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第1クオーターはなんとか同点で凌ぎ、第2クオーターは黒子君の代わりに水戸部先輩が投入された。
はビデオを確認するために黒子君から離れた席でじっと小さな画面を見つめた。

異様なざわめきを聞き顔を上げれば黒子君が驚きを露わに立ち尽くし河原君もある方向を凝視して固まっていた。コートに目を移せばその理由がすぐにわかった。
黛さんが黒子君張りのミスディレクションとパスをして点を入れたのだ。それを見たの表情は苦渋に歪む。

赤司君はもう1人の黒子君を作ったのだ。しかもまた使い捨てる為に。


黛さんのパスが生きてきたことで点差が開いてくるとリコ先輩は降旗君を投入する。今回もまた緊張で震えてる降旗君を洛山、というか赤司君ですら困惑の表情を見せたが降旗君の奇襲は上手く機能した。

しかし洛山側のタイムで戻ってきた時降旗君は立てないくらい体力を消耗していてものの数分で交代せざるえなかった。

「降旗君。座れる?」
「あ、りがと。マネージャ…」

殆ど放心状態の降旗君にタオルとドリンクを渡すと背中をポンポンと撫でる。

「ゆっくり深呼吸して。落ち着いたらドリンク飲んでね」

福田君が投入されその背中を見送る降旗君が頭を垂れる。震える肩にそれ以上何も言わずハンディカメラを置いたままの席へと戻った。



試合が始まると3ポイントの応酬になった。宣言通り誠凛は日向先輩が、洛山は実渕さんがボールを集め点を稼いでいく。一進一退、という争いになるかと思われた。

「ディフェンス黒4番!バスケットカウント1スロー!」
「ああ!」

日向先輩がファウルを実渕さんにもらわれた辺りから誠凛の動きが崩れていく。木吉先輩が根布谷さんの押し負け火神も葉山さんの動きに追いつけなくなってきている。そして。


「っ伊月先輩!」


いくら光る原石でも、全国決勝という大舞台で、しかも赤司君率いる洛山に精神も体力もそんなに持つはずはない。そんなの降旗君を見てればわかってたはずなのに。
そのことを失念してしまうくらい伊月先輩の気は洛山に持って行かれていて、殆ど抜け殻みたいな福田君にパスをしボールを取り零してしまった。

見かねたリコ先輩が福田君の代わりに河原君を投入する。けれどそれはただの延命処置であって秘策ではない。リコ先輩も悔しそうに唇を噛み締める。


崩された誠凛に赤司君は更に攻撃の手を伸ばす。黛さんのパスを受けてアリウープを誠凛側のリングに叩きつけた。

第2クオーターの終了と同時に点数を見ればもう既に20点以上の開きがでていた。万事休す、その言葉が脳裏を過る。



控室に戻る際リコ先輩を見れば今にも泣いてしまいそうな悲痛な顔をしていての心臓がギクリと嫌な音を立てる。
本当にこのまま負けてしまうんだろうか。控室に行った後も鼓舞する日向先輩にみんなが同調していたが空元気にしか見えなくてはその中にどうしても入れなかった。

「マネージャー」

ビデオを確認してる黒子君を尻目に仕事をしていると日向先輩に声をかけられ立ち上がった。なんだろうと見上げればいきなり両手で顔を挟まれ勢い任せにぐにぐにとマッサージされた。


「お前、顔ずっとかてーまんまなんだよ!黒子か!」
「ひゅ、ひゅ、がせんぱ…いた、い」
「ったく、お前がそんなんだから火神の奴がずっと不調なんだぞ!」
「な、何で俺?!」
「黒子もどこにいるのかわかんなくなってるし!」
「え、」
「お前の居場所はあいつらの真ん中だろうが!」


何影みたいに端っこで小さくなってんだよ!とやや強めに頬を引っ張られそして放れた。は困惑を露わに目を何度も瞬かせ日向先輩を見上げる。視界の端には固まっている火神が見えた。

痛いようなそうでもないような頬にじわりと涙を滲ませると、日向先輩はぎょっとして近くにいたリコ先輩に「後輩泣かさないで!」と叱られていた。

「ひゅ…が先輩は悪く、ないです」

怒られる日向先輩には慌てて違うと首を横に振った。悪いとしたら私だ。



「私、知ってたんです…テツヤ君が影じゃなくなってきてるの……ちゃんと、わかったのはさっき、でした、けど…でも、私は、影じゃなくなるテツヤ君が悪いとは、思ってなかったんです」

陽泉戦で初めて試合でシュートを決めた時、準決勝で初めてブザービーターを決めて誠凛を勝ちに導いた時、あんなにも嬉しそうに話す黒子君を見たらこれでいいんだって思ってしまった。
影であることは悪いことじゃないけど、影じゃなくてもいいんじゃないかって、そう思ってしまった。


「影じゃなくなっても、テツヤ君が凄いってことみんながわかってくれるなら、応援してもらえるなら、そっち方がいいんじゃないかって、思ってしまって…何もいいませんでした」

でも赤司君は影の正しい使い方を見せつけてきた。これが本来あるべき姿なんだと、影は影らしく大人しくしてろといわれたみたいだった。そんなの戦える駒であってチームじゃないのに。


「テツヤ君が影として機能できなくなったのは私の責任です…」


勝敗を決める試合で、赤司君が黛さんを使って黒子君を潰しにかかってきたのも戦略として当たり前の話だ。譲り合いの精神で試合なんかできないのだから。

黒子君がキセキの世代と戦うと決めた時、黒子君が1番窮地に立たされることをわかっていたのに私はちゃんと理解していなかった。

私が影じゃなくなった後のプランを作っておけば、少なくともリコ先輩に相談しておけば、もしかしたらこんなあからさまな点差なんかつかなかったかもしれない。自分の浅はかさを心底恥じた。



「ダァホ。お前の責任なわけねーだろ」
「うっ」

ずし、と日向先輩に脳天チョップをされの眼からギリギリまで溜めてた涙がボロリと零れ落ちる。顔をあげればムスッとした日向先輩がちょっとバツの悪い顔になっての頭を撫でた。

「責任があるとしたらみんなだ。気づくのが遅いか早いかじゃねぇ」
「っでも、」
「影だろうが影じゃなくなろうが、やることは変わんねぇだろうが」


落ち込んでる暇があんならポンコツ2人の面倒でも見とけ!と無理矢理回れ右をさせられ黒子君と対面させられた。黒子君のすぐ横には火神もいて、それだけで逃げてしまいたい気持ちになる。

「ご、ごめ…」
〜」

背中から怨念めいた声で名前を呼ばれ肩が跳ねる。改めて黒子君の顔を見れば驚きと一緒に憔悴した表情を見せていたが目はまだ諦めてはいないようだった。
火神も疲れてはいるけど目はしっかりしていてを見て頷いた。まだ諦めてない。

まだ勝敗は決まっていないのだ。

お腹がぐるぐるとして手足が緊張でどんどん冷えていく。私だけ、逃げるなんてしたくない。勝つにしても負けるにしても最後まで見届けるのが私の役目で約束なのだから。



「……わ、私もまだ、負けたなんて思ってないから…!まだ戦えるから!」
「当たり前だ」
「はい。一緒に頑張りましょう」

謝罪も懺悔もいえなかったけど、黒子君や火神を見ていたらそんな弱音を吐けなくては乱暴に目を擦ると2人と目を合わせ、大きく頷いた。




2019/09/09