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どうやらリコ先輩達もこのストリートバスケの大会に参加するらしい。しかも2年生のみの超攻撃型スタイルで行くという。

「本当はちゃんと休んでほしかったんだけど前回結局練習してたし、こうやって1年と2年が別れてガチの試合をするなんてこと早々ないからいい機会だと思ったのよ。
あんた達がどれだけ成長したか観ておくのも悪くないしね」
「だからっつってこっちも手は抜かねぇからな!勝つ気で来いよ!!」
「「「「「はい!」」」」」


なんだか部活の延長線みたいな気合に、公式試合じゃないんだけどなぁ、と思いながら眺めていたら「まあまあ。今日はオフなんだし楽しんで行こうぜ」と通常運転の木吉先輩がへらりと笑ったので日向先輩のこめかみに青筋が浮かんだ。

「木吉テメェ、公式試合じゃねぇからって手ぇ抜いたらただじゃすまさねーぞ!」
「ああ。わかってるって」
「本当にわかってんのか?俺達が負けたら罰ゲームあんだぞ!!」

やたらと鬼気迫る日向先輩とどこまでもにこやかな木吉先輩の温度差に少し引いて見ていたら、同じように2人を見ているリコ先輩が裏のある顔でにっこり微笑んでいた。
ヤバい。このリコ先輩の顔は何か企んでいる顔だ。


「どうする?先輩達だけでも厄介なのにカントクまでいるぞ。俺達戦えるのか…?」
「ああ、その辺は大丈夫よ。一応こっちにいるけど日向君達にアドバイスはしないわ」
「え、本当ですか?」

布陣が完璧すぎる、とビビる降旗君にリコ先輩が介入しないことを約束してくれたのでちょっとホッとした。



「けど、それで気を抜いてたら足元をすくわれるわよ。なんてたって相手はあなた達1年のことを毎日のように見てきてる先輩なんですからね!」

私のアドバイスがなくたって十分強敵のはずよ!と豪語するリコ先輩に黒子君達と日向先輩達の表情が一気に引き締まる。
まるで公式試合のような緊迫感に甥っ子がの服をきゅっと掴んだ。この緊迫感はちょっと怖いかもね。

も口出しちゃダメよ」と必要ないと思うけどリコ先輩がしっかり釘を刺していき、試合まで別行動をとることになったのだが、火神がお腹減ったといいだしたので少し早めの昼食をとった。


芝生に座った甥っ子は別れ際に貰った水戸部先輩のお菓子とわたあめを交互に食べている。本当はもっと別なものをとってほしかったのだけど時既に遅しだったようだ。

家帰ったら怒らるかもな、と考えていると黒子君達が帰ってきて「さんも食べませんか?」と焼きそばを持ってきた。


「これもあっけど……でも、それじゃ食えないか」

河原君も食べ物を差し出してくれたけどは困った顔で微笑んだ。現在腕の中には完璧に眠っている姪っ子がいる。起こすのは悪いなと思って頑張っているのだけど実は手はかなりしびれている。

「足元に寝かすとかはできない感じか?」
「うーん。どうかな」

前に引き離した時泣かれた記憶が蘇って難しい顔になったけど勇気を出してそっと身体を放し膝の上に寝かしてみる。おお、大丈夫そうだ。

姪っ子に上着をかけてあげてしばらくぶりの解放感を味わうが手がしびれている為、黒子君の焼きそばは食べられそうになかった。無念。



「じゃあボクがおねーちゃんに食べさせてあげる!」
「ありがとーいやでもそれ食べづらいー」

焼きそばを摘まんでくれたまではよかったが甥っ子はまだ箸の持ち方が出来てなくて持ったそばから焼きそばを落としていき両手で受け止めながら食べる羽目になった。
みんなに笑われながら食べるとか何の罰ゲームだろうか。

その後も気まぐれに寄越してくる甥っ子の食べさせてあげる攻撃に遭いながらなんとか食べていると黒子君達の試合の時間になり彼らは慌てて向かっていった。

はお目付け役の2号と甥っ子、そして起きた姪っ子と一緒にしばらく芝生で遊んでいたが次の試合のアナウンスを聞いて「ん?」と首を傾げた。
この名前、どっかで聞いたような…?と思いつつ走り回る甥っ子を眺めていると黒子君達が戻ってきたので姪っ子と一緒に手を振った。


「おはようございます。目が覚めたんですね」

早速姪っ子に声をかける黒子君は気配りさんである。姪っ子も懐いたようで何よりだ。

「これからどうするの?」
「次、先輩達の試合あるからそれ観に行かね?て話してたとこ」

はどうする?と降旗君に聞かれたので同行することを申し出た。しかし歩き出してすぐに姪っ子がトイレに行きたいといいだしたのでまた別行動をとることになってしまった。

どこにいってもうんざりする長蛇の列の女子トイレをクリアしたは待ち合わせ場所のコートへと急ぐ。



人ごみを避けながら歩いて行けばフェンスから少し離れた人がまばらなところに甥っ子の姿を見つけた。
それにホッとしていたのも束の間、甥っ子の前に見覚えのあるピンクの頭を見つけ目を見開いた。


「そっか。コウ君っていうんだ。私は桃井さつきっていうの。よろしくね」


甥っ子の目線に合うようにしゃがみこみ、にこやかに微笑む桃井さんには何でここにいるの?と思った。
ほんのりと夏休みのストバスで見た彼女と黒子君を思い出し、何とも言えない顔になって見ていると、視線い気がついたのか桃井さんはこちらを見てにっこり微笑んだ。最強の笑顔だ。

近寄りがたい、とたじろいでいると、何を思ったのか甥っ子が何の脈絡も躊躇もなく視線の先にあった桃井さんの胸にタッチしたので心の中で悲鳴をあげた。何してんのあの子!!!

いきなりのことで驚き固まる桃井さんに周りもぎょっとした顔…と『なんて羨ましい』みたいな顔が何人かいたのが目に入る。男子って…と脳裏に過りながらも慌てて駆け寄った。

「コウ君〜?ダメだよ。いきなりそんなことしちゃー」

お姉ちゃんビックリするでしょ?と素早く近づき、サッと両手を放させたは、桃井さんから甥っ子を引き離し「お母さんにもいわれてるでしょ」とやんわり叱った。しかし甥っ子は何故か目をキラキラさせている。


「あのおねえちゃんのおっぱい、おねえちゃんよりも大きかった!」

知ってるよ!!!というか報告しなくていいです!
太ってた頃も負けてたわ!と内心毒づきながらはにっこり笑って「お外でそんなこといっちゃう子にはこうだ!」といって抱きしめ脇腹をくすぐる刑を実行したのだった。

腕の中で暴れながら笑う甥っ子に子供って本当容赦なくコンプレックス切り込んでくるな、と心の中で涙したのはいうまでもない。



包囲網から逃げ出し、火神の後ろに隠れた甥っ子を追いかけていたが、リコ先輩達の試合が始まると聞いて追いかけっこを一旦中断した。

なんとか見やすい柵の前を陣取ることが出来た達は出てくる先輩達を待つ。視線を戻し少し見上げれば甥っ子はまた火神に肩車をしてもらっていて上機嫌だ。うん。自分がしたこともう忘れてるなこれ。

そしてはというと黒子君の隣をキープしている桃井さんに手を合わせ先程の謝罪をしていた。


「ごめん!本っ当にごめんね、桃井さん」
「ううん。大丈夫」

ちょっとビックリしたけど、と笑う桃井さんはあの頃と違わずいい人で「男の子って胸好きだもんね」と胸については若干マウントをとられた気もするが事実なのでも「ねー」と苦笑で返した。

小さい子とはいえ流石に公衆の面前でおっぱいはないわーと思ったは後でちゃんと報告しておこうと心に決めた。


もう一度しっかり謝り、足元で遊んでいる姪っ子と2号の相手をしていると日向先輩達の試合が始まった。相変わらず切り返してからの攻撃が早い。というか敵チーム相手にならないのですが。
連携の完璧さに舌を巻きながら眺めていると隣の火神がウズウズと足を踏み鳴らすのでこっそり笑った。

試合はあっさり日向先輩達の勝ちで終わり、こちらに気づいた先輩達が『首洗って待ってろよ!』とジェスチャーを送っていて火神がやる気満々になっていた。降旗君達の顔は引きつってたけど。

さっきの相手チームも確か大学生だったよね?うーん。勝てるかな?と2号のお腹を撫でていると黒子君の声が聞こえた。



「ところで桃井さんはどうしてここに?」
「勿論テツ君に会う為に来たんだよ!」
「ですが、今日ここにいるとは連絡してませんよ」

視線をあげればニッコニコの桃井さんが黒子君にぴったりくっつき答えていたが確かに疑問は残る。桃井さんなら『愛の力で来たの!』といわれても信じてしまいそうだけど。

「テツ君がストバスの大会に来てるっていうのはきーちゃんから聞いたの」
「黄瀬君、ですか?」

黄瀬君の名前が出た途端、事情を知ってる人達の視線を頭の上で感じた。自身もヒヤッとしたのはいうまでもない。
反対側で日向先輩達と話してるリコ先輩を見ながら本当に練習試合の話を申し込んだのかと泣きたくなった。


「先週きーちゃんのところと練習試合したんだ」
「え、マジかよ」
「うん。青峰君は最後まで来なかったんだけどね…でもテツ君達の次はミドリンとも練習試合をするっていってたよ」

WCはかなり手強いチームになってると思うよ、という桃井さんに反応した火神も引き締める表情に変わっていた。

「あ、ねぇねぇテツ君。例のあれは順調?」
「はい。順調だと思います」

次の試合が始まり視線が動いたが桃井さんが意味深なことを聞くのでなんだろう、と聞き耳をたてた。
どうやら黒子君の新しいドライブの話をしているらしい。

桃井さんに話してるのか、とちょっとショックを受けたが、桃井さんは桃井さんで周りの反応のなさに気づいたようで「……みんな知ってる感じ?」と聞いている。



「そうですね。大体は話しました」

必要なものと方向性はリコ先輩達と定期的に話してるので殆どわかっている。も黒子君の練習につきあっているから猶更だ。

さらりと答える黒子君に桃井さんは少し黙った後「そっか」ととても嬉しそうに微笑んだ声が聞こえた。なんだかそれがとても印象的だった。




2019/07/06
黒子と桃っちの距離感って絶妙バランスですよね。