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ウインターカップ2日目。誠凛の次の対戦相手は本日試合がないので本気で観たい試合は秀徳戦くらいしかない。
その為早々に集まり次の試合のミーティングをした後会場に入ったのだがは何故か別のところで熱い?戦いをしていた。
「だああっくっそ!このモンスターマジつええ!」
「そりゃお前が昼夜間違ったからだろ。悪いさん!頼む!」
「わかりました」
青いジャージに囲まれながらはぎこちなく微笑み頷くとアバターを走らせモンスターにダメージを加えた。
そう。は海常の人達に捕まったのである。海常の人達も昨日の試合で第1戦は終わっていて、誠凛同様明日まで試合はない。その為、達と同じく観戦気分で会場に来ていて、そして時間を持て余していた。
なんの嗅覚かはわからないがいつものように黄瀬君が黒子君をハントし、に「これ見てくださいよ!」と自慢げに最近ゲットした報酬と装備を見せつけ、これが欲しかったら一緒にゲームしましょ!と半分脅しのような誘い文句で拉致され今に至る。
笠松さんに邪魔だと睨まれたので海常がいる席にはいないが、3階席の、人が少ない場所を陣取ってゲームしてる姿は他校の人達にもバッチリ見えていることだろう。
せめて私服じゃないとな、と思いながらミッションをコンプリートした。
「流石だな!」
「いえ、早川さん達がかなり削ってくれてたお陰です」
ありがとうございます。お陰で簡単に倒せました。とぎこちない笑顔のままお礼を言うと、森山さん達が呆けた顔でを見て、それからジーンと感動したような顔で震え、手で口を隠した。
「ああ!女子マネージャーいい!最高!海常にもこんな可愛い後輩欲しかった!!」
いきなり叫ぶ森山さんにかなり驚いたが、「お役に立てたなら良かったです?」と小首を傾げると小堀さんまでジーンとした顔で涙目になっていた。
「アイテム欲しいのあるか?あったら何でも回すからな!」
「あ、ありがとうございます」
「俺も!足りないやつあ(れ)ばやっからいってく(れ)よ!!」
「あわわ。すみません。ありがとうございます…!」
「黄瀬!黄瀬!こういうのだよ、こういうの!後輩はこうでなくちゃ!!」
ちょっとは先輩を敬え!と森山さんが嬉々として黄瀬君がいる座席を足で押している。「え〜!俺だって敬ってますよ!」と口を尖らせているが先輩達には悉く「ないな!」と否定されていた。少し可哀想だった。
「っち!今度は俺と遊びましょ!リベンジっス」
「ダメだ。そろそろ秀徳戦だろ」
「そうです。いい加減戻らないとカントクに怒られます」
「えええ〜!」
背凭れに乗り上げPSPを掲げる黄瀬君にはどう返したらいいものか、と考えていると声を出す前に両隣が答えていた。心強いというかなんというか。
黄瀬君にまた拉致られた時リコ先輩の機転で黒子君と火神がボディーガード代わりについてきてくれたお陰で大分精神は安定していた。まあ、違った意味ではこちらも落ち着かないのだけど。
「折角っちに見せつけようと思ってたのに」とぼやく黄瀬君に何とも言えない顔で聞いていれば「うわ、近くで見ると更に異様だわ」という声が聞こえ一斉にそちらを見やった。
「高尾君に緑間君」
驚き声をあげれば「え、何ゲームしてたの?こんな時に?」と高尾君に笑われた。
「これから俺らの試合あんのに悠長にゲームとか、余裕だな」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
「黄瀬君に無理矢理連れてこられただけですよ」
「え?!そりゃないっスよ黒子っち!っちだってやりたいっていったじゃないっスか!!」
「お前がゲーム機持ってるか?って聞いただけでは"やる"なんて一言もいってねーぞ!」
「おいマジかよ黄瀬!」
「お前無理矢理さん連れてきたのかよ!」
最低だな!と面白がってるのか、真面目に怒ってるのか、はたまた日頃の恨みなのかよくわからないけど、みんなに畳み掛けられた黄瀬君は寂しそうに背を丸めいじけてしまった。不憫だ。
声をかけた方がいいのかな、と考えていると黒子君が聞きたかったことを高尾君達に問いかけた。
「緑間君達はどうしてここに?」
「いやあ、俺ら反対側の2階席にいたんだけどよ。なーんか見覚えのあるジャージが仲良く座ってっから気になって確認しに来たんだよ」
まさかそこでゲームしてるとは思わなかったけど!と笑う高尾君に隣にいた緑間君は「まったく、時間の無駄だったのだよ」と吐き捨てるように眼鏡を弄った。
「えーいいじゃん。それに真ちゃんだってちゃんに会いたがってただろ?」
「あ、会いたがってなどいないのだよ!!」
声を荒げる緑間君に驚きはしたがそれと同時にあることを思い出したはバッグを漁ってあるものを取り出した。
「緑間君、これ」
「……なんなのだよ」
受け取りやすいように立ち上がり腕を伸ばしてみたが緑間君は何故か警戒してこちらを見てきた。そんな変なものじゃないんだけどな。
「おは朝見たよ。月間アイテムとかもあるんだね。驚いた」
「…だから何だ」
「今日のラッキーアイテム見て買うのは無理だったから月間アイテム持ってきたの」
「……」
「前にラッキーアイテム貰ったからそのお礼」
もう持ってると思うけど、と袋を差し出せば緑間君は眉間に皺を寄せながらも受け取ってくれた。なんでそんな警戒心バリバリで見てくるの?
「え〜いいな真ちゃん。それ実質クリスマスプレゼントじゃん」
「なっ」
「ええ?緑間っちにだけプレゼントとかズルくないっスか?」
「ズルくないのだよ!!」
高尾君と黄瀬君に茶化され緑間君は「礼だといっただろう!」声を荒げたが、渡したものを突き返されることはなかった。
そのことに内心ホッと胸を撫で下ろすと緑間君は気を取り直すように咳ばらいをし、ポケットから何かを取り出すとの前に差し出した。
「携帯にまだアレをつけているんだろう?」
「え、あ、うん」
「それはいい加減外せ。つけるならこれにしろ」
効果がないものをつけていても無意味だ。という緑間君から手渡されたのはビーズのケータイストラップだった。
その可愛らしいストラップに高尾君が噴出していた。多分、これを買った緑間君を想像したんだろう。
「いいの?」
「それを俺が持っていても効果はない。お前の今月のラッキーアイテムだからな」
「…そっか。ありがとう」
そういえば、緑間君の星座を確認しただけで自分のまでは見てなかったことに気がついた。
緑間君っていい人だなとはにかみお礼をいえば、彼は慌てたように眼鏡のブリッジを弄り「せ、せいぜい頑張るのだよ!」といい捨てさっさと階段を下りて行ってしまった。
「ぶふっ!真ちゃんってばわかりやす過ぎっしょ」
「あいつ、敵に塩送ってんのわかってんのか?」
「…さあ」
「なんつーか、青春?」
「いや、俺ちょっと寒い…」
さっさと行ってしまった緑間君になんとなく置いてきぼりを食らったような気分で見ていると周りにいた男子達が口々に感想を述べ、「緑間っちのツンデレとかマジありえねーっス」という黄瀬君の一言で何人か噴出したのだった。
なんというか、平和だなと思ったのはいうまでもない。
2019/08/05
2019/08/06 加筆修正
黄瀬と見せかけて緑間&高尾襲来。