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家にあったハンディカメラを持ち、動作確認をしながら歩道を歩く。
冬の朝は寒くて嫌だが天気はまだ良い方なので歩いていればそのうち身体も温まるだろうとカメラをバッグに仕舞った。

冬休みに入ったお陰かこの時間に出歩いているのは仕事に出かける大人達か用事がある人達くらいで学生服の子達はほぼいない。

昨日は青峰にシュートを教わりに行くという黒子君に付き添うかどうか聞いたら『本当に教えてもらえるかわからないのでとりあえず1人で大丈夫です』といわれ大人しく帰ったのだけど、家に着いて携帯を見たら明日例のコートに来てほしいとメールが来ていた。

青峰に教わることができたのかな?と朝携帯を確認してみたが黒子君からの通知はないままだ。


メールといえば黒子君のメールと一緒に高尾君から写真付きで昨日の試合のベンチに今月と今日のラッキーアイテムが並んでる画像が届いていたことを思い出した。

律儀に並べて置いてくれてる緑間君は本当にいい人だなと思ったのはいうまでもない。
も返信で以前貰った緑色のお守りを撮って『新しいやつ携帯につけました』と送ったら『試合中のどっかで確認しに行く』と返ってきた。

お互い会場にいるからその間ならいつでも会えそうだけど待ち合わせくらい決めた方がいいかな?と考えたところで待ち合わせのコート入り口が見えてきた。



「(…でも、よく考えたらダブルアイテムだし、物凄く強くなってるってこともありうるんだよね…?)」

効果が2倍で秀徳が強過ぎたらどうしよう、と悩みつつ入り口を潜ったらコートに行き倒れが2人いてが固まった。

人間驚きすぎると声すら出ないらしい。

飛んでいた思考が戻ってきて脳が処理していくと、とりあえず見覚えのある水色頭がうつぶせに倒れているのがわかって足がもつれそうになりながら急いで駆け寄った。


「テ、テツヤ君?!大丈夫?!」

身体を仰向けにし抱き起せば黒子君の瞼が震え、ゆっくりを目を開いた。良かった。生きてる!

、さん…?」
「うん。そうだよ。一体何がどうなってるの…?」

何でキミ達倒れてるの?と聞くと黒子君はぼんやりした顔で少しずつ思い出すように口を開いた。


「青峰君にシュートの練習を教わっていたんですが、途中からお互い結構本気になってしまって…合間で休んだり、バスケしたり、寒くてバスケしたり、していたんですが、終わるタイミングがわからなくなって……気づいたら朝でした…」
「いやもうそれ、シュート練習忘れてるよね?しかも今日試合って忘れてるよね?」
「…あ、そういえば…」

確かに時間がないといったけど、でも夜通し練習しろとはいってないよ?
ああもう、と頭を押さえると、ゆるゆると起き上がった寝ぐせの酷い黒子君がぼんやりした顔のままをじっと見つめた。



とろんとした目はまだ半分くらい夢の中みたいだけどなんとなくそわそわしてしまう。
先日からじっと見つめられることに更に不慣れになってしまい、逃げ出したかった。でも、風邪をひいてたら困るので熱を測ろうと手袋を外した。

熱を測るだけ、熱を測るだけ。そう頭の中で繰り返し額に手を伸ばすとひやりとする黒子君の指先に捕まった。
それだけでも驚きなのに彼はの手を頬にくっつけ幸せそうに微笑むから顔の体温がぐわっと上昇する。

指も頬も冷たいけど彼の蕩けるような顔にはまた思考が飛びそうだった。

「…さんは温かいですね」


彼の行動に戸惑い固まっていると手の温度だけでは物足りなくなったのかこちらににじり寄り、そして手を広げてを抱きしめた。
お互い座り込んでいるから特に身長差もなく簡単に抱きしめられるけれども、黒子君の意外過ぎる行動にはわたわたと彼を呼んだ。


「ちょ!テ、テツ…っ」
「あったかい…」

頬に当たる耳が異様に冷たいし頬も冷たいから冷えているんだろうけどこの距離感は、この接触は頭の整理がまだできていないには刺激が強すぎて狼狽することしかできない。ヤバい。頭が熱で沸騰しそうだ。

前も思ったけど、黒子君の力ってやっぱり男の子だなって思ってしまう。全然解ける感じがしない。
彼の腕の中でジャージを引っ張り動揺を表していると黒子君は身体を震わせ笑ったのが聞こえた。え、そこ、笑うとこですか?


「可愛い…」


そんな柔らかい声が耳元でダイレクトに聞こえたものだから、の心臓はこれでもかと壊れて思考がぶっ飛んだ。



もうダメ。脳の処理が追い付かない…。



次に思考が戻ってきたのは黒子君が思いきりを引き剥がした時だった。ぐわんと揺れる頭に驚き目を瞬かせると、顔を真っ赤にした黒子君と目が合った。

「お、おはようございます…」
「おお、おはよ………お、起きた?」
「起きました…」
「……」
「…あの、夢、じゃないですよね?」
「ざ、残念ながら…」


よく見えるようになった顔を見れば、バツの悪い顔と声で申し訳なさそうに頭を垂れる黒子君が映り、も苦笑で返すしかなかった。
寒いと温かいもの欲しくなるよね。湯たんぽがあったら顔も緩んじゃうよね。大丈夫大丈夫。そんなこともあるよ、多分。


「…顔、洗ってきます」
「あ!その、い、行くならそこのコンビニで顔洗って、少し温まってきた方がいいかも」

あまり勧められたことじゃないんだけど手も冷たいし暖房で暖まって、それで何か食べるもの買えばいいんじゃないかな、と進言すれば「はい。そうします」と素直に頷きとぼとぼとコンビニへと向かっていった。


いや、振り返った。
2号が別れ間際に見せる寂しそうな顔というか申し訳なさそうな顔というか、そんな顔でこっちを見てくる黒子君には赤い顔で口許とをつり上げた。

「ここで待ってるから」と手を振れば黒子君も赤い顔のままこくりと頷き今度こそコンビニへと向かっていった。



き、緊張した…。

黒子君に対して吐くなんてことはないけど、でもそれくらい心臓というか緊張というか胃に負荷がかかっていて、内心粗相をしなかった自分にホッと胸を撫で下ろしたのはいうまでもない。




2019/08/08
黒子テツヤ君だって男の子。