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「(ああもう…!)」
職員室から出てきたは先生達の前で見せなかったうんざりとした顔で足早に歩いていた。
ウインターカップ決勝戦当日、午前中に集まった誠凛バスケ部は秀徳対洛山戦の復習をして簡単な練習をこなした後一時帰宅解散となった。
もみんなと同じように家に帰るはずだったのだけど未だに学校に居残っている。
練習後にリコ先輩と日向先輩が呼び出され、ついでにも同行したのだが、呼びだされた場所はなんと校長室だった。
そりゃそうだ。バスケットボール部が全国大会に出場した上に決勝戦までこぎつけた。校長先生が興味を持たないわけがない。
しかも気が早い校長先生は冬休み前の全校集会で決勝戦の日時も生徒達に告げてしまっている。
ということは、だ。
「人いっぱい来ますよねー…」
ははは、と誰もいない廊下で乾いた笑いが響いた。決勝戦で人が集まるのは必至だ。
更に自校の生徒が来るとなれば、しかも校長先生が来るとなれば専用のスペースを設けなくてはならない。
元々部員のご家族も来る話は前からあって観やすい場所をキープする話をリコ先輩がしていたけど、他の生徒分もとなれば話は別だ。しかも数読めてないし!
とりあえず1ブース分占拠すればいいのかな?と思いつつそれも全部会場側に聞かなきゃだよな、と溜息を吐いた。
「さん?」
部室からありったけのタオルと備品を詰め、重いバッグを肩にかけて体育館脇を通るとバスケットボールを持った黒子君に呼び止められた。
その手前には2号がご飯を食べていたのだがに気がつき顔を上げ尻尾を振っている。
「テツヤ君?どうしたのここで」
「さんこそ…というか、主将とカントクは一緒じゃないんですか?」
足を止め彼に近づくと黒子君は辺りを見回し首を傾げた。そりゃいてくれた方が心強いけども。
「ううん。リコ先輩と日向先輩には家に戻ってもらってる。こういう雑用はマネージャーの仕事でしょ?」
これから決勝戦がある監督と主将にやらせるわけにはいかないでしょう?といって肩を竦めた。
足腰の悪い武田先生に頼むなんて以ての外だし…あの校長先生め、と2号の頭を撫でながら苦い顔でぼやくと、今度はがまだ学校に残っていた理由を問われた。
「ああそれはね。これを持ちに来たの。というか、持ってけって押し付けられた」
布袋から取り出したのは学校旗で誠凛高校の文字と校章が描かれている。これを目印に誠凛の関係者を集めるのはどうだろう、という話になったのだ。
案としてはいいけど空いてるかどうか覚えてないし、こういうのって試合中はつけれないんだよね。
「間に合えば3決前につけれるかもって思って急いで出てきたところなの」
「そうでしたか」
「こんなのあるなら最初から渡してほしかったよね」
「さん。もう1枚あるみたいですが」
「あー、こっちはどっかの部活の横断幕だって。2枚もつけれないだろうからこっちは諦めてる」
分厚い上に重いし見せてもらった時やたらと長かったのだ。1人じゃ絶対括りつける前に落とす自信がある。はぁ、と溜息を吐いたは「じゃあ、また後でね」と学校旗を仕舞い背を向けた。
「さん。ボクも行きます」
「え?でもまだゆっくりしてていいんだよ?」
決勝戦まで時間あるんだし、と振り返ればすぐ目の前に黒子君がいてビックリした。
「も、もう!ミスディレクションしないでよ!」
久しぶりに心臓が止まりそうな程驚いた!と眉を寄せると黒子君はそのまま更に近づいてきて、そしての唇に触れるキスをした。
ほんの一瞬で、見間違いと思うくらい瞬きをしたら離れていたけど唇に残った感触に目を見開く。離れた黒子君が目を細め照れくさそうに微笑むものだからの体温は一気に上昇した。
「少し、感情が昂ってるみたいです」
「そ、そう、ですか…」
「勢い余ってバッシュのまま出てきてしまいました」
履き替えてくるので少し待っててください。とまた体育館に戻って行く黒子君にはその場に崩れ落ちたい気持ちになった。
「…2号」
「クゥン?」
「私、テツヤ君の気持ち、全然わかんないや…」
首を傾げる2号を見てなんだか黒子君に見つめられてるような気になってしまい、更に熱くなった顔でがっくりと肩を落としたのだった。
2019/09/06