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黒子君から居場所を聞いて指定の駅に降りると時間と出口を確認してまっすぐ改札口へと急ぐ。
メールで聞いた感じだとあとは火神のバッシュだけでそれも手に入れる目星はついたようなことをいっていた。

だったら他の店舗情報はいらないのかな?と考えているといきなり首に何かが纏わりつき思わず身を固くした。短く悲鳴を上げたつもりだったが首に巻き付いたせいか驚きすぎたせいか声にならなかった。

驚き固まっていると「ちょっと大ちゃーん!」という声に少しだけ思考が戻ってくる。
もしかして、とぎこちなく振り返れば色黒で目つきの悪い誰かさんが眠そうな顔で「よぉ」とを見下ろしていた。ジャイアンお前か!


「大ちゃんってばいきなり消えないでよね!」
「ああ悪ぃ。こいつ見つけたから捕まえといた」
「捕まえといたって…さん?!」
「ど、どうも…」

首に腕を回されてるせいでぐるりと青峰に回れ右をさせられたは驚く桃井さんと対面しぎこちない顔で笑った。何故ここに2人がいるんだろう。


その理由は間もなくわかった。
青峰と桃井さんに連れられる形でとある場所に向かうと先に黒子君と火神が待っていて、桃井さんが一心不乱に駆けていく。
抱き着かれる黒子君をなんともいえない気持ちで見ていたら「つーか、何でお前がいんだよ!」と火神が青峰を見て吠えた。

「聞きてぇのはこっちだっつんだよ」
「しかも何での肩に手を回してんだよ!放せよテメー!」
「あ?こいつは俺が捕獲したんだよ」
「(捕獲って何…?)」
「青峰君。さんをあまり困らせないでください」



私は動物か何かなのか…?と逃げられないように軽く首をホールドされてる現状に哀愁漂う顔をすれば不憫に思った黒子君が青峰を窘めた。
「私がいっても大ちゃん全然きいてくれないんだよ!さん女の子なのに!」と桃井さんも加勢してくれたがジャイアンは聞き流した。無常だ。

首輪の如く青峰の腕に繋がれたまま話を聞くとどうやら桃井さんは黒子君に呼び出されたらしい。しかも青峰が持っているバッシュを1足譲ってくれるそうだ。

何と太っ腹な、と思ったが持ち主は承諾以前の話みたいだった。やっぱり桃井さんに逆らえないのかな。


「足のサイズも同じでしょ?29.5センチ」
「何で知ってんの?!」

本当にね。しかもメーカーも同じモデルを使い続けてることもちゃんとよく調べていてはなんとなく打ちのめされた。
いや、最初から桃井さんの諜報能力に勝てる気なんてサラサラなかったんだけど、こうも差を感じるとやっぱ凄いなといわざるえない。そりゃ黒子君も頼るはずだ。


「しょーがねぇ。1on1で俺に勝ったらやるよ」


そしてもう片方の凄い奴もバッシュを賭けてバスケをする始末では溜息を吐いた。止めれるものなら止めたいけど無理だろうしな。
ゾーンはナシな、といってるからそこまで本気でバスケはしないだろう。というかしないでくれよ、と心の中で願った。



火神対青峰の対決を少し離れたところで眺めながらはしゃがみこみエアゲームを始めてみた。コントローラーを持ったつもりで目の前のゲームに参加してみようと思ったのだ。

プレーヤーは火神。青峰が敵だ。青峰ボールから始まったゲームに親指を素早く動かす。火神はスピードや跳躍は高いけど技術はなんとなく青峰の方が上みたいだ。

うーんだよね。いや、こっちでしょ。そっち投げたら取られるじゃん……あーだからいったのに。うんうん、そうそう。それでレイアップっと。

適当に内心ツッコミをいれ弄りながら「動かしやすいんだけどやっぱまだ火神君の考えてる動きわかんないんだよな…」なんて上から目線でぼやくと「さーん」と桃井さんに手招きされた。


「ここに座って座って!」
「ううん。いいよ。すぐ終わるっぽいし」
「いいからいいから!」

先程、灰崎の話をしだしたので気を遣ってリコ先輩にバッシュが見つかった件を連絡する為に離れていたのだが、その話もひと段落したようで桃井さんが自分の隣に座るように勧めてくる。

何気に桃井さんって推しが強いかもしれない。

遠回しに断ったつもりだったが腕を引っ張られ半ば無理矢理座ることになり必然と桃井さんと黒子君がくっつく形になった。それが狙いか桃井さん。



「どうでしたか?」
「試合までに戻ってくればいいって」

顔が見えるように身体をずらした黒子君が聞いてきたので言われたまま伝えるとちょっとホッとした顔になった。多分間に合わなかったらアイアンクロー再来だろうしね。

ちゃんと間に合うように戻らないとな、と携帯の時間を確認したところで携帯ストラップと絆創膏が見え、動きを止めた。脳裏にはフッと影のように彼が浮かび、なんとなしに桃井さんに声をかけてみる。


「桃井さんって洛山高校のこと、どのくらい調べた?」
「え?赤司君なら結構調べたと思うけど…」
「他の人は?」

無冠の5将とか、というと彼女は少し考える素振りをしてそれから自分のバッグを漁り1冊のノートを取り出した。

「ここに私が調べた洛山のデータがあるんだけど、さんは全然調べてないの?」
「私は基本データくらいしか。あとは去年と今年の公式データくらいかな」
「じゃあ殆ど知らないか……うん、いいよ。見せてあげる」
「え!いいの?!」


てっきり聞きたいところだけを教えてくれるのかと思いきやノートそのものを見せてくれるらしい。
そんな大事なデータを見せてもいいの?と驚き見返せば彼女は笑って「これでテツ君の役にたてるなら嬉しいし」となんとも健気で有難い言葉を頂いた。桃井さんって慈悲で出来てる聖人か何かなのだろうか。

「ほ、本当にいいの?…凄く嬉しいけど、でもなんか悪い、気が」

差し出されたノートを震える手で掴むと「じゃあ」と桃井さんが悪戯っぽく笑った。



「私のことこれから"さつき"って呼んでくれたら貸してあげる」

私ばっかり名前呼びなのちょっと寂しいし、と微笑んだ彼女は中学の頃となんら変わらない慈悲深い完璧無欠の女の子だった。

緊張でどもりながらお礼を述べたは桃井さんのノートを慎重に開いた。う、字が綺麗だ。読みやすいしわかりやすい。さすが桃井さんだな、と感心しつつペラペラとページを捲り目的の人物に辿りついた。


「(黛千尋。高3でパワーフォワードか…身長と体重と……え、趣味や女の子の好みもわかるの?え?……見てはいけない個人情報満載な気がしてきたけど…しかもこれ、本人に聞いたわけじゃ、ないんだよね…?)」

桃井さん何者??と疑問符を浮かべたところで、下方の文章に目が留まった。

「さつき。終わったから帰んぞ」
「えっ早くない?」

少し遠くでそんな会話が聞こえたがはじっとノートを読んでいるとズン、と頭が重くなり桃井さんのノートにキスしそうになった。


「何今更黄瀬の情報漁ってんだよ。見たところでしょうがねぇんじゃねぇか?」
「……重、」
「違うよ大ちゃん!さんは赤司君達の情報を見てるの」

ね!と微笑む桃井さんの顔は見づらかったがは愛想笑いで返した。お願いだから頭の上に寄りかかるのやめてもらえませんかね青峰君。



睨みようにも睨めないので片方の手で追い払うように振り回せば「おっと」といって簡単に逃げられたけど重さがなくなったので背筋を正すことはできた。その代償にの手が青峰に囚われてしまったけど。

「へぇ。これから準決で黄瀬んとこと当たるっつーのにもう赤司に合わせてんのかよ」
「い、いや、そういう訳じゃ」

囚われた宇宙人よろしくな感じで青峰に手を捕まれたは、なんともいえない顔で見上げたがジャイアンは面白そうにニヤついていた。

別に調べなくてもリコ先輩と黒子君達がいるから特に問題ないだけなんだよ。
海常が弱いとは思ってないし黄瀬君のコピーを考えると頭痛いけど、誠凛だって強いんだから。「ただ気になることがあっただけだよ」と青峰にぞんざいに返すと片手でノートを閉じ桃井さんに差し出した。


「もういいの?」
「うん。凄く魅力的なノートだけど、やっぱ悪いし、それに知りたかったことはとりあえずわかったから」

桃井さんの努力の賜物を棚ぼたで見てしまうのはやっぱり心苦しくて「ありがとうさつきさん。助かったよ」とお礼を言えば、彼女はそっかと笑みを浮かべノートを受け取ったのだった。




2019/08/26
とにかく絡んでくっつきたいスタイル(青峰)