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日もどっぷり落ち、心許ない外灯しかない中、は大きな荷物を持ってとぼとぼと歩いていた。

合流は明日でもいいってリコ先輩がいってくれたんだけど、学校に部活用の荷物を取りに行ったら封筒を手渡されてしまい来るしか選択がなかった。
披露宴でクタクタになったし温泉は入れるといいなぁと思っているとあちらから歩いてくる人が見えた。

その人物は手前にあった自販機で止まると何かを買っているようだった。ペットボトルを取り出しそのまま戻るのかと思いきや立ち止まり、こっちを見ているようなので少し速足で歩いた。


「よお。遅かったな」
「どうも」

を待っていたのは火神だった。
自販機の光や体格で何となくわかったが、火神の方からはが見えていたとは思えなかったのでよくわかったなと感心していると気配を感じたといわれこの子動物かな?と眉を寄せたのはいうまでもない。

「中に自販機なかったの?」
「これだけ売り切れてたんだよ」

旅館に戻る道すがらそんな会話をしながら歩く。こちらに視線をくれてきた火神が「ん、」と手を差し出してきた。


「それ、持ってやるよ」
「重いよ?」
「…軽いじゃねぇか」

そりゃキミだからね。私にはちょっと重い。優しいな、と思いつつお礼と一緒に手渡したらそんなことを返してまた歩き出す。は荷物で凝り固まった肩を回しながらその後を追いかけた。



「んで、こんな夜中に何で1人で歩いてんだよ」

危機感足りねーんじゃねぇか?という火神に「ええぇ…」と返しながらも「仕方なかったのだよ」と緑間君の口調で返した。
火神から荷物を一旦返してもらい仕舞った封筒を取り出すとぼんやり見ている彼に差し出す。


「早い方がいいと思って持ってきてあげたの。まさかこんなに夜道が暗いと思ってなかったからそれは誤算だった」
「…なんだよ、これ」
「開けてみればわかるよ」

訝しげに見てきた火神だったが封筒を受け取ると見やすい外灯の下まで来て封を開く。そして3つ折りにされた紙を取り出し、中の文面を読んだ。

真剣に読んでいる火神をこっそり横から覗き見すると「やった」と小さく彼が呟いた。


「申請、通った」
「本当?」

留学申請の可否の封筒だとまでは聞かされていたけど結果までは知らなかったは渡された紙を読み、火神を見た。

「通った!」
「だろ?」

パアっと互いに笑みを作ると腕を掲げハイタッチをした。めちゃくちゃ痛い。ヒリヒリとする掌に涙が滲んだがそれでも嬉しくて「やったね!」と火神に笑いかければそのままの身体が宙に浮いた。



「よっしゃあ!」
「わわっちょっと火神君!」

本当に嬉しかったみたいで火神はの腰に手を回し持ち上げると回転して喜びを表現してくる。
いきなりのことで驚いたし小さな子供じゃないのに、と思ったけど嬉しそうに笑う彼を見てたらなんだかも嬉しくなって一緒に喜んだ。


「あ、」

無邪気に喜ぶ火神をクスクス笑っていたら彼は急に我に返り、笑いを引っ込めると何事もなかったかのようにを下ろした。

いきなりの変わりように驚き火神を伺うと彼は手で顔を隠し「なんでもねぇ」と旅館の中へと入って行ってしまう。一体どうしたというのだろうか。

しばらく遠ざかる背を見ていたが彼の手にはしっかりの荷物があったので慌てて追いかけたのだった。




2019/07/22
大きい子が小さい子を抱き上げてクルクルしてるの好きです。