56


夕食も食べ終わり、リビングでゴロゴロしていたら母親にお風呂に入るようにといわれ、渋々立ち上がった。

「あ、そういえば、結婚式何着てく?」
「何着てくって制服じゃダメなの?」

学生は制服で行ってもいいんじゃなかったっけ?と聞くと母親は難しい顔をして「制服って白じゃない?結婚式にセーターもどうかと思うのよね」と返された。

いやでもドレスなんて大層なものはないし。むしろ私服すらままならないし。と嫌そうな顔をすれば母は「黒のカーディガンを羽織ればいいかしら?」と適当なことをいって前を向いてしまった。

セーターとカーディガンの差って何?TPOってよくわからない。と首を捻りつつは脱衣所へと向かった。



この度従姉がめでたく結婚することになり、その披露宴に達家族もお呼ばれしていた。どうやら従姉は玉の輿結婚らしく親族の間でかなりの噂になったらしい。

はそういうことにあまり興味がなく、小さい頃お世話になった従姉のお姉ちゃんが結婚するんだってことで純粋におめでたいと思っていた。


思っていたのだが結婚式当日度肝を抜かれる事態になるとはこの時思ってもみなかった。



「(うわー…)」


式も終わり、披露宴会場に入った達は指定された席に座り、周りを見て途方に暮れた。規模が大きい。というか大き過ぎる。なにこれ。
全校集会でもするのっていうくらいの面積の会場にごった返すような人人人。親族席なのもあって従姉の顔がよく見えないくらい遠かった。

玉の輿結婚ってこういうこと?と内心引いていたがその前にはもっとドン引きしたことがある。


手元を見ると結婚披露宴パンフレットなるものがある。そこには座席表や新郎新婦の写真、プロフィールなどが載っているのだけど新郎の苗字が『赤司』なのだ。

赤司なんて苗字は中学時代見たきり出会ったことはない。

しかも披露宴の新郎席にその見覚えのある名前まで見つけてしまって「うわぁ」と声が出てしまった。なんというか、ご親戚だったんですね。


従姉の結婚自体は嬉しかったしお祝いする気はあったけど、招待状の返信やらなにやらまでは親に任せっきりでちゃんと見てなかったのだ。
見たからといって事前に出来たことといえば心構えくらいしかできないけど。

「(でもまあ、遠い親戚として会うことはないだろうな…)」

敵校チームとしては会うかもしれないけど。運ばれてきた料理に気づき、パンフレットを仕舞って姿勢を正せば見慣れない料理が出てきて途端に緊張した。

テーブルマナーってどうやるんだっけ?と頭をフル回転させる。料理を一口食べれば親戚の名前などどうでもよくなるくらい美味しかった。
これが玉の輿か、と噛み締めたのはいうまでもない。




2019/07/21
好物と伏線。