23
「マネージャー!」
選手達が汗してきつい練習をこなしてる中、も同じように走り回っていると木吉先輩に呼ばれた。
木吉先輩はを手招きすると壁際まで寄り対面する形で立った。なかなかの高身長である。
ガタイも良いからちょっと怖いけど水戸部先輩とはまた違った柔らかさがあってあまり怖く感じないのが有難い。どうしましたか?と聞くと木吉先輩は顎に手をあての顔をじっと見つめた。
「うーん。やっぱり赤いな」
「はい?」
「具合は?」
「え?大丈夫ですけど…」
どうやらの体調を気遣ってくれてるようだ。赤い顔は日焼けのせいだと思うけどそんなに赤いかな?と頬に手をあてれば額に何か触れた。視線をあげれば木吉先輩の大きな手がの熱を測っている。
「ちょっと熱いな。…日向、いいよな?」
額にあてていた手を放し、近くにいた日向先輩に声をかけると、一旦を見、「ああ。構わねーぜ」と同意した。もしかして既に話し合いが済んだ上での呼び出しでしょうか。
それともそこまで私の顔色がよくないのかな?ろくに会話もなくOKを貰ってしまったことに驚いていると満足げに頷いた木吉先輩がこちらに向き直った。
「というわけで休憩とってこい」
「え?」
「水分と涼しい場所…旅館ならクーラーも効いてるからそっちで休むこと」
「で、でも」
「拒否権はないぞ。主将と先輩命令だ」
リコにはいっとくから行ってこい。そういって木吉先輩はを回れ右をさせ背中を押したのだった。
木吉先輩って結構強引だ。適当な場所が思いつかなくて食堂で休みながらそんなことを思った。そこまで悪くないと思うけど顔にあてた冷たいペットボトルはかなり心地よいからそれなりに熱があるのかもしれない。
「ふわぁっ」
それよりも眠気ヤバいかも。欠伸をしながら頭を振った。ダメだ。このままだと寝てしまう。何か考えながら寝ないようにしないと。
えっとこの後はドリンクを作って足りない調味料買い足して…あ、でもその前に洗濯物を干さないと…。
「あ、洗濯機!」
そういえばみんなのタオルを洗濯機に入れたままだった。もう洗濯が終わってるはず、そう思い立ち上がったは食堂を出てランドリーへと向かった。
「あ、れ…?」
しかし、食堂から数メートルもいかないところで目の前が暗転し気づいた時には床面がぼやけるほど近くに見えた。あれ?私倒れてる?そう思い、手をつき起き上がろうとしたがうまく力が入らない。
何度か震える手を動かしてみたが肝心の胴体が持ち上がる気がしない。あ、これヤバいかも。
「(ヤバいけど、でも、床が冷たくて気持ちいいな…)」
頬に張り付いた床が思いの外冷たくて気持ちいい。ダルさもどんどん増してきて瞼も重くなってきた。少し。少しだけこのまま寝てもいいだろうか。寝たら回復するだろうし。
身体が鉛のように重く沈むような感覚に陥りながら、あと5分だけ目を閉じたら起きよう、そう思い意識を手放したのだった。
*
揺り動かされる感覚に瞼をこじ開ける。ぼんやりとした感覚の中で身体が動いた気がした。
「……い、………おい、おい。大丈夫か?」
「……みど、りま、くん…?」
光と一緒に入ってきた光景はいつもよりもかなり近い距離にある緑間くんだった。
あれ?私いつのまに緑間君の身長に追いついたのだろう?
なんてことを考えたが思考が定まらず、身体の重さは相変わらずで沈む感覚と一緒に瞼も降りてきて心配そうに覗き込む彼を見つめながらまた眠りに落ちた。
*
再び意識が浮上して目を開けると明るい視界の中で高尾君が心配そうにこちらを見ていた。
「ちゃん大丈夫か?」
「…?」
「おい真ちゃん!ちゃん目ぇ覚めたぞ!!」
さっきまで空を飛んでいたは夢とは違う体勢に気がついた。そこでさっきまで見ていたのは夢だと気づく。それ以前に飛べないということを更に後で気づくのだけど。
ぼんやりした感覚で身体を起こそうとしたらぽたりと額から何かが落ちた。
「大声をあげなくてもわかっているのだよ」
「だあ!動くなって!まだ安静にしてろ」
「??」
「これがわかるか?」
「……3?」
慌てた高尾君がをまた寝転がせ、額にびたんと落としたものを押し付けた。あ、濡れタオルだ。
無理矢理寝せられたので脳が揺れた気がしたが近くに座り込んだ緑間君がテーピングを巻いた指を3本立てたのはわかった。の反応に安堵した緑間君は高尾君を見、彼も安堵の息を漏らす。
「ちゃん。何か飲む?」
喉乾いてるだろ?という言葉に素直に頷いた。確かに喉がひりつく感じがする。高尾君と緑間君に挟まれるようにいるはどうやら布団に寝かされていたらしい。
何故?と考えたところで高尾君に起こしてもらう時にまた額に置いていたタオルが落ちてそこで思考がタオルに移った。
「大丈夫か?自分で飲める?」
「…多分、」
高尾君に支えられながらペットボトルを受け取ったが手の中のポカリ〇エットがやたらと重く感じた。大丈夫か私。
「高尾。何故蓋を開けずに渡すのだ」
「あ、悪ぃ」
プルプルと震える手にどうやってキャップを開けようか、と考えていたらそのペットボトルを緑間君が抜き取り蓋を開けて返してくれた。美味しい。
「ここは…?」
「秀徳が寝泊まりしてる大部屋。本当はちゃん達の部屋に連れてくつもりだったんだけどテンパった真ちゃんがこっちに連れてきちまったんだよ」
喉を潤し、再度寝かせてもらい額にもタオルを乗せてもらったは周りを見回し聞いてみると高尾君が笑ってそんなことを教えてくれた。
「なっ!それは仕方ないことだろう!元はといえばお前が」
「へーへー。そう怒りなさんなって。またちゃんが怖がるだろ」
「……っ」
「にしてもちゃんが倒れてるの見つけた時はマジビビったぜ」
「……あ、(そういえば)」
「けどまあ、なんともなさそうで良かったよ。な。真ちゃん」
「……」
わいわいと言い合っている2人を眺めていたら緑間君がいきなりこっちを見てきたので何度か目を瞬かせた。あ、私の名前が出たのか。
なんとなく逸らせないままでいると高尾君が「お陰で今日は布団争奪戦だけど」とニヤつき、それを聞いた緑間君は慌てた様子で「高尾!」と叱っていた。仲がいいなぁ。
「!」
まどろみ半分で高尾君と緑間君のやりとりを見ているといきなり部屋のドアが開き、リコ先輩が心配した顔で入ってきた。
その後には黒子君や先輩等火神以外の誠凛メンバーが揃っていて「な、なんなのだよ!」と緑間君が嫌そうに叫んでいる。
「話を聞いてビックリしたわよ?!大丈夫なの?」
「はい、なんとか…」
心配するリコ先輩になんともないと空元気を出して笑ってみたが起き上がろうと突っ張った腕はかくんと力が抜けそのまま倒れそうになる。しかし、布団に落ちる前に誰かにぶつかった。木吉先輩だ。
「うん。顔色は少し戻ったな……面倒みてくれてありがとうな」
「いえ…」
彼を見上げればを安心させるように微笑み、緑間君達に礼をいっている。眼鏡のブリッジを弄る緑間君を眺めていれば、の視線に気づいた彼と目が合った。
何か言いたげな顔になんだろう、と首を傾げると身体がふわりと浮いた。
「先輩。さんはボクが」
「いいって。黒子も練習で足限界だろ?俺はまだ少し余裕あっから」
高くなった視界に少し驚き心許ない体勢に視線を動かすといつもとは逆に見下ろす形で黒子君の顔が見えた。
彼の顔はいつもよりもわかりやすく不安げな表情を出していて、手を差し伸べ彼の頭を撫でれば困ったように眉尻を下げた。
「ボクは大丈夫ですから。さんは自分の心配をしてください」
元気づけるように薄く笑った黒子君を確認したはホッとしたように息を吐くとゆっくりと瞼を閉じ、そのまままた意識を手放したのだった。
2019/06/20
秀徳コンビに介抱してもらう(どっちもお兄ちゃんとか萌ですな)