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「んで、黒子と仲直りできたか?」

の涙が止まった頃に帰ってきた火神はまた大量に買ってきて消費していた。今日はもうつっこむ気になれなくて隣でぼんやりしているとそんなことを聞かれ彼を見やった。


「ケンカは…してないけど、まあ、仲直りはできた、かな」


多分ケンカじゃない。ケンカだと思ってるとしたらの方だ。黒子君はただの被害者だし。言葉にするとなんかややこしいな、と眉を潜めると「なら、いいけどよ」と火神がかき氷を食べていた。

ちなみに黒子君は火神に頼んだはずの飲み物を買いに行っている。火神が達の分の飲み物迄頭に入れて計算しなかったせいだ。この食いしん坊さんめ。

「お前が来ない間、黒子の奴ずっと不調だったんだぜ」
「え、」
「カントクがガチギレしてた」
「ええー…」

それはかなり怖い。

「何いっても直んねーしよ。お前もずっと休んでるし、黒子の不調もストバスの後だったしな。まーなんかあったんだろうなとは思った」
「あー…」

もしかしなくてもと黒子君に何かあったというのは火神どころか部内全体にバレているのだろうか。うわぁ。余計行きづらくなったんだけど。
そんなにわかりやすいかな。と情けない自分の頭を抑えれば「紫原となんかあったのか?」と聞かれギクリとした。



「その名前、いきなり出さないで。まだ慣れてないんだから」
「…お前、キセキの世代のトラウマ多くねーか?」

黄瀬といい、紫原といいそのうち倒れるんじゃね?と心配そうに零す火神にも何とも言えない声で返した。

他にもトラウマ案件や危険人物がいるんだけどバスケに関わってるからどうしてもそっちに偏るんだよね。的を得ている火神の言葉に「全員じゃないよ」としか答えられなかった。


「まあ、ビビってるのは私だけであっちは忘れてるだろうけどね」
「…まあ、そうかもな」

あいつそういうの緩そうだったし。と零す火神にふと思い出した白Tシャツの氷室さんのことを聞いてみた。その名前を出した途端、火神の動きが止まったが淡々とアメリカでの話を教えてくれた。

「そっか。その指輪、そういう意味でつけてたんだ」
「まあな」

首から提げているネックレスはそれだけなら特に何も思わなかったが指輪がかかっていたので女子の目によく留まっていた。
見た目が男物に見えるのでそこまでではないにしろ『あれって、彼女とのペアリングじゃないよね?』と聞かれることは多々あった。


「みんなが火神君って彼女いるのかな?て聞いてたよ」
「ぶふっ!な、なんだよ、いきなり…!」
「その指輪、気にしてる子多いんだよね」

結構モテるみたいですよ、火神君。といってやると嫌なのか照れ隠しなのか「はああ?」といつもより大きな声をあげた。



「……辰也とはそういうんじゃねーぞ」
「そんな話は聞いてない」

誰が男の友情を恋愛にしろといった。あったとしても家族愛でしょ、と返せば彼は微妙な素振りで「まぁ、な」とイカ焼きを食べた。

「え、かき氷は?」
「んなもん。もう食い終わったよ」
「えええー…」

マジか。もう食べたのか。できれば一口くらい食べたかったな、と声に出すと「ん、」と焼き串を差し出された。ハマグリ…?
火神の手を伝って串を掴んだは大きく口を開けてかぶりつく。あ、塩味が利いてて美味しい。


「あ。てか、お前もしかして桃井ってやつに気を遣って黒子の呼び方変えてんのか?」
「?!…っごほ、ごほ!」

何をいきなり言い出すのかと思いきやそんなことをいわれ、思わず咽た。ビックリさせないでよ、と文句をいえば「さっきのお返しだ」としれっと返された。


「試合抜きで本人見るまではなんとも思わなかったけどよ。でも、もしそうならお前が気を遣う必要はねぇと思うぜ」
「?」
「あいつらはあいつらで好き勝手やってるんだ。それに振り回されてもしょうがねぇだろ」

お前が呼びたい名前でいいんじゃねーか?と諭す火神には大きく目を瞬かせた。そういうものだろうか。



「つかテメ!いつまで食ってんだよ!!」
「あ、ごめん。ついうっかり」

美味しいから食べ過ぎてしまった。でも半分は残ってるよ、と差し出すとその手を捕まれ最後の1個を残して返された。

「その最後のはくれてやる」
「…いいの?」
「お前が食い気出すなんてそうねーからな」

さっき食べ損ねたやつだから少しは食わせろ。そういってお好み焼きを食べだした。キミのお腹は底なし沼か。
よく食べるなぁ、と見ていれば何を思ったのか小さく切り取ったお好み焼きをに差し出してきた。


「これくらいなら食べれるだろ」
「い、いや悪いし」
「折角祭りに来たんだからもう少し満喫しとけ」

ほら、と差し出されたお好み焼きになんともいえない顔になったが、まあいいかと口を開けお好み焼きを頬張ったのだった。




2019/06/29
実は影の功労者大我君。