EXTRA GAME - 06


結局、チームカラーの話し合いは桃井さんのピンクに押されてマゼンダ寄りの赤になり、この辺、というが作った画像を添付することになった。

ミーティングの後の練習にも居残ったは、体育館の隅でみんなに書いてもらったサイズのデータ入力をしていたのだが「ちゃーん」と呼ばれ顔を上げた。

「うお、何?」

目の前に高尾君がしゃがんだのまでは見えたのだが何かをかけられ頭がクラッとした。何したの?と顔に触れれば目の辺りに無機質なものが当たり恐る恐る両手で触れた。

顔から無機質を取り外し、見てみれば黒のアンダーフレームの眼鏡で『え、眼鏡?』と首を傾げた。誰の眼鏡ですか??


「なんか今のちゃんに眼鏡かけさせたら似合うんじゃねぇかなーって思ってさ」
「そうなの?」

よくわからないけどこの眼鏡、度が入っててしかも結構きついんだよね。高尾君の後ろを見れば「高尾!眼鏡を返せ!」と憤慨しまくりの緑間君がいて苦笑してしまう。よくもまあ緑間君から眼鏡を奪えたものだ。


「練習は?」
「終わってなきゃこういう悪戯はしねーよ」

つーわけで眼鏡かけてかけて。と笑う高尾君にもうそんな時間か、と思いつつ眼鏡をかけてみればやっぱり度数が強すぎて目を開けられなかった。

「高尾君ダメ。緑間君の眼鏡、度が強すぎ」

だから早く緑間君に返してあげなよ、と眼鏡を外そうとしたら「何してるんスか〜?」と予想外の人の声が聞こえてビクッと肩が跳ねた。



眼鏡を外せば予想通り黄瀬君がこちらに歩いてきてなんとなく身構えてしまう。
吐くことも泣くことも一応なくなったけど挙動不審に身構えたりビクッとしてしまうのはまだ治ってないんだよなー…。と黄瀬君を見やれば興味津々、といった顔で話に入ってきた。


「真ちゃんの眼鏡をちゃんにかけてもらってんの」
「ああそれで緑間っちブチ切れてるんスねー」

何があったのかと思ったっスよ、と気軽に笑う黄瀬君に後ろの緑間君が聞いてたら間違いなくシメられるくらい憤慨してるんだけど怖くないんだろうか。


でも本当に目が悪いんだなぁ、とこれだけ近い距離にいるのに辿り着けない緑間君を不憫そうに眺めていると高尾君は黄瀬君に「ちゃん眼鏡似合うと思わねぇ?」と無茶ぶりをしていてこのまま意識を飛ばしたい気持ちになった。

高尾君、あなたが話してる相手はモデルです。

わかっててわざと話してるの?高尾君それ私にとってはイジメなんですけど…と顔色を悪くし、データを保存してさっさとこの場から逃げようと算段をつけたところで、黄瀬君の手がの頬に触れ持ち上げた。


っち。ちょーっとじっとしてもらっていいっスか?」
「え、」

急に見えた黄瀬君の真正面の顔にビクッと心臓も肩も跳ねて視線だけ挙動不審に泳がすと、彼はの髪に触れよくわからないままセットしていく。



沸騰しそうな頭でわかったことはいつもの髪型ではないみたいだ、というところまでで、どんなことになっているのかまではわからない。
固まったまま動けないでいるに黄瀬君はトリミングのポーズをとり、なにやら試行錯誤をしてくれているようだが被写体が被写体なのでそれはどうだろう?と困惑した。

「ここはこのままで」と肩に触れたり「身体をこっちに向けて〜」と色々指示をされてやっと眼鏡をかけられた時にはは固まったまま疲弊していたが黄瀬君はとても満足そうだった。


「どうっスか?」
「あ、いいかも……ちゃん目ぇあけて〜」
「む、無理無理無理無理…」
「じゃあちょっとずらそうか」

緑間っちって確か目ぇ悪いんスよね〜、といって眼鏡を少しずらすと片方の手を掴んでテンプルを摘まむように指示された。
そしてこだわりがあるらしい黄瀬君はまたの髪を手櫛で弄って「これでどうっスかね!」となんか自信満々に高尾君を見やった。


「さっきよりいい感じじゃん!ちゃんこっち見て!」
「む、む無理無理無理無理…」
っち、恥ずかしがっちゃダメっスよ!気合っス!度胸見せなきゃ!」
「私モデルじゃないから無理ぃ…!」
「大丈夫っス!っちなら出来るっスよ!」

何をもって大丈夫なのか謎な上に行方不明だが、携帯のカメラを構えた高尾君とスタイリストになってしまった黄瀬君は妙にテンションが高くて彼らが満足する頃にはの体力は底をついていた。

何でこうなった。と息切れを起こしていると遠巻きに見ていた他の人達にも撮った写真を高尾君が見せていて、消えてしまいたい気持ちになる。
とりあえず「エロさが足りねぇ」といってるジャイアンはものすごい固い角で足の小指を打ちつければいいと思います。



「あ、眼鏡…」

「きーちゃんにこんな才能があったんだね〜」「え、桃っちそれどういう意味っスか?」という会話を遠くで聞きながらは死にかけの身体を引きずりその場を離れた。

そして眼鏡を手に緑間君の元へ向かうと彼は壁に頭をくっつけながらなにやら呪文のようにぶつぶつなにかいっていた。何かの禁断症状だろうか。
内心近寄りたくないな、と思う程度にはドス黒い空気を纏っていたが眼鏡を持っていたのでなけなしの勇気を振り絞って彼の傍らに座り込んだ。


「緑間君…」
「!……か?」

疑問形な時点で見えてないのか…と更に不憫だ、と思いながらこちらに向いた緑間君を見て目をぱちくりとさせた。眼鏡がない緑間君って違和感あるけどレア感ありますね。

そういう感想を抱いたがよく見ようと目を凝らす為に睨んでくる緑間君にビビったは素早く彼に眼鏡を返してあげた。


「……なんだその髪は」

乱れているのだよ、との髪に触れてくる眼鏡をかけて元に戻った緑間君に苦笑してしまった。私はどんな髪のセットをされたのだろうか。

思った以上に疲れていたのでされるがままになっていると目の前にまいう棒が現れ、視線をあげれば案の定紫原君が立っている。何の気紛れか「食べる?」とお菓子を分けてくれた。



「あ、ありがとう…」

疲れ果ててるせいか、全てがどうでもよくなってるせいか思ったよりは驚かずに済んだは礼を言うとまいう棒の封を開けた。

「ミドチンも食べる〜?」という色々貴重な機会に出会いつつ紫原君がくれたまいう棒を3人でかじっていると上機嫌の高尾君がやってきて先程撮った写真を見せてきた。


「じゃーん!真ちゃん見てみ!このちゃん良くね?」
「ゴホッ!」
「わ〜神様っぽくない〜」
「だろ?これいい感じに撮れてね?」
「うん。可愛い〜」
「…高尾」

紫原君の言葉にぎょっとしたが、確かに高尾君が撮った写真はいいような気がした。被写体が自分だと思わなければ多分いい写真だと思う。
携帯の画素数のお陰かもしれないけど黄瀬君が異様に頑張り一生懸命撮っていた結果はあった気がしないでもない。被写体のことさえ考えなければ。

まいう棒の欠片が気管に入って咳きこんだは何も言い返せなかったが、隣では怨念めいた低い声が高尾君を呼んでいては胸を押さえたまま逃げる体勢をとった。


「そんなことの為に俺の眼鏡を奪ったのか…っ?」
「だってよぉ、眼鏡かけたちゃん良くね?」
「それはお前の趣味だろう?!」
「え〜?だったら俺真ちゃんのことまで守備範囲に入れなきゃなんねーじゃん」

流石に男は興味ねぇよ?と嫌そうな顔をする高尾君に「そういう話ではないのだよ!!」と緑間君がまたキレていた。



どうでもいいけど若松さん「眼鏡かけるんならこう胸元が開いたシャツでスカートもこういうの方が良くね?」とか日向先輩と話を振らないでください。リコ先輩が軽蔑の眼差しで見てますから。
そこに青峰も乗らない。もうそれ私の話じゃなくてモデルの話になってるよね??そんな恰好私が似合うわけないでしょ。


「ならどうよ?俺が撮った渾身の眼鏡ちゃん!」
「……」
「……」
「わ、」
「わ?」
「悪くないのだよ…」

チラリとこちらを見て眉を寄せたが緑間君はブリッジを押し上げぼそりと呟いた。

その際頬が赤いような気もしなくなったが「あわない度の眼鏡をかけて視力が落ちても知らんのだよ!」と怒られてしまい、あ、平常運転の緑間君に戻った、と思った。

でも怒るなら君の相方が原因なのでよく言い聞かせておいてください、と心の底から願ったのはいうまでもない。




2019/10/15
携帯ですが当時に合わせてギリギリガラケーにしてます。

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