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突如、降ってきた雨は止むことを知らず、試合は結局中止になってしまった。

黒子は雨宿りに入った駅の改札口前で空を見上げた。先程会った紫原君のことを思い出しふぅ、と溜息を吐く。彼は相変わらずだった。相変わらずバスケのことが好きではないらしい。


「カントクが今から学校来いって」

少し濡れた2号のこともタオルで拭いていると携帯を見ていた火神君がカントクからの呼び出しメールが来たことを告げる。自分も確認すれば同じ内容の文があり、一斉送信でメールが来たのだとわかった。


「でもどうする?結局マネージャーと会えてないんだけど…」
「ったく。電話にも出ねーとかどういうことだよ。黒子、お前も繋がんねーのか?」
「はい。メールも電話も繋がりませんね…」
「この雨だしどっかで雨宿りしてくれてるならいいが……」
「だとしても連絡ひとつ寄越さねーとかあいつ何考えてんだよ」
「…もしかして、何かに巻き込まれたとか?」
「え、やめろよ。そういうの」

こえーだろ、という降旗君にみんなが沈黙した。恐らくあまり良くない考えがみんなに過ったのだろう。黒子も不安に思い携帯をもう一度開いてみたが新着メールも着信記録もなかった。


「とりあえず傘買ってこの辺り探してみるか……て、あれ?メール来てる」

マネージャーからだ。その言葉に黒子はバッと顔を上げ木吉先輩を見た。火神君達も驚きを露わに顔を上げた。
ポケットから携帯を取り出した木吉先輩は驚きながらも「雨だから先に帰るって。もう家にいるらしいぞ」と来たメールを読み上げると一同から安堵の息が漏れる。



「つーか!何でさっさと帰ってんだよアイツは!」
「まあいいじゃないか。無事だってわかったんだから……んじゃ俺達も行くぞ」

火神君は憎まれ口を叩いたが、それだけ彼が心配していたのだとわかっていたのでみんな呆れながらも荷物を持ち木吉先輩に続いた。

「あ……」
「?どうした?黒子」

黒子も2号をバッグに入れ、立ち上がろうとしたがふとしたことを思い出し動きを止めた。
バッグを持っていないもう片方の手には試合中雨に濡れないように誰かが2号に被せてくれたキャップがある。愛想がいい2号は大会中いろんな人に可愛がられていたのを何度か見ていた。

その中の1人が雨に濡れないように被せてくれたのだと思っていた…けれど。


「それ、落とし物だろ?届けてくるの忘れちまったな」
「…そう、ですね」

改札前で振り返った火神君がそんなことをいったが黒子はキャップを見つめながらそぞろな返事しか返せなかった。



なんだろう。このいいようのない不安は。



*



「テツくーん!またいつかバスケしようね!…みんなで!」

青峰君とケンカした桃井さんを途中まで送り、彼女の笑顔を確認した黒子は手を振り駅への階段を下がっていく彼女の背を見届け歩きだした。

桃井さんは心配していたけれど彼女が思う以上に青峰君は桃井さんを信頼しているし彼女を気にかけているのだ。ただ幼馴染故かどうしても素直になりきれずケンカをしてしまうことが多くて。

自分の情報がどれほど役に立つはわからないけど、でもきっと大丈夫だろう。そう思い足元に視線を落とせばいると思っていた2号の姿がなかった。

「ワン!」

2号の声を追いかけるように近づくと誰かが黒子と同じように2号を見つめている。夜の繁華街は外灯の他にもたくさんの光に溢れていて視認しやすい。そのお陰で相手の顔も良く見えた。


、さん…?」


2号の前に立っていたのは今日1日会えなかったさんで、黒子は目を見開いた。
半乾きの髪は無造作に下ろされいて、Tシャツよりも首周りの大きなチュニックは妙に彼女の鎖骨と足の細さを強調しているようで内心ドキリとした。

けれどそれもほんの一瞬思っただけで顔を見てすぐにたち消えた。泣き腫らしたような、ひどく疲れた顔に黒子の胸が軋んだ。脳裏で福田君の言葉が蘇る。



違う。いたんだ。さんは。あのコートに。紫原くんがいたあの場所に。

なんとかそこまで思考できたが黒子も動揺して何をいったらいいかわからず、とにかく彼女の手を掴まねばと手を伸ばしたが空を切った。
彼女を見れば今にも壊れそうな顔で黒子から顔を逸らすとそのまま逃げるように背を向けたのだった。




2019/06/25