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天気は快晴。昨日はここ最近で1番といってもくらいに疲れ果て、家に帰ってきた途端泥のように寝てしまったけど寝起きは思ったよりも良かった。
眼福ものの黄瀬君の笑顔を拝めたからそれまでの嫌な気分が吹っ飛んだのかもしれない。森山さん達と顔を合わせた途端吹き出されてもお釣りがくるくらいだ。
イケメンの笑顔の浄化作用は最強だなと思ったのはいうまでもない。
体調も気分も上々なは今日の準決勝に万全な気持ちで臨めそうだと気合を入れた。
「。これはどこで買う?」
「これはあっちのお店の方が安いみたい」
リコ先輩特製買い物リストを見て袋を揺らしたが踵を返すと降旗君達も続くように歩き出した。
現在達はリコ先輩達とは別動隊として降旗君達と一緒に備品の補充買い出しに来ている。
「、今日元気だな」
テキパキと指示しながら買い物をするを降旗君達は少し驚いた顔で聞くので不思議そうに首を傾げた。
「昨日は紫原がいる陽泉と対戦してその後海常の黄瀬の試合も観たじゃん?今迄だったら何日か引き摺ってただろ?」
「げ。……ごめん。バレてた?」
「バレてたっつーよりは元気ないなーって感じだったけど。でも今日は普通だからさ」
いいことだと思うけど。と福田君も気遣ってくれては照れくさそうに頭を掻いた。
「紫原君は思い出すと動悸が激しくなるけど、キセリョは思ったより慣れてきた…のかも。でも全然緊張しないってことはないよ。睨まれたら即泣くくらいにはまだビビってるし」
でも、そうならないのは黄瀬君がを人と扱ってくれてるくれているせいだろうか。
黒子君の部活仲間で、黒子君は黄瀬君の尊敬する人だからの扱いもそこはかとなく良いところに置いてくれてるのかもしれない。
黒子君様々だな。と内心拝んでいると手に持っていた携帯が震え降旗君達に断り通話ボタンを押した。
「リコ先輩。どうかしました?」
『。買い物どのくらい終わった?』
「今7割です。次のお店で全部揃うのでそしたらそっちに向かいますね」
『なら降旗君達だけでも大丈夫ね』
「え?」
『悪いんだけど黒子君達と合流してくれる?大丈夫だと思うけどまだ買い物が終わってないらしいのよ』
もしかしたら火神君のバッシュが見つからないのかも、というリコ先輩にまだ終わってなかったのか…、と顔を引きつらせながらも承諾して通話を切った。
「カントク、なんだって?」
「テツヤ君と火神君の買い物がまだ終わってないんだって」
「え、マジで?」
河原君も振り返り「そういや火神って足でかいもんな…普通の靴屋にはないのかも」と難しい顔をしていても溜息を吐いた。
今日の朝一にまず黒子君から『バッシュが壊れました』と電話で連絡が来て、その後に火神から『バッシュが壊れた』とメールが来たのだ。
買った時期別々のはずなのにどんだけ仲いいのあの2人。と思ったのはいうまでもない。
しかも2人共予備がないというのでそういう大事なことは私じゃなくてリコ先輩に連絡して、と返答してしまったのだけど、まさか買い物が終わらない事態になるとは思ってもみなかった。
「ごめん。私ちょっと様子見てくるから残りの買い物任せてもいいかな?」
「ああ、いいぜ」
「残りは俺達に任せといて」
備品あっても選手いなくちゃ話になんねーしな、と苦笑する降旗君にも肩を竦めて笑い「お願いします」といって彼らとは別方向へ歩き出した。
試合は夕方からだからさすがにそれまでには間にあうだろうけど、と零したがリコ先輩の勘はよく当たるからなぁ。一応大きなサイズがある靴屋を調べておいた方がいいよね。
そんなことを考えながら足早に歩いていると目の前にスーツの人が急ぎ足でこちらに向かってきた。
このまま行けば間違いなくぶつかるのだがあちらは道のど真ん中を歩いていての方は両側に人がいる状態だ。
せめてどっちかに避けてくれないかな、と思いつつ歩いていたがやっぱり避ける気はないようで、というかそっちが退けろ、といわんばかりに鞄を振ってた。
あまりの勢いとどう見てもぶつかったら痛そうな鞄にビックリして避けたが、案の定隣を歩いていた人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
スーツの人の硬いビジネスバッグに指をぶつけられ顔を歪ませたが、スーツの人は素知らぬ顔で通り過ぎていく。あのやろう、と睨んだがスーツの人は振り返りもしなかった。
仕方なくぶつかった隣を歩いていた人にもう一度謝り顔をあげると、ふと何かが脳裏を過った。
しかしその答えを思い出す前に相手は何事もなく歩き出し、そして何故かの手も引っ張られ「え」と手元を見た。
の手には携帯が握られているのだがその携帯のストラップが彼のスポーツバッグに引っ掛かってしまったらしい。それに気づき彼も止まってくれたが、表情はいかにも嫌そうだった。
殆ど白に近い薄い灰色の髪と冷ややかな目が何となく心に残る。
しかしその印象もファスナーに引っ掛かったのが緑間君から貰った携帯ストラップだと気づくと全部ふっ飛んでしまう。何で、よりにもよってそっちなの?!
「あの、スミマセン!今、取るので少し待ってもらえませんか?」
他にもストラップがあるのに何で?!これじゃ最悪引きちぎることもできないじゃんか!と慌てて彼のファスナーに触れるも引っかけ方がよくわからずなかなか取れなかった。
緑間君から貰ったラッキーアイテムをちぎるなんてことしたくないよ!そんなことしたら絶対天罰食らう!とまごまごとストラップを弄っているとどこかでプチ、という音が聞こえ顔色が青くなった。
「待って。俺がとるよ」
「は、はい…」
ヤバい…と固まると掴んでいた手をやんわり離させた彼がファスナーに触れ、ストラップをあっさり外してくれた。
ビーズストラップを見れば1個欠けたみたいだがそれでストラップが壊れる、ということはなかった。流石緑間君のラッキーアイテム!!
「あの、ありがとうございます!」
「いや、壊れなくて良かったな」
「はい…!」
ホッとわかりやすく安堵の息を漏らすと、目の前にいた彼も嬉しそうな声色に聞こえ顔をあげれば、と目が合った。
冷たいと最初思った瞳はそこまで冷ややかではなかった。少し、人が苦手そうな感じかも、と考えるとそれを表すように視線を逸らされた。
「それと、ケガしてるぞ」
「え?…本当だ」
ファスナーを開け、絆創膏を取り出した彼はに差し出してくる。最初何の話だと思ったが自分の手を見れば先程ぶつかった指から血が出ていた。
あのスーツの野郎!当て逃げして行きやがった!と内心憤慨したのはいうまでもない。
「す、すみません!血、つかなかったですか?」
「大丈夫だ。それよりも早く手当てをした方がいい」
そういうと半ば無理矢理に絆創膏を押し付けるように手渡し、彼はそのまま足早にの前から去って行ってしまった。
「あ、」
人混みに消えるまで彼の後ろ姿を見ていたがその白いジャージを見て目を見開く。
彼の背にはローマ字で『洛山』と書かれている。道理で見たことがある訳だ。
そうか、と納得しただったが、そこで急に黒子君を思い出し自分も慌てて駅に向かったのだった。
2019/08/25
そういえば洛山組、黛だけ会ってませんでしたよね(赤司は別として)