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会場前で固まっていた足も動くようになり、なんとかマネージャーの仕事をこなしていると降旗君に声をかけられ振り返った。どうやらにお客さんらしい。


「誰?」
「それがさ…」

彼が見る方を倣って見やるとオレンジのジャージが2人立っていて片方の彼がにこやかに手を挙げていた。高尾君と緑間君だ。

降旗君に礼をいって慌てて駆け寄ったは忘れないうちに「準決出場おめでとう」と声をかければ2人共別々の反応を示した。うん。緑間君の眼鏡弄ってからのドヤ顔は安定してますね。

でも、用事って何かあったっけ?と首を傾げたら高尾君が「やっぱ気づいてねぇし」とがっくり肩を落とした。
どうやら携帯に連絡をくれていたらしい。

サイレントにしていたから気づかなかった…!と慌てて確認するとしっかり高尾君の名前が表示されていて冷や汗が流れた。


「ご、ごごごごご、ごめんね…!」
「まあ、いいけど、な。真ちゃん」
「……何故俺に振るのだよ」
「だってちゃんと見ておきたかったろ。これ」

高尾君が指さす方を見れば揺れるストラップがあり、そういえばとも目を瞬かせた。前に高尾君が携帯のストラップを確認しに行くとかいっていた気がする。

「緑間君ありがとうね。可愛いよこれ」
「……」
「照れるなよ真ちゃん」
「照れてなどいないのだよ!!」



声を荒げる緑間君だったが妙に慌てていてちょっと挙動不審だ。これがツンデレか…とちょっと納得するように見ていると視界にぬっと高尾君が現れ肩が揺れた。近いです高尾君。

「うーん、」
「…え?な、なに?」
「まぁだ表情がかてーなぁ」

後ずさるを追いかけるように高尾君はじっと見つめてきて心臓に悪い。しかも距離感がが感じるものよりも近い気がして視線を右往左往させていれば「しょうがねぇな」と聞こえ視界がオレンジになった。

え?と思うと同時に緩く締め付けられる感覚と温かさに目を見開く。どうやら高尾君に抱きしめられたらしい。


「大丈夫。大丈夫。こえーやつはいねーから」


頭をゆっくり撫でる感触と耳元で呪文のように唱える優しい声に体温を上げると「んなあ!」と誰かが叫ぶ声が聞こえた。

ぐいっと引っ張られた腕にたたらを踏むと視界に白と黒のジャージが2つ目に入る。しかし離れ離れになり、丁度目が合った高尾君はを見て驚いた顔をしていた。


「何を泣かしているのだよ、高尾!」
「うちのマネージャーに変なことすんじゃねぇよ!」
「い、いや、俺は別に…ただぎゅっと抱きしめただけで」
「抱きしめんな!」

ここは日本だろうが!と何故か帰国子女の火神がつっこんでいた。
振り返った黒子君が「さん大丈夫ですか?」と気遣ってきたのではうん、と頷く。その際ポロリと涙が落ちて自分が泣いていたことに気がづいた。



「ご、ごめん。ちょっと驚いて…」

驚いて涙が出るとかどうなのよ、と自分でつっこんだが連日の情報過多に感覚が麻痺していて涙腺も簡単に崩壊したようだ。

ここに来る前に大分泣いたのにまた泣くとか身体の水分もう残ってないのでは、と内心心配していると、盛大な溜息を吐いた緑間君が火神と黒子君を押し退けの前に立った。
高尾君ほど近くはないけどそれでも圧迫してくるような身長と視線に肩を張ると彼はスッとあるものを差し出した。


「ラッキーアイテムとはいえ小さいと効果が薄いようだからな。今日のラッキーアイテムを持ってきたのだよ」

視線を彼の手元まで下げれば携帯のストラップよりは大きくて軽い、祭りでよく見かけるものだった。

「それ、前に俺がやったやつじゃん」
「これしかないから後で返すのだよ」
「んだよ。ケチくせーな」
「これはもう販売していないものなのだよ!」

希少品なのだから仕方ないだろう!と火神に怒る緑間君に、お面を受け取ったはなんともいえない顔でそれを見つめた。



高尾君もだけど緑間君も心配してくれているのだろうか。でなきゃわざわざ会いに来てくれたり顔色を窺ったりラッキーアイテムを渡したりしないよね。

自分を理解してくれる人は黒子君しか現れないだろうしそれでもいいと思ってたけど、いい合ってる火神と緑間君や高尾君を見ていたらなんだかとても感慨深い気持ちになった。

そうか。私が思うよりもずっと私を気にしてくれてる人がいるんだ。


「ありがとう。今日の試合、勝てる気がするよ」


誠凛のみんなだけじゃなくて他校でも伝わる人はいるし、友達もできるんだな、と思えて自然な笑顔でお礼をいえば「おは朝は絶対なのだよ」と自信満々の緑間君がドヤ顔で返してきて、火神と黒子君が微妙な顔で彼を見た。
その光景を見ていた高尾君が吹き出すように笑ったのはいうまでもない。




2019/08/17
会心の一撃が素通り。それもまた良い(緑間だから)。