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ほぼ連日の大胆な黒子君に眩暈と心臓に痛さを感じていると視界にもう1人入り、大きく深呼吸をしてそちらに向かった。
もう片方の行き倒れは仰向けに寝転がっているがどうみても寒そうだった。
「(生きては、いるよね…?)」
恐る恐る手を鼻先まで近づけると規則正しい呼吸が聞こえホッと息を吐く。
流石にジャケットくらいあるだろう、と見回すと端の方に彼のものらしきジャケットが見えそれを取りに行った。
屋上で顔を合わせていた頃は互いに干渉しないのが暗黙のルール、みたいなのがあったので(今となっては私しか思ってなかったのかもだけど)なんとなく起こさない方がいいのかなと思いそっとジャケットかけてやる。
黒子君が帰ってきたら青峰のことも起こしてやろう、そうコンビニに行った黒子君の姿がないか確認していると足元の方で身じろいだ音がしたので視線を戻した。
見れば青峰は寝心地が悪そうに眉を寄せ顔の方向を変えた。そりゃこんな固い地面じゃ寝にくいだろうと思っていたがふと、青峰の目尻が光ったのを見てドキリとした。泣いてる?え、泣いてる??
それを見た途端、はさっきとはまた違った意味で身体が固まった。
青峰の顔をもう1度見ると確かに目尻が光っていてそこから重力に従って1本の水の筋ができている。
そう認識したは跳び上がるかのように肩を揺らし、周りを素早く見て、そして自分のバッグから新しいタオルを出し、そのまま顔を隠すように青峰の目に押し付けた。
何となく、見てはいけないものを見てしまった気がして動転した。
見えなくなった彼の顔に無意識にホッと息を吐く。
「ふご、」
「うわ!」
やばい!鼻まで塞いでた!くぐもった声を上げた青峰にはまた慌ててタオルを外した。いけない。青峰を窒息死させるところだった…。
ダラダラと冷や汗を流しながら青峰を伺うと更に眉間の皺が増えたが起きることはなかった。緑間君のラッキーアイテムのお陰かもしれない。
はしばらく青峰の顔を伺うように見ていたが、少し悩み、そして彼の頭をそっと持ち上げ自分の膝に乗せた。
窒息死未遂してしまったお詫びだ。私の膝枕にあまり価値はないだろうけど青峰は何度か膝枕をしろといってくるから寝ている間にこうしても怒らないかな、と思った。怒られたらもうどうしようもないけど。
とりあえず顔が見やすくなったので涙の痕跡を拭き取り1人満足したは改めてまじまじと青峰の顔を眺めた。
あのプライドが高い青峰がね、と思う。いつもは横だが今日は逆さなのでまた違った感じに見える。そう見えるのはいつもよりも顔が疲れててクマが少し見えるせいかもしれない。
それだけ一昨日の結果が大きく青峰に響いているのかなって思った。
彼の事情を詳しくは知らない。黒子君の情報と顔を合わせた時の雰囲気で以前ほどバスケが楽しくなくなったのだろうな、と思ったくらいだ。
試合を観ていた時はそんな雰囲気は微塵も感じなかった。
黄瀬君が憧れるバスケが大好きな少年。黄瀬君とはまた違った意味でキラキラと輝いていたように、今なら思う。
だから屋上で出会った時、見間違いだと思った。それくらい青峰からキラキラとしたものがなくなっていた。
「(今は少し…でも、疲れてる方が強いか)」
まだ怖い雰囲気を纏ってるけど近寄り難さは減った気がする。いいのか悪いのかわからないけど。
でも黒子君同様、負けたくらいで心が折れるような細い神経は持ち合わせていなさそうだとこの夜通しやってたバスケットで証明してしまったのでタフだな、と少し呆れ、感心した。
でもまあ、いくらこの後試合がないとはいえ無理しすぎだよね、と彼の両頬を手で包んでみる。その冷たさに桃井さんに告げ口して叱ってもらうべきかな、と考えていたら青峰が唸り、ぱちりと目を開けた。
「……」
「お、おはよう」
桃井さんに告げ口しようかな、と考えていたのが伝わったのか(何気に桃井さんに頭上がらないのかな)、黒子君よりもばっちり目を開いたことには驚いた。
いきなりかち合った視線に肩を揺らすが、窒息未遂の件が脳裏を過ったのもあり取り繕うように挨拶してみる。
しかし青峰の反応は特になかった。寝起きのせいだろうか?と思いつつも「こんなところで寝たら凍死するよ?」と微笑んでみたら何故か彼の眉間に皺が出来た。
「…んで、テメェがここに、いんだよ」
まさかの不機嫌?!げ、まさか殺人未遂事件を覚えているのでは?と顔を引きつらせると青峰はかけられたジャケットの中から手を出し、の顔に手を伸ばしてきた。
え、何?と緊張の面持ちでその手を見つめているとの頬に触れ形を確かめるように撫でてきた。ちょっとくすぐったい。
「いたた、ちょっと何?」
「マジかよ。本物か?」
「いや、そういう時は自分の頬抓らない?」
何で私の頬を抓るのよ。ぐに、と摘まんでくる指から逃げるが長い腕は容易にを捕まえ、頬を撫でてくる。いや、だから、何なの…?と困り果てているとその手がの後ろ頭に回りぐいっと屈まされた。
「お前ってマジでどこにでもいんのな…」
「そういう訳じゃないんだけど……何か、温かい飲み物買ってこようか?」
緊張した面持ちで見つめ返すと別に未遂事件を覚えてるわけではなさそうだった。
それにちょっとホッとして、そしてやっぱりなんとなく視線を合わせているのが落ち着かなくて逸らしながら聞いてみると「あぁ」と気のない返事が返ってきた。
「…あの、放してくれない?」
日が出てきたとはいえまだ地面は冷たく、足も冷えてきたしコンビニに行こうとしたが頭の後ろに回った手が邪魔だった。
これがあると立ち上がれないというか、膝の上に乗ってる頭の重みも変わらないままだ。
もしかして動く気ないのか?と少しだけ視線を戻すと膝に乗っていた重みがフッとなくなり唇に何か押し当てられた。
目の前にある彼の喉元にぎょっとして顔を引こうとしたが後ろに回った手が邪魔で動くに動けない。地面に手をついても変な体勢のせいで力が上手く入らず無駄にゆっくり唇を食べられた。
「っ!…ふ…ぅん、…っ」
身に覚えがあり過ぎる感覚に背中というか腰の辺りがざわつき、彼のセーターをきつく握りしめる。押し返してるはずなのに全然力が入らない手に涙が出そうだった。
角度が変わりさっきよりも深い感触に震え、止めてた息も苦しくなった頃、やっと後ろ頭に回っていた手が離れたので慌てて距離を取った。
その際ジャージが地面に擦れて変な音がしたけど破けてても構わなかった。
荒くなった呼吸で唇を手の甲を押し付けまだ残る感触を散らしいると、離れたもののまだ青峰の手が届く範囲にいたは彼の手に手首を掴まれ引っ張られる。
それを慌てて振り払うが彼は可笑しそうに口許をつり上げを引き寄せようとしてくる。
いやもうしないからね?!変なことする人に膝枕なんてしないからね?どさくさに紛れてお尻を触ってきたハラスメントジャイアンの手を叩けば、彼は吹き出すように笑った。
「お前って、本当俺のこと好きだよな」
「は?」
じゃれてくる猫のように構う青峰に赤い顔で困り果てているとそんなことをいわれ驚き目を瞬かせた。
何故そうなるの?と驚いたが言葉と自分の行動を思い出し、なんだか顔が熱くなった。いや違うし。そういうんじゃないし。
「違うし」
「へぇ?」
「ちが、ちょっと、何?…いや、待って」
こっちは青峰が泣いてたことに驚いただけで、危うく窒息させそうになったことの懺悔であって、別に好意的な意味はないのだけどそれを言葉にするにはなんとなく躊躇するものがあって言い淀んでしまった。
否定はしたものの、言葉に出来ないを青峰はどう解釈したかはわからないがあまり良い方向ではないようで、ニヤついた顔でこちらににじり寄ってきたので警戒するように構えた。
そして難なく捕まえたの腕を引っ張ると青峰の鼻先まで引き寄せられてしまう。
「違うっていうなら、何だっていうんだよ」
「……」
「なんにもしゃべらねぇならここで襲うぞ」
「…な!」
近い距離と強い視線に目を逸らせばとんでもない爆弾発言が飛んできて耳まで赤くなった。
何この人。何をいってるの?と動揺を隠さず見ればジャイアンの目が嬉しそうに細くなり掴まれた腕を更に引っ張ってきた。
あ、キスされる。と頭の中で警報が鳴ったが身体が行動を起こすにはほんの少し遅くて近づく青峰をただじっと見つめていると変なタイミングで「ゴフ」という声と共に目の前の彼が地面に崩れ落ちた。
「青峰君。さんを誑かすのやめてください」
「テツ?!てめっなにす、ごはっ」
「朝から何やってるんですか。通報されますよ」
「…だから、て、腹にボールを落とすんじゃね…ぐはっ!」
解放されたは急いで離れると丁度青峰の鳩尾の辺りにボールを落としている黒子君がいつもの無表情な顔で彼を見下ろしていた。
練習でもないのに桐皇のエースがお腹にボール落とされてるのはちょっとシュールだな、と思った。
「さん。大丈夫ですか?」
「う、うん。まあ…」
青峰を撃沈させることに満足したらしい黒子君がこちらを気遣ってきたが、彼の顔は見れなかった。
別に付き合ってるわけじゃないから気にしなくてもいいとは思うんだけど、ふと出てきた罪悪感に思わず顔を逸らしてしまった。
ヤバい。このまま逃げたいとか穴があったら埋まりたいとか思ってるんだけど。それくらい恥ずかしい。どうしよう。
「つか、お前ら知り合いだったのかよ」
ああもう私、何やってるんだろう。
どっと疲れた気分で立ち上がりジャージについた埃を払っていると、ジャイアンが若干涙目でこっちを睨みながらこれまた今更なことを投げかけてきたので半目で彼を見返してしまった。
「何を言ってるんですか。さんは誠凛のマネージャーですよ」
「はあ?マジかよ…」
まあ、そんなことだろうとは思ってたけど本気でそう思ってたとは思わなかったよ。驚いてる青峰に黒子君と一緒に呆れていればポケットに入れていた携帯が震えた。リコ先輩からだ。
内容と時間を確認したは携帯を閉じるとしょうもない問答をしている2人を見やった。
「はい。今日はもう解散」
「え?」
「は?どういうことだよ」
「言葉の通りだよ。夜通し練習とかありえないから。2人共帰って寝ること。シュート練習するなら今日の試合が終わってからだよ」
徹夜で試合に出れると思わないでよね、とテツヤ君をチラリと見やると反省してる顔で「はい」と大人しく頷いてくれた。
それにホッと息を吐き、自分は時間までどうしようかと考えていると肩が急に重くなった。
見なくてもこんなことをする奴は1人しかいないが渋々隣を見れば青峰がの肩に腕を回し、少し拗ねた顔でこちらを見ていた。
「腹減った。何か食わせろよ」
「……(タカるつもりか)」
「テツのシュート練習付き合ってやってるんだ。それくらいはいいだろ」
「……(しかもガラ悪い)」
「…2人こそ仲が良いようですが、知り合いだったんですか?」
体重をかけるように寄りかかる青峰の近さと鬱陶しさにじわりと戻ってきた赤い顔を歪めていると、「クラスが被ったことありませんでしたよね?」と訝しげに黒子君が聞いてきて内心ギクリとする。
別に隠す必要も何もないのだけど、先程のことがチラついて黒子君をまともに見れず戸惑った。
もしかしてさっきキス、見られた?と思ってしまったから余計にだ。
「知り合いっつーか、」
「顔見知り程度だよ」
知られたところで黒子君にとって節操のないマネージャーに格下げになるだけだろうけど、にとっては死活問題レベルなので思いつく限り慎重に答えた。
しかしその答えに反応したのは青峰の方で、彼は「はあ?」と眉を寄せると腕を首に回し頬をやや強めに引っ張ってきた。
「テメ、顔見知り程度ってどういうことだよ」
「どうもこうも、そのままだよ…っ」
痛いってば、と近い顔を手で押せば「青峰君。さんを苛めないでください」とお兄さんのように諭す黒子君の合いの手が入り、青峰は渋々から離れた。
「だって私の名前知らないでしょ」
「ああ?」
「名前、いえる?」
「……」
「……」
「……」
今の今まで互いの名前を呼び合ったことがないのだ。再会した時も太ももとか枕とかいわれてたくらいだし。
未だにマネージャーだと知らなかったというならそれもありうると思って聞いてみたがしかめ面の彼から出てきたのは名前だけだった。
それだけでもうわぁ、と思ったが試しに苗字を聞いてみると沈黙で返された。
「青峰君。最低ですね」
それじゃ顔見知りといわれても仕方ないですよ。と黒子君にバッサリ切られて彼は撃沈していた。
「そういうテメーはどうなんだよ!」
「青峰大輝君でしょ」
昨日もインハイも散々苦しめられたのに知らないわけないでしょ。と呆れた顔で返せば、悔しそうに睨んできた青峰が驚きとちょっと嬉しそうな顔で目を瞬かせた。
そんな彼に…お前な、と思ったのはいうまでもない。
2019/08/09
丁度黒子が名前を呼んだから答えられたけどマジで名前を知らなかったアホ峰君。