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「あっはっはっは!こりゃスゲーわ!!」

再び旅館近くにある市民体育館に来た達は早速練習に取り掛かったはず、だった。

現在体育館にはとリコ先輩、そして景虎さんが囲むように座っている。2人の手にはのノートがあり、その持ち主は両手で顔を覆ったまま鼻をすすっていた。

黒子君達は本日もまた山でケードロをしているのだが冬眠してるクマが目覚めるんじゃないかっていうくらい日向先輩の怒号が山に木霊している。

内容はヤのつく家業みたいな発言ばかりだが気持ちだけならも一緒に叫びたかった。


「なんというか、単純に凄いわね…謎なところも多いけど」
「謎なところは…なんだ?ゲーム感覚でこうしたんだろ?」
「………ハイ…」

パラリとノートを捲るリコ先輩に景虎さんは面白可笑しいようでくつくつ笑っている。

「ゲーム…そうね。確かに生身の人間じゃこういうこと出来ないものね」
「…ハイ…」

淡々と感想を述べるリコ先輩には首まで赤くしながら声を絞り出した。
のノートには青峰対策と銘打っていろんなパターンの戦略を描き散らかしているのだがそのどれもが普通の人には到底難しい動きのものばかりだった。

それは体育館に辿り着く前に回し読みした日向先輩達にも散々いわれたから痛いくらいわかってる。



が犯したことはいわゆるゲーム脳の人が陥るものらしくて書いたノートの「8割は使えない」と言われてしまった。だからいったのに。黒子君という人は…!

「けどまあ、仮にもしこれができれば戦略の幅も増えるんだがな」
「そうはいってもこれを本気でやらせたらフォーメーションは簡単に壊れるし選手達の体力もすぐに底をつくわ」
「……ハイ…」
「まぁな。それはわかってんだが…こんだけ書き出したってことは1試合を何度も見返してたんだろ?」
「……?…はい…」
「それでもこんな"ありえない"動きをプランとして練っちまうってことは、だ。その桐皇の青峰って奴はゲーム並の"規格外"ってことなんじゃねぇのか」

現実的なリコ先輩に対し景虎さんは胡坐をかきその上で頬杖をつきながらを見てニヤリと口許をつり上げた。


「青峰をプレーヤーで弄って楽しかっただろ?」
「……っ」

両手を顔から離し、景虎さんをちゃんと見たは目を見開いた。それと同時に心臓がどくりと騒ぎ肌が粟立つ。

そうなのだ。がバスケゲームの操作に飽きて桐皇戦を見直した時、ふと青峰をプレーヤーにして自分が操作したらどうなるか?と試したことがある。

勿論あくまでの話でただの妄想で録画の彼がの思い通りに動いたわけじゃない。
ただ、何度も観た上での記憶とだったらこう動かしたい、というのが擦り合わさって、それをコントローラーを持ちながら操作した時、心地よいほどプレイしやすかったのだ。



呆れるほど入る点数は元より限界のない身体能力と何をやってもシュートできる技術。そのどれもが群を抜いていた。
その彼を止めるとなるとどうしてもそれ同等の動きをさせなくては勝てない、そう無意識に思いノートに書き記していたのである。

「けど、誠凛対桐皇戦でやったのはあれが最初で最後です……もうあんなことはしません」

青峰のシュートが心地よければよいほど罪悪感も強くなりもう2度と誠凛相手の時の、負け試合ではしたくないと思った。青峰のプレイは凄いものだ。殆ど制限のないプレイに魅了される。圧倒的な強さに惹かれる。


でも、彼は味方じゃないのだ。拳を作り正座している膝の上で握りしめれば笑いを収めた景虎さんが「いいんじゃねーの」と諭した。

「負けた時、味方から読めねー時は敵から学ぶもんだ。それで次の対策に繋がることもある。不純だと思ってもいつか役に立つ時がくるかもしんねぇぜ」
「景虎さん…」
「それにちゃんが書いてるこのノートの大半はあのうすいの用だ。もしかしたら俺が口出しするよりもこっちを参考にした方がうまくいくかもしんねぇぞ」

ノートをに手渡し、景虎さんはリコ先輩の方を見やる。そのやりとりは親子、というよりも対等に近いそれだ。


「そうね。はこの中で1番黒子君と付き合いが長いし、ずっと見てきたもの。武器を作るならそういう手も有り、か…」

時間がないからそこまで冒険はできないけど、と自分に言い聞かせるかのようにリコ先輩が呟きを見やった。その視線に本気だ、と見てとれて背筋をピンと伸ばした。



「黒子君が帰ってきたら3人で話すわ。やるわよ。アンタもちゃんと意見をいうのよ」
「は、はい!」

思ってもみない方向に話が進み困惑したがはなんとか頷く。脳内で本当にできるのだろうか?と思ったが口にはしなかった。

だって誠凛を、黒子君を勝たせてあげたい。協力できるならしたい。ニヤリと笑ったリコ先輩はどこか景虎さんと似てる気がしてやっぱり親子なんだな、と今更のように思ったのだった。



*




夜、今回も旅館に泊まることになり今度はゆっくりと温泉に浸かれたはリコ先輩と部屋でゴロゴロとしているとノックが聞こえ応対した。ドアを開ければ黒子君が立っていての顔が微妙に歪んだ。

「あの、少し聞きたいところがあるんですが」

彼の手には『NO.02』と書かれたノートがあり益々嫌そうに顔が歪んだのはいうまでもない。


部屋を出て黒子君の後をついて行くとフロント近くにある待合用のソファに座った。奥にはお土産屋が併設されているが残念ながら今は閉じている。
一応ブランケットを羽織ったも黒子君に促されるまま隣に座ったが少し足元が寒く感じた。

さん。寒いならもっと寄っても大丈夫ですよ」
「う、ううん。大丈夫」


寒いのは足だけだから、と少し行儀が悪いが足を折りたたみ体育座りでブランケットで身を包めばミノムシが完成した。
ノートを開く黒子君には記憶を呼び起こしながら答える。時々読めない自分の文字に苦戦しながらも伝えれば彼は頷き納得してくれたようだった。

「え、と。もしかして本気で考えてる?」
「?はい。そのつもりですが」
「でもこれ、実現不可能じゃない?」

リコ先輩と3人で話した時3冊分あるプランの中で現実的なものだけを選んでもらい黒子君と相談していた。
その上でウインターカップまでに間に合いそうな1つを選択し練習に組み込んでいくということになったのだ。



しかし黒子君が今聞いてきているのはその厳選したものでもリコ先輩がチョイスした現実的なものでもない。
気を遣われてるのだろうか、と心配そうに彼を見ればいつもの顔で「そんなことはありませんよ」とやんわり否定した。

「確かに難しいか難しくないかでいえば難しいです。カントクが選んでくれたものも"現状のボクができる"最善策だと思いました」
「だったら何で…?」
「単純にキセキの世代に勝つにはそれだけじゃ足りないんです。恐らくボクが"ただの影"でいる限り…」
「……」
「ですから、たとえ無茶でもボクはこれを"やってみたい"と思いました」
「で、でも」
「それにこのノートのほとんどがボク用に書かれたと聞いて余計に"やりたい"って思ったんです」


顔から火が出そうだった。
歯も浮きそうなべた褒めもそうだけどこちらを見つめる黒子君の顔が嬉しくて照れくさそうにはにかんでいて、真面目な話をしているのにの心臓はバカスカと胸を叩き、気持ちが浮足立って仕方がない。

「そ、そりゃ、他の人よりテツヤ君で考えた方がやりやすかったから…で、でも!最後のはダメ!そういう気持ちでやったらダメだからね」

売り言葉に買い言葉みたいに自分も素直に吐露してしまったがは眉をぎゅっと寄せると怒ったように黒子君を見た。
そんな顔をされるとは思ってなかった黒子君は驚いたように目をパチパチしている。ちょっと可愛い。



「話聞いて思ったけどやっぱりリコ先輩のいうことが正しいって思う。やっぱりそのノートは無理があるもん。テツヤ君がやるって決めたら譲らないの知ってるけど、ケガとかしてほしくない。だから無茶はしないで」
「はい。そのつもりです」
「私も、もっと動きやすい、テツヤ君に合う形を考えてみるから…」

よもやまさかこんな展開になると思ってなくてお腹が痛くてしょうがなかったけどでも黒子君に、誠凛に勝ってほしいから。

もっと勉強してまともなプラン作ってそれで黒子君に活躍してもらえたら嬉しい、とそれっぽい言葉を口にすれば黒子君は顔を寄せると額を擦り合わせてきた。


「はい。お願いします」


視線をあげれば彼はとても嬉しそうに微笑んでいての頬も火照ったように赤く染まる。
そしてブランケットから少しはみ出た指先に触れ、自分とは違う骨ばった少し大きな手で温かくの手を包み込んだのだった。




2019/07/28
Heyキミ達、鬼のいぬ間にイチャイチャしてんじゃねーですよ。