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ジャージに着替え、顔を洗ったはタオルを首にかけ鏡を見る。酷い顔だけど気持ちは落ち着いた。

女子トイレを出て選手控室に向かっているとまた呼び止められた。今日は呼び止められる日が多い。
女の人の声に少し緊張しながら振り返るとクラスメイトの女子が2人、そわそわとした表情で立っていた。


「どうしたの?」
「あ、あのね!ちょっとでいいんだけど火神君呼べない?」
「直接応援してるって伝えたいんだ」

やっぱり火神はモテるようだ。なんか懐かしいな、と他人事のように考えたが彼女達を見ては申し訳なさそうに微笑んだ。

「呼びたいのは山々なんだけど、もうアップに入っちゃってるし私も試合ギリギリまで近づかないようにカントクにいわれてるんだ」
「え?何で?」
「今日の試合の相手、インハイで負けたとこだから……みんないわないけどピリピリしてるの」


嘘はない。みんな時間が近づくにつれ神経を研ぎ澄ませているのが見てとれた。
火神がクラスメイト直々に応援されて嬉しくないとはいわないだろうけど、あの緊張感を切らせるようなことはしない方がいい気がして目の前の2人に申し訳なさそうに謝った。



「そっか。それじゃ仕方ないね」
「ごめんね。でも観客席からでも声は届くから。応援してくれたら火神君達も心強いと思う」
「うん。わかった!私達たくさん応援するね!」

素直な反応にいい子達だな、と思った。火神の人柄のお陰かな…黄瀬君が悪い性格という訳じゃないけど。
「私達が来てるってこと火神君にいっといてね!」と手を振る彼女達には頷き手を振り返した。純粋で一途で可愛いなんて羨ましいな、と思った。



「時間よ!」

リコ先輩の一声でみんなが一斉に動き出す。アリーナに向かう道すがら1人控室に残っていた火神も黒子君と一緒にやってきた。全員が合流しいよいよだと、緊張感と高揚感が空気で伝わってきた。


「目の腫れ、まだ残ってんな」

そんな中、の横に並んだ火神はそんなことをいってそっと目尻に触れてくる。まだそんな余裕があったのか、と驚いたが心配させてるみたいで申し訳なくて、少しムキになって「大丈夫よ」と返した。

「腫れてても前くらい見えるし。応援もできるから」
「ならいいけどよ」

軽口を火神はフッと笑って流しの頭を撫でて行く。やっぱり心配をかけていたらしい。私のことはいいのに。少なくともこの試合だけは忘れてくれていいから。


「試合、頑張ってね」
「ああ」
「テツヤ君も無茶しちゃダメだよ」
「はい」

無茶な練習はこの半月見ていたから正直心配の方が大きいけど、彼の顔を見たら他にいう言葉が浮かばなかった。


「勝って次の試合に行こう!」


脳裏にはインターハイの勝敗が過ぎる。でも負けられない。負けてほしくない。そう願っては大きな2つの背中を激励するように叩き光の中へと送り出した。




2019/07/31