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青峰にしごかれた筋肉痛も何とか治り、また自堕落な生活を満喫していると携帯が点滅してることに気がついた。
気だるげに中を確認すれば火神からの着信で眉が寄った。

部活に行っていないから説教をするつもりなのだろう。確かに体育館には行ってないけど。でもこれでもこっそり覗きに行ってタオルの洗濯くらいはしているのだ。

リコ先輩や日向先輩にはバレてて連絡来たけど火神はまだ気づいていないらしい。


「めんど、」


ぽいっと携帯を投げ出したはそのまま起き上がると観ていたDVDを止め、部屋を出た。

あれ以来黒子君から連絡は来ていない。多分の言葉を鵜呑みにして本当に待っていてくれてるんだろう。
頭の方は大分冷えたと思う。ただタイミングを見誤ってしまったみたいで、部活に顔を出すことも黒子君に連絡する勇気もないままだ。



夕方、母親に頼まれたおつかいで渋々外に出たは部屋着にパーカーの出で立ちで歩いていた。
周りを見ればいつもより活気があって視線を見上げれば提灯が垂れ下がっている。ああ、お祭りなのか。

そういえばお祭りも大分行ってないな、と思いつつ横を通り過ぎた。

人通りの少ない裏道を通ってスーパーで買い物を終えたはまた同じような道順で帰っていると、ふと、向こうの角に見覚えのある頭を見つけた。というかあんなデカい奴を見落とす方が無理かもしれない。

火神君だ、と顔を引きつらせるとその近くにいた人物も目に入った。
彼は見覚えありまくりのキャップを被っているが間違いなく黒子君だ。

アイスを食べてる2人に屋台のものじゃないのか?と内心つっこんだがあんまり見ていると見つかりそうな気がしたのでパーカーのフードを被りそそくさと家路についた。


無心で帰ってきたは頼まれたものを母親に渡すとそのまま部屋に戻りベッドにダイブした。心臓に悪いなこれ…。
このまま2学期始まったらどうしたらいいんだろう。そんなことを考えていたらピンポンと呼び鈴が鳴った。

こんな時間に誰だ?と思ったが宅配か何かかなと思って目を閉じていると母親がを呼んできた。にお客さんらしい。私の家に来るような奇特な人いないんですけど。



「いないっていって」
「来てくれてるのに悪いじゃない」

相手はバスケ部のお友達なのに。そこまで聞いてバッと顔を上げた。今なんと?
もう一度母親から聞けば、今来ているのはバスケ部の部員2人で、片方はとてもしっかりした体格の大きな子で、もう1人はが持っているのと同じキャップを被った男の子らしい。

それを聞いたは顔を青くさせた。
だから近所の祭りに来ていたのか。


「帽子の子って、中学の時何度かのこと送ってくれたあの黒子君でしょ?」
「……」
「同じ高校で同じ部活って…あなた達随分仲良かったのね」

しみじみと零す母親には顔色悪くそんなこともありましたね、と小さく返し顔を逸らした。
知らない学友ならともかく、見知りで恩人レベルの部活仲間が来てしまったことで「来てもらってるのに追い返すのは悪いでしょ」と至極まともに母親に返されてしまったは門先で待つ彼らと対面せざるえなかった。



ガチャリといつもより重いドアを開ければさっき見た2人が立っていて、はドアを閉めたい気持ちを必死に抑えた。

「よお。随分と遅かったじゃねーか」

ムスッとした顔で出迎える火神には「着替えてたので」としか返せなかった。
洗濯したとはいえ今日の格好はこの前ストリートバスケに着ていったものと同じものだ。この格好一式は引率で行くと決まった帰りに慌てて買ってきた。

ファッション雑誌もろくに読んでないしお年玉貯金から下ろすことになったけど、マネキンが着ていた服一式で買ったので多分大外れはないだろう。似合うかどうかは置いといて。

しかし、そのせいで黒子君の顔は見れなかった。だって彼だけにはこの格好を見られたのだ。これしか持ってないのか。と思われてもその通りなのだけど、やっぱり思われてても知るのは怖い。


「んじゃ、まあ行くか」
「え、どこに?」
「どこにって祭りだよ。お前まだ飯食ってねーだろ」
「食べてないけど、これから食べるし…ていうか、お金持ってきてないし」

むしろその気配を察知して持ってきてなかったのだけど。2人で楽しんできなよ、と口を開こうとしたら片方の手が温かくなった。


「お金はボクが払います。だから行きましょう」


その手が少し強張っていて、いつもよりも緊張している触れ方には顔を逸らしたまま頷くしかなかった。




2019/06/29