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泣いても笑ってもこれが今年最後の大会『ウインターカップ』が開催される。
天気は上々。気温もそこまで低くはなく会場内の熱気も凄かった。開会式を終え周りを見渡す。

インターハイ本戦を観客席から見た時も凄いと思ったけど選手側として見るのはもっと凄いと思った。想像以上の観客数やテレビカメラ、記者の数。そして全国から集まった学校の選手達。

どれもが猛者に見えて臆してしまう気持ちには強張った肩をほぐすように息を吐いた。


「何をやっとんじゃ、あのバカガミは〜!!!」


もう開会式終わっちゃいましたけどぉ?!と吠えるリコ先輩にの肩が揺れた。開会式も終わり、第1試合の準備の為コート整備に入ったのだがまだ席が決まっていない学校がコート脇で待機していた。

その中に誠凛もいたのだがは福田君と一緒に席探しに出て帰ってきたところだった。

火神は時差をうっかり忘れていて今急いでこっちに向かっているらしい。最悪試合に間に合えばいいけど連絡した時余裕で明日の練習の話してたからなあのおバカガミは。


はぁ、と盛大な溜息を吐き観客席を見渡した。今日の目ぼしい試合は海常くらいで、その海常も試合時間が近いため観客席で悠長に観戦はできないだろう。
なので最悪3階席でもいいかな?と思いつつ見つけた空きがある2階席を確認すべくリコ先輩に断りを入れ、メインアリーナを後にした。



席は後ろの方だけど無事2階席で場所を見つけたはリコ先輩にメールで連絡し福田君に席確保をお願いして一旦その場を離れた。

福田君にはリコ先輩達を迎えに行くといったのだけど自身会場のざわめきに落ち着かなくじっとしていられなかった。

ロビーがある2階通路に出てきたはそこそこ混んでいる女子トイレを横目で見て正面玄関の方へと歩く。少し外の空気を吸ってから合流しよう、そう思っていたら誰かに声をかけられた。


さん?」

他校の選手やその応援に来ている人達でごった返していたから自分ではないかも、とは思ったけどなんとなくクセで振り返った。そしてそこにいた2人を見ては目を見開いた。

「え、マジ?本当に?」
「うっそ」


色を少し抜き、緩くウェーブがかった柔らかい髪と見栄えのする化粧、そして雑誌から切り抜いたような流行りのファッションに身を包んだ女の子達には顔を固くした。

この人達のことを覚えてる。が苛められていた時に笑っていたクラスの子達だ。

「見間違いかと思ったのに」「ちょっと痩せてない?昔はデブ豚だったのに」とかひそひそと話してるのに隠す気のない声量で話していて余計に身を強張らせた。



「もしかして、さんも黄瀬君の応援に来たの?」
「……違う、けど」
「見なよ。この子制服じゃん」
「あ、もしかして海常行けなかったから他の学校でバスケ部してんの?マネージャーとか?」

うわ、似合わな!と笑う彼女達に周りにいた人達も何だろう、とこちらを見てきての眉が寄った。

「そっか。さんバスケ部入ってんだ。うわーご愁傷様。折角全国まで来たのに可哀想」
「黄瀬君狙ってダイエット頑張ったのかもしんないけど全部無駄だから。ていうか全然懲りてないとか笑えるんですけど」
「さっさと負けて帰れよブス豚」


吐き捨てるような言葉にはぐっと拳を握った。衝動的にこのまま殴ってやりたい気持ちになったけどそれは理性が押し留める。悔しいのに彼女達に言い返す言葉がどうしても浮かばない。

彼女達の心無い言葉を入れない為に思考を切っているせいかもしれない。ここで逃げれば彼女達が増長する気がして、でも言葉がうまく浮かばなくてただ彼女達の笑い者として立っているとの横に誰かが立った。



「そこを退いてくれないか?」



聞こえた声はとても通る、ある意味聞き慣れたものだった。
なんとなく達の雰囲気が不穏で近くにいた人達は遠巻きにして歩いていたのだがその人物は真っ直ぐこちらに来て立ち止まった。

顔をそちらに向ければ赤い髪が1番最初に目に入る。彼の表情は無表情に近いものだったが彼女達は頬を染め「あ、赤司君!」と慌てて道を開けた。

も壁に背をつけるように道を開けると赤司君が再び動き出したが何か思い出したように「ああ、そうだ」との方を見やった。


「久しぶりだね
「……っは、はい」
「今日の試合楽しみにしているよ」
「…うん、」

の方を見て口許をつり上げる彼を見るのも、直接話すのも全てが初めてだったが、彼の言葉に乗るようには答えた。

「それで、お前達はいつまでここで往来の邪魔をしているんだ?」
「「えっ」」
「応援に来たわけじゃないのならさっさと帰ってくれないか?」


邪魔だ。と彼女達に赤司君が視線を向けると目に見えて顔を青くさせそのまま逃げるように去っていった。嵐が去ったことには息を吐くと赤司君はこちらに目すら向けずさっさと行ってしまった。

緊張もあり、声をかけそびれたはしばらく彼の姿を目で追っていたが人ごみに紛れてしまってすぐに見えなくなった。




2019/07/29
お初赤司様。