EXTRA GAME - 04


青峰の突発的な行動に警戒しながらもついて行くと、上機嫌だったお陰かちゃんと体育館に連れて行ってくれた。

がらりと開いた引き戸の向こうにはキセキの世代と火神や日向先輩といった先鋭達がボールを追いかけ走り回っている。
その光景に勿論黒子君も混じっていて、なんとなく腹の中でモヤッとした気持ちを抱きつつその光景を眺めた。


「大ちゃんやっと帰ってきた!休憩とっくに終わってるよ!!」
「おー悪ぃ」
「ってさん?!」

図体の大きい青峰を先に見つけた桃井さんが腰に手をあて怒ったが、隣にいるジャイアンはどこ吹く風な態度でを引っ張る。

これ、いつもの光景なんだろうな、というのと「ああ。見つけたから捕獲しといた」とか人を脱走動物か何かみたいに言うのやめてくれないかな、と思ったが口を出す元気がなかった。

ここに来るまでに神経を削り過ぎてつっこむ気にもなれない。
それもこれも隣にいるコイツのせいなんだよな、とジト目で睨むと視線に気がついたジャイアンが可笑しそうに鼻で笑って一蹴された。睨んでも全然響かなくて悲しくなるよ。


「おー来たなちゃん!……つーか、何気軽にちゃんの肩に手ぇ回してんだよ。離れろ離れろ」

ばっちぃ手で触るな、とに気がついた景虎さんが朗らかにこちらに歩み寄ったが、青峰を嫌そうに見て手を振って追い払った。
勿論ジャイアンはムッとしたけど特に言い返さずあっさりと解放してくれた。監督の言葉は偉大だ。

軽くなった肩にホッと息を吐くと持たされていた書類を景虎さんに手渡した。



「おー仕事早ぇな。感心感心」
「デザインが決まり次第作業に取り掛かるそうです。あと配送含めて最低4日は欲しいそうですよ」
「急に決まった割には上出来だな。お前ら、会議室に移動するぞ!」

デザイン画を見た景虎さんは満足そうに頷くとコートにいる選手達に声をかけに書類を戻してきた。どういうこと?と彼を見上げると「これで全員揃ったからな。ちゃんもおいで」と誘われてしまった。


さんもメンバーなんだよ」
「えっそうだったの?」
「何よ。も聞いてなかったわけ?パパ最初からそのつもりだったわよ」
「…私、てっきり事務所のパソコンを看取る為に景虎さんに呼ばれたものだと思ってました…」

今回の集合は特に呼ばれてなかったし、何かできるなら手伝いたいとは思ったけど黄瀬君や紫原君がいたし、試合当日も何もなければ降旗君達と一緒に試合を観るんだろうなぁ、くらいで考えていた。

何気に古いパソコンがいつ危篤になってもおかしくないので「どっちを優先すればいいんですかね…?」と真剣に聞くと「ちょっとパパ!」と怒った口調で先を歩く景虎さんの元へリコ先輩が勇み足で向かっていった。


「…お前な。優先するならこっちだろうが」
「それは、そうなんですけど…」

頭にポンと乗った手の主を見れば、呆れた顔の日向先輩が見下ろしていたが、は「現在進行形で使ってるパソコンのデータが飛んだらと思うと気が気でないんですよね…」と肩を竦めた。



本当にいきなり昇天するから怖いんですよ。そういう意味では早く新しいパソコンを買うか全移植してほしい、と思ってしまう。
全移植になれば自分が駆り出されるだろうし部活が休みの日しか行けないからやっぱり心配だな、と悩んでいると「ダァホ。それ以前にお前はうちのマネージャーだろうが」と日向先輩に髪をかき混ぜられた。


「それに、の力も必要だからここに呼ばれたんだぜ。とりあえず再戦が終わるまではその死にそうなパソコンのことは忘れろ」
「…はい」

日向先輩のいうことは一理あるか。
危篤パソコンは気になるけど。

考えてみれば元帝光中のキセキの世代がいて桃井さんがいるミーティングというのも気になるし、色々勉強にはなるか、と思い直し、くしゃくしゃになった髪を手櫛で整えながら日向先輩の後を追いかけた。


「ん?」

しかし数メートルもいかないところで袖を引っ張られ立ち止まった。
振り返ればまた身長が伸びた紫トトロがの袖を摘まんでいる。その仕草は可愛いにしても視界を圧迫してくる光景に「ヒッ」と心の中で悲鳴を上げれば便乗するように肩も一緒に跳ねた。

「神様それってさぁ、お菓子だよね?」
「……う、うん。そうお菓子、です…」

彼の視線はパンパンに詰められているお菓子に真っ直ぐ向けられていたが、袖を摘ままれているせいか声が上擦ってしまった。しまった。私まだお菓子の袋持ってたんだ。



迂闊だった、と恐る恐るビニール袋を差し出し広げて見せると、紫原君の目がぱぁっとキラキラと輝く。
本当にお菓子大好きだよね、と思いつつビニール袋ごと手渡そうとしたらいきなり横からにゅっと手が伸びてきて、お菓子の袋がひとつ逃げていった。

逃げたお菓子の袋を目で追いかければ、青峰の手に摘ままれていて、そのまま去っていく。
スタスタと歩いていく彼をぼんやり見送っていれば、いきなり紫原君が「あー!」と声を上げは何センチか跳び上がった。


「俺のお菓子!」
「お前のじゃねぇだろ」
「俺のだし!」
「じゃあ、ひとつ貰ってくわ」

サンキューなーとお菓子の袋を開けて先に行ってしまう青峰に隣にいた紫トトロはギリギリと悔しそうに睨んでいてが縮みあがった。
怖い、と震えているとまた横から手が伸びてきてぎょっとする。今度は誰?と思ったがその手がお菓子の袋を掴む前に視界がブレた。


「黄瀬ちん!このお菓子全部俺のだから!!」
「えー!ひとつくらいいいじゃないっスか〜」
「神様が俺にくれたの!ひと欠片も渡さないからね…!」

全部俺の!と子熊を守る母熊のように憤慨する紫原君に黄瀬君は口を尖らせると、宙に浮いたままになっている手を引っ込め「紫原っちのケチー!青峰っち〜そのお菓子分けてくださいっス〜」と矛先を変えて前へと歩いて行った。

「お前にはやらねーよ」と青峰に足蹴にされてる黄瀬君を横目で見ながらは混乱の中にいた。はお菓子が入った袋をまだ持っていたのだが、気づいたら紫原君の腕の中にいたのだ。
お菓子だけを守るよりもを防壁にしてまとめて抱えた方が確実と思ったらしい。

そこまでは理解したが自分が紫原君の腕の中にいると認識した途端プスン、と思考回路が焼き切れた。



間に挟まれてるお菓子のことを考えて背中に触れてる力は極力やんわりとしているが、すんなりと逃げるには固い拘束に感じて動けなかった。
どうしよう、と自分よりもひと…ふたまわり以上ありそうながっしりした二の腕を見ながら冷や汗を流すとまた視界がブレた。

グイっと腕を引っ張られたたらを踏んだは背中に何かぶつかり、顔を上げればの腕を掴んでいる火神が紫原君を睨んでいて、背中には黒子君が立っていた。


「菓子はお前に全部やっから、うちのマネージャー巻き込むんじゃねぇよ!」
「えー」
さん、行きましょう」

の手からビニール袋を奪った火神は殆ど投げ渡すように紫原君にお菓子の袋を押し付けると、「行くぞ」と黒子君が掴んでいる手とは反対の方の手を掴みずんずんと歩いていく。
はその後を脚をもつれさせながらも追いかけた。


「全く、油断も隙もねぇな」
さん大丈夫ですか?」
「なんとか、ギリギリ…」

顔が真っ青です、と心配してくれる黒子君には力なく笑ったが、ホッとしたと同時に胃の中がグルグルといいだし胸焼けがしてきた。
その辺の回路も切れてしまう程度には相変わらず紫原君のことを過剰反応してしまうらしい。


黄瀬君はもう少しマシになったのに困ったな、と溜息を吐くと「つーか、お前もお前だ」と火神に怒られた。



「あいつの気を引くような菓子なんか買ってくんじゃねぇよ」
「だって景虎さんに頼まれちゃったんだもん」

お菓子なら大抵なんでも食いつく紫原君だ。買ってきた時点でアウトだってわかってたけど、おつかいを頼まれた以上やらないわけにはいかないじゃないか。

でもわかってたなら尚更さっさと紫原君に渡しておけばよかった、と反省していると「こんなことになるなら一緒に来るべきでした」と黒子君まで溜息交じりに零すので、もう早々に吐かないよと肩を竦めた。
前科があるから絶対とはいえないのが難点だけど。


「学校に置いていくのは心配だと思っていたので、」
「そこまで?!いや私学校では普通だよ?」
「1年に怖がられてるんだろお前」
「…うぐ、」
「だからといってこっちはこっちで無法地帯ですけどね…」

何かした覚えはないけどなんだか妙に距離を取られてるような感じがする後輩達に顔をしかめると「さん。なるべくボク達の近くにいるようにしてくださいね」と保護者かお兄さんのように黒子君に諭され、はうな垂れるように頷くのだった。




2019/10/13
さて誠凛の騎士はちゃんと守れるかな?(笑)