81


氷室さんは強いと思う。
試合を観てもそう思ったし、アレックスさんがキセキの世代同等の強さを持っているといっていたのを聞いた時も、すんなり納得したくらいそうだと思っていた。

けれど、氷室さん本人と話したら火神に対してかなりの劣等感を感じているみたいだった。火神はそこまで凄い才能に恵まれているのだろうか?


頬に触れ、今はもうない氷室さんの手を思い出す。少し震えていた。
あんなことほぼ初対面の他校の人間に話す内容じゃなかったはずだ。内容が内容だけに氷室さんを困らせたんだろうなと、今更になって後悔と罪悪感が芽生えた。バレたら火神に説教されそうだ。

やってしまった。と頭を抱えたのはいうまでもない。



*



黒子君がシュート練習をしているコートに向かうとそこには青峰と桃井さんもいて少し賑やかだった。
が中に足を踏み入れると丁度シュートが決まり、桃井さんが嬉しそうに黒子君に抱き着く。

それをなんとなく心に留めながら歩み寄ると黒子君がこちらに目を向けた。それに続くように桃井さん、そして青峰が振り返りを見やる。


「おっせーぞ」
さん聞いて聞いて!テツ君10本中もう7本も決められるようになったんだよ!」
「そうなんだ」

凄いね、と驚き黒子君を見やると「まだ7本"しか"だ」と隣に来た青峰がの頭を肘置きにしてきた。身長が高いからってそういうのやめてほしいんですけど。

あまり体重を乗せられてなかったのでついっと避ければ、前のめりになった青峰がムッとした顔で睨んでくるのでもジト目で返した。


「…けど、こんな短時間で一体どうやったの?」

そんな睨み合いはさておき、といった感じで疑問を投げかけた桃井さんに青峰は溜息交じりに「別に大したことはしてねーよ」と姿勢を正し、ポケットに手をつっこんだ。

「中学の時は必要なかったし、気づかなかったけどテツのシュートの下手さはパスに特化したスタイルの副作用みてーなもんだったんだ」

ま、元からセンスはねぇんだけど。と何気に酷いことを付け加える青峰に黒子君がピシリと身体を固くしていたがジャイアンはそのまま続けてくる。



「その副作用をなくせれば人並みにすぐ入るようにはなる。これでミスディレクションを組み合わせれば十分武器になんだろ」

『副作用?』と首を傾げた。青峰はダルそうというか適当な感じでいってるけど副作用ってなくせるものなの?

その辺桃井さんとか敏感に反応しそうだと思ったけど、黒子君の前だと彼女の能力は半減してしまうのか彼の前だからその辺にペイっと投げ捨ててしまっているのか、ウキウキ顔でシュートをもう一度せがんでいる。

なんというか、恋する乙女可愛いな。
いいなあ、とぼんやり黒子君を応援する桃井さんを眺めているとまた頭が重くなり、今度はさっきよりも圧がかかって視界が斜めになった。


「首が痛いんですけど」
「お前こそ顔が能面になってんぞ」

テツじゃねぇんだから、と呆れる青峰に「煩いな」と返して黒子君を見やる。あ、外れた。


「というか、副作用って?」
「…いってもわかんねぇよ」
「でも、前はそれが効いていたからこその副作用でしょ?それをなくすってことは前のものが使えなくなるってことじゃないの?」

今度は無事入ったシュートに桃井さんが手放しで褒めている。それを見ながら青峰に聞こえる程度に伺うと、彼は「さぁな」と返してきた。

「その辺はテツに教えた赤司しかわかんねぇよ」
「……」
「もしくは、試合でわかるんじゃねぇか」

嫌が応でもな、と零す青峰には何とも言えない顔で彼を見上げた。青峰も断定できない、といったところだろうか。もしくは答えはあるけどいいたくない、とか。



パスはともかく、黒子君のミスディレクションはここぞという時に使って効果があるから出ている時間が長ければ長いほど効果が薄れる。

他にも色々特異な技を身につけたけど基本スペックは低いままだ。
低いままでも使えることは凄いことだけどそれも徐々にズレが生じてる気がする。

もしかしたら近い将来『影』ではなくなるのでは?という気さえしていて、それは果たしていいのか悪いのかには判断できないけど漠然とそんな気持ちにさせられていた。


「…なんというか、青峰君ってテツヤ君のこと好きだよね」
「?!はああ?」

と同じではないにしろ青峰も黒子君のことを色々心配してるんだなとわかって言葉にしてみると、彼は大いに慌てふためき「何でそうなんだよ!」との頬を引っ張ってきた。

「いた!いや、だってそうでしょ?なんだかんだいってちゃんとできるまで面倒みてくれたし」
「それは、テツがしつこいからだよ!」
「でも、また戦いたいって思ったから教えたんでしょ?」

低い基本スペックでも天才じゃなくても黒子君だからまた戦いたい。強くなってほしいって思ってるんでしょ?

引っ張られる頬の痛みに涙目になりながら青峰を見やるとかれはこれでもかと眉を寄せ、思いきり引っ張った頬をパッと放した。舌打ちしてるし。図星か。



「大ちゃーん。何してるの?」
「青峰君。さんを苛めないでもらえますか」
「苛めてねーし!つか、こいつが変なこというから」
「だって青峰君、絶対教え方下手だと思ってたのにちゃんとシュートできるようにしちゃうんだもん。バスケだと本当気が合うよね、て思って」
「はああ?!」

「あ、それ私も思った!大ちゃんの教え方すっごい下手だよ!ばー!とかしゅばばーっとかしかいわないもん!テツ君よくわかったな〜って思ってた!」
「んな!さつきまで何いってんだよ!」
「まあ、付き合いはそれなりなので勘でなんとか乗り切りました」
「勘なのかよ!!」


そこはもっと他に何か言い方あんだろ!とジャイアンが叫んだが代案は浮かばなかったようで、彼の声だけがむなしく寒空に響いたのだった。




2019/08/15
青峰って負けた後の方が出番多いですよね。