようにいってやれよ。風邪ひくだろ」
「いいましたよ。ですが火神君を待つというのでボクも一緒に待っていただけです」

動揺を悟られないようにぼやいてみたが待っていたという言葉にまたを見やった。


「火神君のご飯、ちゃんと残ってますよ」
「お、おう…」

今日は生姜焼きです。と答える黒子に火神はもう少し早く帰ってくればよかったな、と思った。待たせて悪かったな、と再度彼女の頭を撫でると瞼が震え、ゆっくりと開いた。

「?あれ。火神君…?」

いつの間に来たの?と目を擦りながら身を起こしたは手で口を隠しつつ欠伸を噛み殺した。
そして席を立つと「待ってて。今ご飯用意するから」とふらついた足取りで調理場へと向かって行く。あ、椅子に引っ掛かりやがった。

「……」
「あ?なんだよ」

危なっかしいな。おぼつかない足取りが気になっての後ろ姿をじっと見つめていれば、何となく視線を感じ横目で見やった。何か言いたげな瞳が火神を見上げていて、何となく顔をしかめてしまう。



「ボクは火神君のこと、好きですよ」
「はあ?!」
さんのことも好きです」
「……いやそれ、並べるもんじゃなくねーか?」
「?そうですか?」

明け透けにとんでもない告白をされぎょっとした火神だったが続いた言葉に疑問符を浮かべながら眉を寄せた。
普通は男女別に考えねーか?と遠回しに聞けばガラス玉のような瞳を持った相棒が首を傾げやがった。恋愛のそれ、とかじゃねーのかよ。


「ボクにとってはどちらも大切な人ですよ。特にさんには中学の時のお礼もまだできていませんし」


時折、黒子の言葉はむず痒くて少し居た堪れない気持ちにさせられるが、いいたいことはなんとなくわかった。そしてこいつら似てるな、とも思った。

も同じこといってたわ」
「?」
「黒子に返しきれないほど恩があるんだってよ」

それを返したいんだと、と教えてやれば黒子は照れくさそうに目を細め「返しきれない程貰ったのはボクの方ですよ」と小さく呟き、そのまま席を立つと調理場にいるの元へと向かった。

話しかけた黒子はの乱れた髪を整えたり頬の跡を教えたりしている。指摘され慌てるに黒子は小さく笑うと彼女もつられて笑いそれだけで2人の世界だな、と見てとれた。



「つーか、…ったく」

それを見ていたら何となく取り残されてる感じがして、少し面白くなくて火神も頭を掻き席を立つと彼らの元に赴き一緒に夕飯の支度をするのだった。




2019/06/17
意外と火神の入浴シーン多いですよね(裸的な意味で)。