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「どうした?黒子」
決勝進出した誠凛は控室を出てからも興奮冷めやらぬ感じで喜びを露わにしていた。
いつもよりもテンションの高い小金井先輩や降旗君達を微笑ましく見ていると土田先輩が自分の手をじっと見つめている黒子君に気がつき声をかけた。
「いえ、ボクは今迄パスに徹してきて、シュートを決めたことがなくて点ましてブザービーターなんて初めてなんです」
「そういえばそうか」
確かに帝光時代は青峰達がいてシュートをする機会に恵まれなかったように思う。
それでもタイミングさえ合えばシュートしてもいいとは思うけど、黒子君のシュート力を考えると徹底的にパスだけやらされていたのだろうか。そこで、あれ?と思った。
「なんというか、もう……今死んでも本望です」
「うわっ見たことねぇ過去最高に緩んだ顔!つか死ぬな!!」
赤司君ってもしかして、とある言葉が浮かんで口を手で覆ったが、今迄見たことないようなゆるっゆるの顔には自分の言葉を飲み込んだ。
「ははっそれ喜ぶのも無理ないな」
「影が薄いどころか今日1番のヒーローじゃないか?」
木吉先輩や伊月先輩達も嬉しげだし、日向先輩もデレデレなのに我慢してるせいで顔の緩みと笑い方が非常に怖い。う、嬉しいんだな、と思っているとリコ先輩にハリセンで叩かれた。
「しまんないわね!もう!…日本一迄あとひとつ!海常は勿論、今迄戦ってきたチームの分まで勝たなきゃならないんだから!」
気合を入れるリコ先輩に黒子君達の表情も引き締まる。も同じようにカントクを見つめた。
黒子君が、みんなが、これだけ喜んでいるのだから今はこれでいい。今はまだ。
もしかしたら勘違いかもしれないし。場違いなことを喋ってこの空気を壊したくない。そう思い、浮かんだ言葉を心の中に仕舞った。
「リング無くした…!」
日向先輩の号令で帰ろうと荷物を持ったところで火神が驚いたように騒ぎだし、一斉に彼を見た。見れば確かにいつもつけてるリングがない。
置いてきたのか?とかバッグの中は?と聞くよりも早く「ちょっと俺探してきます!」と、走り出す火神に達は最初呆気にとられたが、置いて帰るわけにもいかずみんなで探すこととなった。
とりあえず黒子君と控室に行ってみたが火神が使っていたロッカーには何も残っていなかった。試しにその両隣も確認してベンチ下も見てみたけど何もなく。
まさかゴミ箱なんてことは…と心配になりながらも覗いたけどそこにもなかった。
「やっぱりコートかな?」
「かもしれませんね」
同じようにロッカーを確認していた黒子君だったけど何も見つけられなかったようだ。
その足で先程まで試合をしていた会場に戻れば、眩しいくらい輝いていたライトは最低限にまで落とされ、人気が殆ど感じれないくらい静かだった。
それはそうか、と内心ごちる。今残っているのは誠凛か関係者くらいだろう。なんせ明日は決勝戦だ。そう思いつつ黒子君に続いていくと、ベンチ近くに火神と緑間君がいて少し驚いた。
何で緑間君がいるんだろう。と伺っていると「まさか、お前が赤司のところまで辿り着くとはな」と緑間君がいつもの口調で笑っていた。
褒めてやる気持ちなんてないだろうに。自分が勝ちたかっただろうに。と思えてしまうくらいにはは秀徳対洛山の試合を鮮明に思い出しジャージの胸の辺りをぎゅっと握りしめる。
淡々と会話をする2人を見ていると赤司君の話になり、火神が強気の発言をするも緑間君はやはりどこか物憂げだった。
「よ!何してんのこんなとこで」
「高尾君」
声が聞こえ振り返れば今度は高尾君が現れ、の顔を見た彼は「ちゃんまた泣いた?」と力なく笑った。
「あれ?真ちゃんと一緒にいんの、火神?……はははっそういや夏にもこんなことあったなぁ」
「……」
「まぁでも、今日は笑って見てるノリじゃねぇな」
まるで独り言のように呟いた高尾君はそのまま緑間君に声をかけ帰ろうとする。
見てわかるくらい元気のない高尾君にどう声をかけたらわからなくて横を通る彼を見つめていれば頭にポンと手が乗った。
「ちゃんも明日頑張れよ」
「…うん。高尾君達も」
「当たり前なのだよ」
頑張って、といおうとしたら高尾君の手が離れたと同じくらいに緑間君の手がの髪を梳き、そして放れていった。
え???緑間君が私の髪に?今触ったよね??
もしかして、頭を撫でようとしてくれた??
あまりの衝撃に驚き、去っていく秀徳2人の背を凝視していると火神に小突かれた。いやだって、と思ったが驚き過ぎて言葉が出てこない。
けれど緑間君が自ら触れてきたのにはやはり驚きを隠せなくて、は挙動不審気味に彼らが歩いて行った方を再度見つめるのだった。
2019/09/01
普段触れてこない人に触られたらビックリするかなと(対比高尾)。