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青峰に負けっぱなしで終始落ち着かない火神だったが、再戦の約束を取り付けて無事バッシュも手に入ったので会場へと急いだ。

時間を確認しながら電車に乗っていると黒子君は先程の桃井さんとの会話を教えてくれた。

どうやら青峰は黄瀬君を守る為に灰崎を殴ったらしい。もし権限のある大人達に告げ口されたら即アウトだが桃井さんがいうには灰崎は告げ口をしないだろう、ということだった。

青峰のメールはその灰崎と黄瀬君を会わせないもの、だったのだが、火神のことといい灰崎のことといい、バスケやってる人は敵も味方も関係なく好きなんだなぁと少し呆れた。
そこまで直情的じゃなかったと思うけど元々はそういう熱血タイプなんだろうか。


「それはそうと、さんは赤司君を調べていたんですか?」
「お前準決なんだぜ?秀徳相手でも洛山が勝つって思ってんのかよ」

桃井さんも苦労するだろうなぁ。と笑顔が眩しい彼女を思い返していると黒子君と火神にそんなことをつっこまれ、なんとなく肩を竦めた。

「赤司君も見たけど他の選手を読ませてもらってた。あと緑間君達が弱いなんて思ってないけど現状、1番洛山の情報がないのよ」

桃井さんにすら全然知らないっていわれたくらいだし、とぼやくと両隣も納得してくれたようだ。黒子君だって赤司君の情報は中学で止まってるに等しいし、もし決勝で当たることになったら怖いなって思っただけだ。



「んで、赤司以外にも気になる奴はいたのかよ」
「うん。でも、無冠の五将が3人もいるからそう見えるだけかなって」

5年連続優勝している洛山は常勝校といっても過言じゃない。そして今年は特に強いと雑誌でも特集されていた。
キセキの世代赤司征十郎と無冠の五将の3人が揃った洛山につけ入る隙は無い。

試合を観る限りもそう思ったしその他の選手も基本スペック自体が全国クラスのように見えた。でも、なんというかどうしても気になってしまうのだ。

白に近い薄い灰色の髪と冷ややかな目。少し目を離しただけでフッと消えてしまったように見えなくなった後ろ姿。既知感どころじゃない何かがあってずっとモヤモヤしてる。これは不安、なのだろうか。


「でもまずは海常戦を切り抜けなきゃね」

洛山の話をしたところで勝ち抜けられなければそれも水の泡だ。
頑張ろうね、と2人に言うと彼らは大きく頷き返してくれた…のだが、どこか不満そうな顔もしていてビクリと肩が揺れた。何か失言でもしただろうか。


さん…あのレモンのはちみつ漬けはもうないんですよね…」
「う、うん。そうだね…あれしかない、かな」

そっちか、とは内心ちょっとだけホッと息を吐く。そしてしょんぼりとする黒子君には申し訳ない気持ちになった。



先程いきなり「腹減った。何か食い物ねぇか?」とのたまう青峰に嫌々お菓子があると答えたのだけど、バッグを開けた際タッパを見つけられ取り上げられてしまったのだ。

それは水戸部先輩直伝のレモンのはちみつ漬けで、以前黒子君が食べたいといっていたのを思い出し作ってきたのだ。
恐らく今回も水戸部先輩とリコ先輩が持ってきているだろうから量は少なめでいいかな、と思ったのが災いしたらしい。

青峰は了解もなくタッパを開けるとひとつレモンをかじり「ん。これでいいわ」といってタッパごと持って行ってしまった。


茫然としていたに代わって火神が引き留めようとしてくれたがレクチャー代だとかなんとか適当なことをいってきて火神を黙らせたため、レモンのはちみつ漬けは手元に戻らないままになってしまった。


「ま、まあ、レモンのはちみつ漬けはまた作ればいいだけだから。明日持ってくよ」
「はい。お願いします」
「頼む」

落ち込む黒子君を元気づけようと取り繕うと火神も食べたかったんだと知ってしまい、2重に申し訳ない気持ちになってしまった。
水戸部先輩、今日は多めに作ってきてくれてるかな、と途方に暮れた顔で思ったのはいうまでもない。




2019/08/26
そしてジャイアニズム(青峰)