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クラスで文化祭の話が始まった頃、降旗君達がとあるチラシを持ってB組にやってきた。

「週末、これ行かないか?リベンジで!」

達に見せてきたのはストリートバスケの大会チラシで、そういえば前回雨で中止したんだっけと思い返していた。
それと同時にあの日の紫原君を思い出しうっと吐き気をもよおし口を押さえると黒子君が背中を撫でてくれた。


「行くのはいいけどよ、カントクの許可はとったのか?」
「これから。その前に予定聞いてメンバー決めとこうと思って」
「今回も1年だけで参加するんですか?」
「ああ。前回河原休んだしそっちの方がいいかと思って」

次は休むんじゃねーぞ、とつつかれる河原君をぼんやり見ていると黒子君も火神もあっさり「行く」と答えていた。まあ断らないだろうねキミ達は。


。お前も今度は遅刻すんじゃねーぞ」

バスケ大好きっ子だねぇと傍観していたら何故か火神がこっちにも話を振ってきて目を瞬かせた。え、引率必要?いらないよね?と思ったが何故かみんな来るだろ?という顔でこっちを見ている。嘘でしょ。



「ごめん。その日用事ある」
「はあ?…嘘じゃねーだろうな」
「何で嘘つかなきゃならないのよ。その日は甥っ子と姪っ子が来るの」

その子らの面倒をみなきゃいけないから無理。行けません。と断ったのだが今度は黒子君が「でしたら、一緒に連れてくればいいと思います」と提案してきた。

待って。黒子君わかってるはずよね?私の一張羅あれしかないってことを。もう秋だからあの服使えないってことを。出かけられる服がないってこと知ってますよね??


「2号も連れていきますし、みんなで面倒をみればさんも楽しめるんじゃないですか?」

さも名案だとのたまう黒子君には引きつった顔で笑うしかなかった。黒子君ってやっぱ鬼だ。



*



ストリートバスケの大会当日、今回も遅刻せずに今度は待ち合わせ場所に行ったらみんなの目が丸くなっていた。両側に小さい子がいるのが珍しいらしい。
その視線に気づいた両隣はパッとの後ろに隠れた。みんなそれなりに背が高いからなぁ。火神なんか巨人に見えてるかもしれない。

「2人共ご挨拶できる?」
「「……」」
「めちゃくちゃ嫌そうにしてないか…?」
「ビビられてるな俺達」
「人見知りな方じゃないと思うんだけど、初対面の人は怖いのかな」


の後ろから伺う小動物に降旗君達が困っているのが手に取るようにわかってしまい、だからいったのに、と思った。
とりあえずお兄ちゃんの『コウ君』と妹の『メイちゃん』を紹介して会場に行こうか、という話になった。


「?どうしたのメイちゃん」


どこかをじっと見つめる姪っ子に気がつき聞いてみると彼女は言葉の代わりに指を差した。その小さな指先の向こうには黒子君のバッグがありその中からこっちを見ている2号がいた。

本当に連れてきたんだ、と思っていると、いつの間にか黒子君が姪っ子の前にしゃがみこんでいて姪っ子がビクッと驚いていた。影が薄いと本当に不便ね。
泣かないといいな、と思っていたら姪っ子の顔が歪んだのであ、ヤバいと警戒態勢をとったがその前に黒子君が動き、サッと2号を差し出した。



「っ……ワンちゃん!」
「はい。ワンちゃんは好きですか?」
「うん!」
「テツヤ2号といいます。仲良くしてくださいね」

どうやら黒子君は早速姪っ子を手懐けるつもりらしい。合間に自分の自己紹介も済ませてしまった。まあ動物に反応しない子供は早々いないよね。

上機嫌に2号を撫でる姪っ子に甥っ子も羨ましそうに見ている。でもまだ黒子君を警戒しているようだ。
泣きそうだった姪っ子を一気に笑顔にした彼に周りは「ああっ黒子ズリー!」「2号をダシにするなんて卑怯だぞ!」と文句をいったが「ボクは話し合いの時点で連れて行くといいましたよ」としれっとした顔で返していた。確かにその通りだ。


すっかり機嫌が治った姪っ子達を連れて会場入りをすると前回同様、園内全体が人でごった返していた。

とりあえず登録所を探し、登録組と待機組の二手に別れようということになったのだが、バスの移動中に仲良くなったらしい火神は甥っ子を肩車をしていてをハラハラさせていた。

落とさないと思うけど火神の背が高いせいで落ち着かないのだ。きゃっきゃと喜んでいる甥っ子は会場を見回していたが出店を見つけたようで興味津々にそちらを見つめているようだ。


「何だ?何か食いてーもんでもあったか?」
「…っわたあめ!!」

それに火神も気づいて聞いてみると甥っ子は目をキラキラとさせてわたあめを所望してくる。それを聞いた火神はこっちを向くと「ん、」と手を差し出すのでぺちん、と彼の大きな手の平を叩いた。



「ダーメ。とりあえず登録してからよ。それで落ち着いたら買ってあげる」
「「えー」」
「何で気が合ってんの」
「ケチくせーな」
「けちくせーな」
「お願いだから変な言葉教えないで…」

ぼやく火神に甥っ子が肩にいなかったらもう少し強くツッコミを入れるのに、と思いつつぐっと堪えた。というかコウ君わたあめ全部食べれないと思うぞ。
同じような顔で残念そうに口を尖らせる火神と甥っ子に呆れていると視線を感じ振り返った。何で降旗君達引いてるの。


「傍から見てると兄弟っつーか、家族っぽいなと」
「「はあ?!」」

家族、という言葉に火神と一緒に過剰反応すると降旗君達が達の声に気圧されながらも「だって、なあ」と顔を見合わせている。いや、見えないでしょ!


「俺、尻に敷かれてる火神が見えた」
「んな?!」
「火神、ちゃんと働くんだぞ」
「財布の紐握られてそうだけど」
「なんでそうなるんだよ!」

慌てる火神に福田君達が頑張れよ、と彼の背中を叩くので「やめろ!」と騒いだ。そのせいでぐりんと揺れる甥っ子に焦って火神に取りつく。



「火神君!落ちる落ちる!」
「あ、ああ!悪ぃ」
「「「………」」」
「だからやめろっんな目で見るな!!」

火神の服を引っ張り、気づいた火神が甥っ子の背中に手を回したことでなんとか落ちることは免れた。甥っ子も驚いたようだけど泣かなかったことにホッとして息を吐く。

しかし、まだ意味深に見つめくる福田君達におバカな火神がまた反応したのでさっさと登録して来いと追いやった。


「なかなか大変ですね」
「まあね」

特に男の子は元気だから、となかなか怖い目に遭ったはずの甥っ子が下ろされた後も火神について行く姿を見て本当に懐いたな、と感心した。あんだけ最初怖がってたのに小さい子の順応力って凄い。

「懐いた、というより友達、という感じにも見えます」
「え、それってまさか火神君の精神年齢が……」

2号と戯れる姪っ子を挟みながら黒子君と話しているととんでもない毒舌をかましてきたので笑うに笑えなかった。コウ君まだ小学1年生なのですが。


「否定はしません」
「否定してあげて。火神君泣いちゃうから」

何気にガラスのハートだから。とつっこむと本人には内緒にしておこう、ということて手を打った。しまった。陰口になってしまった。



「ん?」
「今日の服、前回とはまた違った感じですね」
「ああこれ?今日お守りをするってことでバイト代代わりに買ってもらったのよ」

陰口いわないようにしてたのに気を付けないとな、と反省していると視線を感じ隣を見やった。視線の主は勿論黒子君だったのだが聞かれた内容に苦笑してしまう。

今回も貯金を切り崩すか、と思っていたところで親から支給があったから、無事ここでお喋りをしているのだけど、甥っ子姪っ子をここに連れてくることより服をどうにかする方が大変だったことを思い出す。


「親達と一緒に買いに行ったせいでよくわかんなくなっちゃったんだよね」
「そうなんですか?」

一応こういう感じの服がいいかな、となんとなく目星をつけていたのだけど「センスが悪い」「流行りじゃない」とかあーだのこーだいわれて途中で思考を放棄したから本当に似合うかどうかわからなくなってしまったのだ。


「…変かな?」
「変じゃありませんよ。今日の服も似合っています」

後から考えたら黒子君って自信ない気持ちを汲んでくれて悪いことを絶対いわないから予想内の答えではあったのだけど、頷く彼を見たらホッとして嬉しくて照れくさそうに微笑んだ。



「?どうしました?」

大丈夫なら良かった、と安心していると黒子君がしゃがみこみ、姪っ子を抱きかかえた。抱っこをせがんだ彼女を見ると目を擦っている。ちょっと眠いらしい。

「ああ、今日遊びに行くっていうから2人共テンション上がっちゃって朝からフル稼働で動いてたから…それで眠いのかも。確かこのくらいの時間にいつも寝てるようなこといってた気がするし…」
「…ふぇ、ぇ」
「え、あの、さん…!」
「貰う貰う。こっちに頂戴」

ぐずる仕草をした姪っ子に泣かれると思った黒子君が動揺してこっちを見たのでは姪っ子を受け取った。動揺する黒子君てレアだな。

背を丸め、服を引っ張るように掴む姪っ子の背中をさすりながらあやしていると黒子君も心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫大丈夫」と笑いかけると姪っ子の手が首の後ろに回った。これは寝るかもしれないな。

落ち着いてきた姪っ子を2人で伺っていると甥っ子がこちらに駆けて来たのが見えた。妹を心配してくれるらしい。

大丈夫だよ、と教えて顔を上げれば火神達も返ってきたのだが、何故か日向先輩達、先輩ズが勢ぞろいしていて黒子君と一緒に目を瞬かせた。



「なんつーか……お前らの雰囲気がナチュラル過ぎてツッコミずれーわ」
「?どういうことですか?」

呆れというか、困惑というか、日向先輩が溜息と一緒に頭を押さえるので黒子君と一緒に首を傾げたが「気にするな」と何故か伊月先輩が答えてくれた。


「頑張れよ。火神」
「だから何なんだよ一体!」

かと思えば福田君達がまた火神の肩やら背中を同情するように叩くので、火神が苛立たし気に吠えたのだった。




2019/07/06
偽家族。