EXTRA GAME - 05


1人2人ならそれなりにあったけど、キセキの世代全員と同じ空間に集まるのは黒子君の誕生日以来じゃないだろうか。
あの時も降旗君と同じ気持ちになってたけど、今も場違い感半端ないのは気のせいじゃないだろう。

昨日の試合を見直し、桃井さんのデータを聞きながらやっぱり凄いなぁ、と思いつつ、他人事のようにぼんやりとリコ先輩の近くで聞いていると景虎さんに手招きされ席を立った。
というか、景虎さんの頬がいつの間にか腫れてるんだけど大丈夫だろうか。


「紹介が遅れたがちゃんはイベント関連の管理と俺んとこの事務所の橋渡しを任せてる」
「そうだったんですか?」

1番私に似合わない役職ですね、と引いた顔で訴えれば「うん。ごめん。リコたんに怒られておじさんボロボロだから…ちゃん迄そんな冷たい目で見ないで」と怯えられた。

そんな顔はしてないつもりだったけど景虎さんの顔はリコ先輩の鉄拳跡だったんですね。
「その呼び方止めて!」と怒るリコ先輩には苦笑すると持っていた書類に視線を落とした。


「…では、こちらからは再戦試合用のユニフォームデザインが数点来たのでそれを選んでもらいたいのと、チームカラー、それと希望サイズの提出をお願いします」

最後のユニフォームのサイズは桃井さんのデータを貰えばいいだけなんだけど、事務所の人が全員分の用紙を用意してくれたのでひと通り配ることにした。



全員行き渡ったのを確認してもデザイン画に目を通す。
相手は黒地ベースなので必然と白地ベースになってしまうのだがどれも悪くない気がした。ただ色がカラーじゃなくて白黒なのが残念なところだけど。

「チーム名はこれにしたんですね」
「ああ。なかなかイカしてるだろ?」

デザイン画の胸元部分の文字に気がついた赤司君がフッと笑みを作る。
しかし別の席では「これなんて読むんだ?」「ぼ?ぼぱ?」と読みのところから既に躓いている青と黄色がいた。
マジか、と見ていたら「VORPALSWORDS!なのだよ!」正しい発音で緑間君が教えてくれていた。高尾君、笑い過ぎだからね。


「あちらが鏡の国アリスに登場する『Jabberwock』という怪物なので、こちらはその怪物の首をはねた剣である『VORPALSWORDS』という名前になりました」
「随分入れ込んだ名前になっちまったが期待値が高いことには変わりはねぇ。名前に気後れすんじゃねぇぞ!」

最初名前を見た時はケンカ売る気満々だな、と引きつったけど、皆一様に勝つ気満々で余計な心配だったな、と思い直した。



ちゃーん。チームカラーってそのままユニフォームにも使われんの?」
「その予定かな。サポートも含めてメインカラーになると思う」
「だったら青がいいっスよ。青!」
「『Strky』が青だったよな?」
「青は日本代表のカラーじゃないっスか!」
「サッカーじゃねーっつーの」
「オレンジじゃない宮地さんのユニフォーム姿ってなんか変な感じだったよな」
「黄色って感じでもないし…緑とか?」
「えええ〜っ緑はヤダ」
「紫原!どういうことなのだよ!!」
「ぴ、ピンクとか!」
「却下。それなら黒の方がマシだろ」
「それじゃ被るだろうが…」


みんなそれぞれ自分の好みや高校等に思い入れがあるせいで色の推しがそれとなく激しい。そうなるような気はしてたんだよね…とぼんやり考えていたら奥の方に座っている赤司君と目が合った。

「色のパターンはないんですか?それがあればみんなもイメージがわきやすいと思うんですが…」
「あーちゃん。紙はこれしかないんだっけ?」
「そうですね。渡されたものはこれしか……あ、待ってください」


赤司君の視線がついっと景虎さんに移ったがその景虎さんはこっちに話を振ってきた。

デザイン画は数点、元画は色がついているがコピーした時に白黒になってしまった。その元画を見せてもイメージはわかないってことだよね?と思いつつ景虎さんに返したが、そういえば、とバッグに仕舞ってあったノートパソコンを取り出した。



このパソコンは景虎さんのところにある危篤パソコンのバックアップ用に持ってきたものだ。危篤の割に現役で使っているからデザイン画も入ってたかも、と思って探してみたらちゃんと入っていた。

だったら、と加工ソフトを立ち上げデザイン画をぶち込み色調補正をかけ何枚か景虎さんに見せてみる。
「お、いいんじゃねぇか?」とOKを貰ったのでわいわいとまだ色の話で盛り上がっているみんなを横目に赤司君の元へ向かった。


一時期怖くてしょうがなかったけど、それはほんの一瞬で今は去年のウインターカップ開会式くらいまでの感覚で話せるようになった。

彼の傍らにしゃがみこみノートパソコンを操作してパターン別に用意したユニフォームカラーを並べると、赤司君にも見やすいようにモニターを動かし見せた。


「赤司君。こういうのしか用意できなかったんだけど、どうかな?」
「…ああ。これならわかりやすいよ」

どうかな?とお伺いをたててみたものの、変えなくていい色まで変えてしまっているからわかりにくいといえばわかりにくい。

赤司君ならそれでも大丈夫だろうけどもう少しなんとかした方がよかったかな?うーん、と思いつつ並べられている虹色カラーを見ていると眉間に触れられ視線を上げた。
隣を見れば赤色の瞳がを面白そうに見ていて何度か目を瞬かせた。


は放って置くと色々手を加えていきそうだな」

これだけできるのにまだ納得していない顔だ、と眉間を指の腹で撫でられ、むず痒くて思わず目を閉じた。
皺を伸ばしてくれてるんだろうけど、この手が赤司君なのかと思うとそれはそれで緊張する気がする。それにこそばゆい。

ムズムズとする気持ちを我慢していると「みんなもこっちにきて見てくれ」という号令を赤司君がかけ、やってきた黒子君達にが持ってきたノートパソコンを見やすいように反転させた。



「やっぱ黄色はねーな。目立たねぇ」
「ピンク可愛い…!」
「いや桃っち。それ俺達も着ることになるんスけど…」
「勝てる気はしねぇな」
「え〜っ」
「紫よくない〜?」
「こんくらいならいいけどチームって考えっとパッとしなくね?」
「わかりやすいのはやっぱ赤か?」
「デザインはこれでいいんじゃない?ラインよりはこっちの方が色が引き立つし」
「俺はこっちの方がいいと思うけど白っつーよりは黒地の方がいいよな」
「あ、それ、俺も思ったわ」

デザイン画を覗き込んだ人達が一斉に感想を述べ一気に進展していく。その光景に"おお"、とちょっと感動していると赤司君に声をかけられた。


。このデザインで赤系のパターンを何色か出せるか?」
「う、うん…多分」

赤系で何色かってどういうの?と内心かなり焦ったがとりあえずなんとなく明暗と系統色でそれっぽく何枚か出すと「あ、結構違うね」と桃井さんが感心していた。だ、大丈夫そうだ。

いきなりの注文で焦ったけど私の色彩感覚も捨てたもんじゃないな、と汗を拭っているとポン、と頭を撫でられた。
手の主を見やれば赤司君が満足そうに笑みを作っていて、この人わざと試してきたな…と今頃気づき顔を引きつらせた。私で試すのやめてください赤司君。

「どうした?黒子」
「…いえ、なんでもありません」

赤司君は怖くないけど時々忘れた頃に妙に際どい試練を寄越すからとても心臓に悪い。
困った人が親戚になってしまったものだよ、と撫でられる手に甘んじていると視線を感じ、目線をずらした。



火神の隣に黒子君がいたのだが彼は画面を見ずこちらを見つめていて、少しムッとしているようにも見えた。
それは本当に些細でくらいにしかわからないのかもしれないけど、なんとなく怒られてる気分になり頭の上に乗っている赤司君の手から逃れた。

そんな行動をとったに黒子君に向いていた赤司君の視線がこっちに戻ってきて、カチリと目が合う。

2つの赤みがかった瞳がやはり面白そうに目を細められたのは気のせいじゃないと思う。




2019/10/14