40


黒子君との距離と気持ちを整理したは気持ちを切り替え、週末の試合に望んだのだが最後の最後で心が折れそうになった。

試合も黒子君と火神がまだ調整、というのもあり少々後味の悪い試合になったがなんとか無事終わり、身の回りの片づけをしていたら黄瀬君に拉致られたのだ。
あまりにも唐突なことでは断ることも逃げることもできなかった。


「連れて来ましたよ〜!この子が話してた例の子っス」
「「「なあああ?!」」」


肩!肩に!キセリョの手が乗ってる!!!!

連れて行かれた先は案の定というかなんというか、海常の選手がいる区域だった。ドアウェイな場所に一気に顔色を悪くし萎縮したを黄瀬君は平気な顔で押していく。

雑談をしていたらしい海常の人達はこっちを見るなり目を丸くし驚きの声をあげた。その声の大きさには何センチか飛びあがったのは言うまでもない。

後ろでは「だから女子だっていったじゃないっスか〜」と黄瀬君がやはりまだの肩に手を置いたまま笑っている。

ま、まままさか自分の話題を黄瀬君がしているの?!ううううううう嘘!思いもよらない事態には一瞬目の前が真っ白になった。心臓止まる…!



「何でお前にばっかり女の子が寄ってくるんだよ!!」
「羨ましすぎるだろ!いっぺん死ね!」
「うわ!何すんスか〜!」

その一瞬記憶が飛んだが我に返ると黄瀬君は先輩達に羽交い絞めにされていた。日頃の恨みでもあるんだろうか。かけられてる技から本気度を感じる。

身を強張らせながらオロオロとしているととても個性的な眉の太い…早川充洋さんがずいっとの近寄ってきて、その近さにたまらず「ヒッ」と短く悲鳴をあげた。


「アンタ誠凛のマネージャーだろ?」
「は、はひ…っそ、そうです…けど」
「黄瀬がいってたことマジなのか?」
「え…?」
「早川!テメーは近すぎるんだよ!その子、怖がってるじゃねーか!」
「あで!」

ぐいぐいと迫ってくる早川さんには涙目になりながら黄瀬君を見やった。
いってたことって何?と混乱した頭で無謀にも聞こうとしたが黄瀬くんを隠すように早川さんが視界に入ってきて肩が大きく揺れた。なんだかよくわからないけど怖いです…!

そんなの気持ちが伝わったのか、さっきまで固まっていた笠松さんが割って入り早川さんを足蹴にして遠ざけてくれた。
しかし、その笠松さんもの視線に気がつくとビクッと肩を揺らしそそくさと足早に離れていってしまう。



さんっていったっけ?」
「は、はい」
「ゲーム得意なんだ」
「えっと少し、か人並…ですけど」
「えええ〜あんだけ見せつけといて少しはないんじゃないっスか?」
「えっいや!…でも、私より強い人いるし…」
「黄瀬〜弱いっていわれてんぞ」
「や!違!き、キセリ…いえ!黄瀬君は強いです!数ヶ月でああああれだけ装備整えてるの、私だったら無理、だし!」

笠松さん、早川さんと入れ替わるように今度は森山さんがこれまた近い距離でに話しかけてきた。その距離に聞かれた言葉が飛びそうになったが何とか答えた。

しかし、会話が進むと黄瀬君が入ってきたり絡められたりしてテンパった。普通に会話してるだけなのに恐ろしいほど怖い。というか、本当に心臓が口から出てしまうから本気で止めてほしい。


か、帰りたい…!と涙目になっていると森山由孝さんがやたらといい顔でを見つめてくる。森山さんもなかなかの背の高さでの肩が揺れた。


「で、提案なんだけどさ。今度俺達とパーティー組まない?」
「へ?」
「最近また難易度高いミッション出ただろ?用事とか受験で人数足りてないから助っ人がほしいよなって話してたんだ」
「ええ〜俺がいるじゃないっスか〜」
「お前が1番捕まんねぇだろうが!それでさん紹介するっつったんだろ!」
「違いますよ〜先輩達が俺の話信じてくれないから、だったら証拠見せてやろうって思っただけっス」
「けど、お前より強いことには違いねーじゃん」
「別に負けたわけじゃないっスよ!」
「……で、でも、私、住んでるの東京ですし…」
「それは大丈夫。大会で会った時とかでいいし、なんならこっちから行くし」



だから、どうかな?とやっぱりいい笑顔でぐいぐいくる森山さんには固まったまま顔色を悪くした。ど、どうしよう。逃げれる感じがしない。

「あ、そうだ。連絡取りやすいようにアドレス交換しようか」と森山さんが携帯を取り出したのを見て益々混乱した。ぐいぐい来るよ!森山さんぐいぐい来るよ!!
「これもう運命なんだよ!」て何?!何を降臨させてるんですか森山さん!!

あまりの怒涛の展開には胃のものがせりあがる感覚がした。ヤバイ。吐くかも。


「あの、そこまでにしてもらえませんか?」
「うおあ!」

森山さんには申し訳ないけど、私、もう限界…と思ったところで真横から声が聞こえ、森山さんが驚き飛び退いた。
見れば少し不機嫌そうにしている黒子君がの前に進み出て「勝手に話を進められては困ります」とを後ろに隠した。その背中に無意識にホッと息を吐く。


「あれ、黒子っち!っち迎えに来たんスか?」
「黄瀬君…さんを勝手に連れて行かないでください」
「えーだって先輩達があのミッションクリアできるなんて女子じゃないっていうから証拠を見せたかったんスよ〜」

ど、どこからつっこんだらいいのかわからない。黄瀬くんに名前を呼んでもらえたとか女じゃないとかゲーマーで悪かったね、とか諸々衝撃が大きすぎて脳が処理しきれない。

ぐるぐるしてる脳に口の中が酸っぱくなってきて思わず口を押さえた。ダメだ。本当に気持ち悪くなってる。
呆れたような困ってるような声色の黒子君のジャージを掴んで危険を訴えると振り返った彼は目を見開き、慌てての背を押した。



「ああ!帰る前にせめてフレンド登録をさせてくれ!」
「すみません。急がないとカントクに怒られるので」
「黒子っち〜また遊んでくださいっス〜」
「……黄瀬くんの顔は当分見たくないです」
「えええ?!何でっスかあああ?!」

黒子君に介護されながらよろよろと歩いていると、黄瀬君に痛恨の一撃を食らわせ彼を号泣(?)させた。テツヤ君容赦ないわ…。考える以上に黄瀬君って黒子君のこと慕っているのに。

嘆く黄瀬君を黒子君は全部無視していると更に騒いで笠松さんに殴られた音がした。拳骨かな。鈍い音がめちゃくちゃ響いたんだけど。


「また遊びに行くんでっちも遊んでくださいよ〜!今度こそリベンジするっスからね〜!」
「やっぱり負けてんじゃん!」
「違うっスよ!言葉のあやっス!」

森山さん達に笑われながらもめげない彼は体育館出る間際、チラリと振り返ったにそんな言葉を投げかけ手を振ってきた。

これが正常運転の自分なら感動すらしてただろうけど、今は吐き気を助長するものでしかない。黒子君か。黒子君が隣にいるからこっち見てたのか!


「黄瀬君は甘やかすと調子に乗るのでダメなものはダメだとちゃんといった方がいいです」
「……そ、だね…今度から気を付ける」

うんざりした黒子君の助言には力なく応えると携帯を持ったまま手を振る森山さんと「約束っスよ〜!」と律儀にまだ手を振っている黄瀬君に軽く会釈してその場を後にしたのだった。
逃げれる感じがしない気がしたけど気のせいということにしておこう。うん。



*



!アンタどこに行ってたの?!どこ探してもいなくて心配したんだから!」
「すみませんカントク。怒るのは後にしてもらえませんか。さんを今すぐトイレに連れて行かないと」
「え、ええ?!どうしたんだ?」
「うわ!マネージャー顔真っ青じゃん!!」
「わ、わかったわ!、もう少し我慢して!今連れて行くから」
「ご、ごめんなさ…も、…げんか…」
「あ、」

「「「「どわあああああ!!!吐いたあああああ!!!」」」」


やっとの想いで誠凛と合流しただったがリコ先輩達を見て安心したせいか、我慢が限界突破してしまったせいか、もしくはその両方か。
一気にせり上がった吐き気に逆らうことが出来ず、はそのまま昼ご飯をもんじゃ的な何かにしてしまったのだった。アーメン。




2019/07/12
もんじゃ焼きさんごめんなさい(風評被害)