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丞成高校との試合は力み過ぎて高さ調整ができずゴールリングに額をぶつけたり無様に床に落ちた火神を何とも言えない目で見つめてしまったが試合にはちゃんと勝てた。火神が全然決めきれてなかったけど勝てた。

校長先生は木吉先輩と日向先輩をべた褒めして早々に帰り、リコ先輩がその背中を見送りながら「フッ素人がよく言うわ」と悪い顔で笑っていたのがある意味印象に残った気がする。


そんな予選の幕開けだったけど泉真館との戦いは順調そのものだった。1度戦っているからその対策もあったし誠凛も木吉先輩という大黒柱が帰ってきたことで泉真館を圧倒できた。
王者に勝てたという事実にも手放しで喜んだのはいうまでもない。


「お、ちゃんじゃん」

知り合いの中でをそう呼ぶ人は数少ない。余分な水分を捨てに給湯室に来ていたは手早く用を済ますと真っ直ぐ誠凛がいる控室に戻った。
その途中で高尾君と出会ったのだけど、つい先刻とのギャップの差になんとなく驚いてしまう。


「あちゃー。もしかして次戦うから警戒してる?」
「う、うん…」

コートで顔を合わせた時は黒子君達誠凛も緑間君達秀徳もみんな緊張感のある睨み合いをしていたのだ。顔を合わせたのに会話は一切なし。黙ってはいたけどは怖いなと距離を取っていたのだ。

そんな高尾君がへらりと笑ってやってきたのだから驚かないわけがない。

素直過ぎるの返しに噴出した高尾君は「今はオフだから。学校は関係なし」と気軽にいってきたけど……そんな簡単に切り替えられるものなんだろうか。



「とりあえず試合お疲れさん」
「ありがとう。そっちも勝ててよかったね……て、当たり前か」

インターハイ都予選であれだけ苦戦した王者に対してその物言いはよくないか、と謝ると高尾君は何とも言えない顔で笑い「まあ、勝つことに勝ったんだけど」と歯切れ悪く漏らした。


「俺達の相手は1軍じゃなかったんだわ」
「え、」
「霧崎第一には気を付けた方がいいぜ」

どうやら霧崎第一高校は秀徳戦を捨て、誠凛対泉真館との試合を観ていたらしい。何でそんなことを?と聞いてみたが恐らく敵情視察だろう、と返された。

「え、でも、そういうのって事前にするものじゃ」
「普通はな。あちらさんの考えることはわかんねーよ……ただ、あんまいい感じはしなかった。真ちゃんも超不機嫌だったし」


人事を尽くしてないのだよ!てキレてたし。とぼやく高尾君には一気に不安になった。秀徳と当たるだけでも不安なのにその後も不安が待ってるだなんて。

「悪ぃ。怖がらせるつもりはなかったんだけど」
「ううん。ありがとう。気を付けておくよ」

ぎゅっと空のボトルを握りしめると高尾君がの頭に手を乗せ緩く撫でた。あ、心配させてる、と気づき口許をつり上げると「前より顔色良くなったな」と顔を覗き込んだ高尾君が嬉しそうに笑った。



「よしよし。俺との約束忘れてなかったな」
「え?た、高尾君?」

そういえば夏休みの海の合宿で秀徳と鉢合わせした時、心配かけて体調管理をしっかりするように、みたいなこといわれたっけ。
まるでお兄ちゃんみたいだな、と撫でられる感触にむず痒くも甘んじていると「あ、そうだ」と何か思いついたように高尾君が携帯を取りだした。


「連絡先交換しねぇ?ちゃんがちゃんと飯食ってるか心配なのに連絡できねーから気になって夜も眠れなかったんだよ」
「え、そうなの?」

そこまで心配されてたの?と慌てれば高尾君は「半分は嘘だけど」と悪戯っぽく笑った。

「ま、お互いの連絡先知ってれば何かあった時に情報交換しやすいだろ?」
「うん。そうだね」

情報交換?と思ったが高尾君が携帯を差し出したのでも流れで携帯を出しアドレスを交換した。


「ぶっ!それ、もしかして」
「ん?あーうん。他につけるとこ思いつかなくて」

他校の男子のアドレスは初めてだ、と感慨深くアドレス帳を見ているとの携帯ストラップに気づいた高尾君が噴出した。



実は何個かつけているストラップの中に以前緑間君から貰った交通安全のお守りがついている。
『今日の』といっていたから別にもう持ち歩かなくてもいいんだろうけど何となく部屋の引き出しの肥やしにしておくのは申し訳ない気がしたのだ。

あと、火神の実力テスト事件で緑間君特製湯島天神コロコロ鉛筆のご利益があまりにも絶大過ぎたのを見てしまったのもある。

ほんの少しちょっとだけご利益あるかも、という邪な気持ちでつけていたのだが、高尾君はケタケタと笑い「いいんじゃね?」と携帯を構えた。あれ。シャッター音聞こえましたが。


「記念撮影記念撮影。後で真ちゃんに見せとくわ」
「えー…怒られないかな」

なんとなくいい顔をしないんじゃないかな、と思ったが高尾君は「どんな顔をすっかは後のお楽しみ」といって後でその写真を送ってくれることを約束してくれた。見るの、ちょっと怖いな。

「おっと、その真ちゃんからメールだ。んじゃま、次会う時は敵同士だけど…負けても泣くなよ?」
「泣きませんよ。うちが勝ちますから」


ニヤリと不敵に笑う高尾君にも負けじと見返せば、彼は大きく目を見開いた。
でもすぐにニカっと笑うと「なっまいき!」と既にぐしゃぐしゃだった髪の毛を更にかき混ぜ「んじゃまたな!」と去っていったのだった。




2019/07/18
高尾…凄く久しぶりな気がする。