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準々決勝、誠凛対陽泉の対戦が始まった。ジャンプボールから高さを見せつけてきた紫原君はその後もゴール下でその体格と手足の長さを惜しみなく見せつけ黒子君達に立ちはだかった。
「(というか、中学の時よりも確実に伸びてるよね、背…)」
当たり前といえば当たり前なのだけど。
しかもの中学時代のバスケ情報は2年の中盤で止まっている。
久しぶりに対面した時は近すぎて気づけなかった、というのもどうかと思うが木吉先輩や火神と並んでいる姿を見てそんなことを思った。
「。試合をちゃんと見てられるわね?」
「…はい」
「だったら、応援も頼むわよ」
恐らくこの試合は桐皇よりも手こずるわ、と難しい顔をするリコ先輩に、も神妙な顔で頷いた。
実はお腹の具合はあまり良くない。黒子君や緑間君達のお陰で気持ちは大分回復しているけど削られた体力はどうにもできなくて少しばかり負担になっている。
視界にはその原因の一端である紫原君が必ずといっていいほど視界に入っていて苦い顔で見つめた。
「マネージャー。きつくなったらいつでもいえよ」
「応援とか仕事は俺らもやるから」
そんなを察してか降旗君達が気遣ってくれハッと我に返ると「ありがとう」と申し訳なさそうに彼らに礼を述べた。
こんな時事情を話しておいてよかったと思ってしまう。話した時は恥ずかしくてしょうがなかったけど頼りになる仲間がいてくれてよかった。
そう思い直しコートを見つめた。
試合は巨木のような陽泉の3人がゴール下を占拠し内も外も成す術がない状態が続いた。
2メートルもあると3ポイントでさえ止められてしまうのか、とか、だから緑間君は高い曲線を描く3ポイントになったのかなとか思ってしまう程度には絶望的な光景だった。
「あの、ボクにやらせてください」
18対0というぞっとするような点差にリコ先輩がタイムをとったが戦況を確認してもみんなの顔色は晴れる気配はない。も同じ表情で見ていたが黒子君と目が合い頷いた。
「やらせてくれって、まさか点を取るってこと?」
驚く小金井先輩達や心配する伊月先輩達だったが黒子君の意志は固く引かなかった。7割の確率だし相手は紫原君、もしかしたら他の陽泉の人達も妨害するかもしれない。
そのリスクを考えればGOサインなんて出せないんだけど、黒子君の言葉は何故か説得力というか変な安心感があってリコ先輩も同意することで、選手達を送り出した。
その新技は第2クオーターで早速披露されることになる。木吉先輩、火神を止めた紫原君がパスされた黒子君にも反応し止めに入る。しかし彼のシュートは紫原君の手をすり抜け見事ゴールネットを揺らした。
決められない、黒子君はシュートが出来ない、そう思ったのだろう。その思い込みと躊躇が紫原君の動きと思考を鈍らせたように思う。
固まる陽泉側にはホッと息をついた。今試合の初得点に誠凛側が湧き上がる。その後も黒子君が翻弄し徐々に誠凛側が点数を入れていくが、火神はどうしてもゴール下を守り切れず苦戦を強いられていた。
「カントク!水戸部があれじゃダメだって」
「わかってるわ!」
水戸部先輩の心配にリコ先輩も同意したが、かといって火神を下げるわけにもいかない、といった感じだ。それはあそこで陽泉の主将である岡村健一さんと競り合っている火神もわかっているだろうけど。
少し頭に血が昇ってるようにも見えてはハラハラとした気持ちで見ていたらタイミングよく木吉先輩が話しかけていて「あ、」と声が出た。
「流石ですね。木吉先輩」
火神の怒りをガス抜きしてくれてる。まあ火神はちょっとウザったそうにしてるけど。そんなことを零せば小金井先輩がプッと小さく噴出した。
その木吉先輩からもらったらしいアドバイスのお陰か攻撃に入った陽泉を止めきった火神はシュートされたボールを弾き、木吉先輩がリバウンドをとって誠凛の攻撃に持ち込んだ。
素早くシュートするつもりだった日向先輩だったが紫原君に妨害され黒子君にパスを回す。その素早い動きですら反応してきた紫原君だったが黒子君のシュートには手も足も出ず、シュートを許した。
加算された点数にも手放しで歓声に加わる。点差はまだ予断を許さないけど引き離されず食いつけている点数に大きく頷いた。
「火神君」
「ああ。ったく、逆に不気味だぜ。あいつらがこんなもんのはずねぇ……恐らく本当にやべぇのは、これからだ」
ハーフタイムで控室に戻って行く陽泉を見ながら黒子君や火神、そして日向先輩達も同じような気持ちで見ていた。
も遠のく紫原君達の背を見ていたが誠凛も控室に移動する為動き出し、それに続くように背を向けた。
2019/08/18