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日が落ちてきて外灯や提灯に明かりが灯る。それはなかなかに綺麗で、でも人の多さにはちょっとだけうんざりしていた。
祭りは商店街込みで行われている。そこそこ大きいがそこまで大きいわけじゃない。そんな言い回しになるのは隣で食べてる火神が既に屋台を網羅してしまったからだ。


「他に店はねーのか?」
「あるとしたらファミレスかコンビニくらいしかないよ」

何その両手に抱えてるものは。まだ足りないっていうのか。どんだけの胃袋なのよ。規格外にも程があるでしょ、と呆れた顔で見ていれば黒子君が持っていたたこ焼きを差し出してきた。


さんも食べませんか?」
「あ、ありがと…」

正直小腹程度なのだけど黒子君に差し出されると断りづらくてつまようじに刺さったたこ焼きを1つ頬張った。


回るだけ回った後、達は近くの公園に来ていた。そこは祭りから流れた人達がまばらにいて皆買ってきたものを食べたり話し込んだりしている。
日は大分落ちていて少し離れると顔が見えないくらいだが手元は外灯でも見えるくらいの暗さだ。達も違わず買ってきた戦利品を持って近くのベンチ…ではなく、座りやすそうな花壇の縁に座った。



「日本ってこじんまりしてるよな」

祭りも他のも、と零す火神は焼きそばに手を付けていた。ついさっきまで串焼きを食べてた気がしたんだけど。

「まあ、町内の祭りだしこんなもんじゃない?でも大きいとこは大きいらしいよ」
「行ったことないのかよ」
「ないね」

というか1人で祭りに行くとかそんな勇気ないわ。居た堪れなくて5分で帰ってくる自信しかない。
「ふーん」と焼きそばを頬張る火神に自分はどうなのかと聞けば結構行ってるらしい。やっぱりアメリカは規模が違うんだろうか。


「ボクも誰かとしか行ってませんね」
「そうなのか?」
「1人だと声をかけても気づいてもらえないことが多いので」
「「ああ…」」

そうだった。黒子君はそういう人だった。そういえば今日も火神が頼んだものと一緒に頼んでいた気がする。
隣を見れば同じように黒子君が焼きそばを食べていて、珍しく食べてるなと思った。黒子君は小食のイメージがあるんだよね。


さんも食べますか?」
「ううん。大丈夫」
「つーかお前全然食べてなくねーか?」

気を遣ってんのか?と頬をパンパンにして聞いてくる火神には呆れた顔になって「火神君見てると何かお腹いっぱいになるのよ」と返しておいた。現に食べなくてもいいような気分になっている。



「夏バテではないですか?」
「夏バテにはなってないと思うよ。あんまり食欲ないだけ」
「それ夏バテの一歩手前じゃねーか?」
「いやむしろ火神君が私の食欲奪ってるんだけど」

キミ達は私を夏バテにしたいのか?
普通こんだけ食べてる姿見てたら食欲減らない?黒子君ならわかってくれると思ったのに…とがっくりと肩を落とすと焼きそばを食べ終えたらしい火神が「よし、」と立ち上がった。まさか。


「もっかい行ってくるわ」
「嘘でしょ」

まだ食べるつもり?!とおののけば火神はさも当然という顔で「まだ5割もいってねーよ」とのたまった。マジか。

「では、飲み物をお願いします」
「わかった。は?」
「え……あ、うん。お願いします」

呆気に取られていたが自分の飲み物が殆どないことを今更気づいてお願いした。
手持ちのゴミをまとめ「ゴミ箱ってあったっけ?」という火神にそれらしい場所とコンビニに行けば捨てれると教えると彼はさっさと公園を出て行ってしまった。



そこでは重大なことに気づいた。しまった。黒子君と2人きりだ。
最初こそ緊張したけど、話したり食べたりしていくうちになんとなく前の感覚が戻ってきて今の今迄自分が黒子君にしたことをすっかり忘れていた。

黒子君も普通に接してくるんだもん。頭が下がる。

急に緊張してきて大きく深呼吸したは持っていたペットボトルを握りしめた。中身が入ってないせいか少し力を入れるとペコ、という音がする。その音がやたらと響いたので何となく恥ずかしくて地面に置いた。


「この前は気づけなくてすみませんでした」


何か話題を…、と手汗を拭いていたところで先に黒子君が切り出した。

「え、あ、いや!私こそ酷いこといってごめん」
さんは悪くないです。紫原君を見た時すぐに気づくべきでした」

さんは何も悪くないです、再度繰り返す黒子君には隣にいる彼を見やった。黒子君はの方ではなく前を向いていて、それが何となく彼も緊張してるように見えた。


黒子君には紫原君の話もしたことがある。ただ、1番キツイ出来事が黄瀬君絡みだった為あまり話題にしなかった。
にとっては死を覚悟させられた相手だけど、大袈裟だし何より黒子君のチームメイトをそんな風に貶めるのは悪い気がしてあまり喋らなかったのもある。

だから忘れてても何の問題もなかったのだけど黒子君はちゃんと思い出してくれたらしい。



「ううん。気にしないで。逃げてた私も悪かったし」

むしろ腹を括れずいつまでもうじうじ逃げてた自分が悪い。そう思い言葉にすると黒子君がこちらに顔を向けてきた。どういうことですか?といわんばかりの表情には恥ずかしそうに頬を掻いた。

「いや、その、あーなんというか、ね。実は、その、私服なるものがないの、ですよ」
「え?」
「えと、外に出れるくらいのは持ってるよ?でもさ。友達と出かける服がね…なくてね」

もう何を告白しているのだろうか。1歩間違えば自分の家が相当な貧乏だと思われかねない話に頭を抱えた。穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。


「ホラ、私、インドアで出かけないし、休みに遊ばなくなったから…おしゃれなんかもういっか!てなっちゃって」
「ですが今日の格好はおしゃれだと思いますよ?」
「……いや、これは、前日に急いで買ってきたんだよね…」

なのでこの一張羅しかまともな服がございません…と絞り出すように答えれば暫し沈黙した後黒子君がフッと息を吐いた。



「凄く、似合ってますよ」
「え、」
「可愛いです」
「や、あの、そういうの、いいから。褒めないで…普通に照れるから……」

いきなりカウンターで褒められは顔が熱くなった。何でこうも簡単に褒めるの黒子君。嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を覆うとさらりと黒子君の指がの髪に触れた。
梳くような指の動きにはむず痒くなりながらもされるがままでいると「手はもう大丈夫ですか?」と聞かれた。

「うん。まあ、思いきりぶつけたから次の日痛かったけど…」
「ヒビとか入ってませんか?」
「うん。内出血はしてたけど今はもう痛みないよ」


まるで、2号みたいだ、と思ったがはハッとなった。

「ごめんなさい。2号の散歩してないや」
「大丈夫ですよ。ボクが代わりにしてますから」
「ごめん。ありがとう」

あーもう。自分の運動不足解消が全然できてないじゃん。何やってんだ私、という意味も込めて「あー…」と情けない声を漏らせば髪を梳いていた黒子君の手がの頭を撫でた。

それがまるで仕方ないよ、大丈夫だよ、と言われてるみたいで涙が出る。というか鼻が痛くて涙が滲んだ。


「黒子君、あんま甘やかさないで…ダメな子になる」
「甘やかしてはいませんよ。優しくしたい…とは思ってますが」

それが甘やかしてると思うのですが。優しく頭を撫でる手に甘やかすのと優しいの境がわからなくて、でも振り払えなくて大人しくしていると彼の手がそっとの背に回り、やんわりと抱きしめられた。



「怖い思いをさせて、すみませんでした」


そんな何度も謝ならくていいのに。黒子君は悪くないのに。それなのに開いた口は空気しか噛めなくて。
零れそうになった声を飲み込むと代わりにぽたぽたと涙が落ちてきて、は顔を覆ったまま彼の胸の中で涙が止まるのを必死に待つのだった。




2019/06/29
一緒にいれば拗れなかった話。先送りになった問題はまた後日。