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次の日の朝、武田先生に付き添われながら秀徳の中谷監督に一昨日の件でお礼をいいに行き、後片付けに戻ると秀徳の人達が食堂に行く姿を見つけた。
「あ、あの!」
緑間君の姿を早々に見つけたが、すんなり声をかけれず空気を噛み、彼の隣に高尾君がいたのを見つけ勇気を振り絞って声をかけた。
ただし、声をかけた際、近くにいた人達も一斉にこちらを見てきてビクッと肩が揺れてしまったけど。
一心に見つめたお陰か目が合った高尾君は眠そうな顔をパッと明るくすると「ちゃんじゃん!」と来た道を戻ってきてくれた。
「もう起きても大丈夫なのか?」
「うん。ちゃんと寝たから大丈夫!」
精一杯元気アピールをしてみたものの高尾君は笑ったまま「本当か〜?」といっての頬を軽く抓ってくる。どうやら膝のサポーターが気になるらしい。
痛みを感じるまでは気づかなかったが倒れた時にしこたまぶつけてしまったのだ。お風呂で確認してあまりの青さに自分がドン引きしたくらい腫れ方も範囲も尋常じゃなかった。
「やっぱ酷くなったか…腫れてたもんな」
「それもだけど、膝だからリコ先輩が心配して色々してくれたの」
「まぁな。皿にヒビ入ってるようならシャレになんねーし」
「ヒビが入っていたのなら歩くことも困難なのだよ」
はぁ、と溜息と一緒に緑間君がやってくるとの視界が一気に圧迫された感じがする。
高尾君と一緒に立ち止まってくれたもののしばらくこちらを伺うように見ていただけだったのでてっきりあのまま食堂に行ってしまうかと思っていたから少しホッとした。
だってお礼をいわなきゃいけないもう1人は彼なのだから。
「あの、高尾君も緑間君もありがとう。ご迷惑をおかけしました」
「まったくなのだよ」
「真ちゃん、」
「あの、それと緑間君には特にお世話になったみたいで……私、重かったでしょ?」
ごめんね。と謝れば緑間君は驚いたように目を見開いた。正直あの時のことは殆ど覚えていないが多分私は緑間君に抱きかかえられ移動したのだろう。
だから空を飛ぶ夢を見た気がしてお礼と一緒に緑間君を見れば、彼は眼鏡のブリッジを弄り「重くはなかったのだよ」といい難そうに返した。
「むしろもう少し重い方がいい」
「え、」
「お前の身長を考えると平均よりも少ないくらいだ。まだまだ暑い日が続くのだから食べたくなくとも栄養を摂取した方がいい」
でないとまた倒れるぞ。という正論に驚きながらも素直に頷いた。
「真ちゃんデリカシーなさすぎ」
「なっ!俺は間違ったことなど」
「いってねーけど、それ本人目の前にしていうことじゃないっしょ」
あと直球過ぎ。相手は女の子なんだから、と呆れた顔で窘める高尾君に緑間君は狼狽した顔で彼を睨んだがの視線に気がつくと隠すように咳払いをしてこちらに向き直った。
まだ慣れてない距離感と視線の強さにピッと姿勢を正すと彼はポケットから何かを取り出し、の前に差し出した。
「黒子からお前の星座を聞いた」
「??」
「今日のおは朝のラッキーアイテムはこれなのだよ」
持っておけ。といわれ、よくわからないまま両手を差し出すと緑色のお守りが手の平に落ちた。
ラッキーアイテム?と緑間君を見上げると彼は眉を寄せたがどこか照れくさそうに「また倒れられても面倒だからな」といって視線を逸らした。
「…それはいいんだけどさぁ。そこはせめて『交通安全』じゃなくて『健康第一』じゃねーの?」
「持っていたのがこれしかなかったのだよ!!」
の手元を覗き込んだ高尾君がお守りに書いてある文字にクレームをつけたが手持ちはこれしかなかったらしい。
からしてみれば何でラッキーアイテム?だったが、緑間君なりにのことを心配してくれてるのは伝わってきて自然と口許が緩んだ。
「うん。緑間君ありがとう。大事にするね」
イベント以外で人から貰うのは久しぶりだ、とそれがこそばゆくも嬉しくて緑間君にお礼を言うと彼は固まったようにを見て、それから「か、勝手にするのだよ!」と何故か慌ただしげに食堂へと行ってしまった。
「あ〜らら。真ちゃん照れちゃって」
「そうなの?」
怒ってるような戸惑ってるような曖昧な態度に驚いていれば高尾君がニヤついた顔で教えてくれ、それに反応するように「照れてないのだよ!」と角の向こうから緑間君の声が聞こえ、高尾君が吹き出した。
緑間君って思った以上にいい人なのかもしれないな。
「あー笑った笑った。真ちゃんってば面白すぎ」
「高尾君もありがとうね」
お腹を抱え涙目になるまで笑った高尾君に再度お礼をいうと彼は驚いた顔をして、それからいつもより綺麗に笑い「どういたしまして」といっての後ろ頭に手を差し入れた。
思ってもみない行動に驚いているとそのまま彼に引っ張られ思わず高尾君の胸に手をついてしまう。少し高い体温にドキリとしながら見上げれば、彼はの額にキスをしていた。
「ちゃんの顔、ハトに豆鉄砲ってやつ?」
すっげー面白いんだけど。と笑う高尾君に何をどう返したらいいのかわからず困惑してしまう。
それはほんの一瞬であっという間に高尾君は離れていたけど額に残る感触は意外にもしっかり残った。
少なからず動揺してるがわかったのか高尾君もだんだん照れたような笑顔になり頭を掻いた。
「ま、気を付けて帰って。さっきのはその……無事家に帰れるおまじないみたいなやつだと思ってよ」
「……う、うん…」
なんとなくお互い照れくさいようななんともいえない空気を纏ったまま言葉を交わすと「じゃ、俺、飯食べてくるわ」といって踵を返した。
「高尾君。あの……またね」
「寄り道せずちゃんと休むんだぞー」
次会った時具合悪くしてたらお仕置きだからな、と笑う高尾君に少し本気を感じて顔を引きつらせながらも彼に手を振ったのだった。
2019/06/22
あいりすぺくちゅー(笑)