EXTRA GAME - 07


景虎さんに用が出来たので体育館に向かうと何の打ち合わせもしていないのに桃井さんが玄関ロビーで待ち構えていた。

さん!今日決行してもいい?!」

目がキラキラというか、ギラギラな桃井さんに迫られはよくわからないまま頷くと彼女はパァ、と顔を輝かせ、の手を取り体育館とは別の方へと歩きだした。

桐皇の幼なじみ組はこういうとこ似てるよね、とこっそり思ったのは内緒だ。


桃井さんに手を引かれ、辿り着いた先は女子更衣室だった。そのドアを開けると桃井さんは鍵をかけおもむろにパーカーを脱ぎ制服を脱いでいく。
その豪快な脱ぎっぷりに驚き固まっていると「さんも脱いで脱いで!」と急かされた。

そうだ。前に桃井さんと遊んだ時こんなお願いをされたのだった。


『私、テツ君と同じ高校の制服着てみたかったんだよね』


それは青峰を追いかけると決めた時に諦めてしまった願いだったけど、と話すようになってせめて気分だけでもという気持ちが浮上したらしい。

悲しそうにポツリと呟く桃井さんはとても絵になって、男子じゃなくてもなんとかしてあげたいなぁなんて思ってしまったからその時は貸すよ、といってしまったけど…サイズは大丈夫なのだろうか。

主に胸の辺りが。



「リコさんは無理だと思ってたけどさんは私と体格ほとんど変わらないじゃない?胸もリコさんよりは大きいし」

きっと大丈夫!とにこやかに笑った桃井さんだったけど誠凛のセーラー服はやはり胸の辺りがキツそうだった。


視覚の暴力…と肩を落としていると、桃井さんが「さんは着ないの?」と桐皇の制服を薦めてくる。
確かに下着のままは私が困るか、と思い袖を通してみたのだけど他人がさっきまで着ていた服を着るなんて機会今迄なかったから妙に緊張した。

そして桃井さんの制服はスカートがやたらと短くて死にそうな気持ちになる。桃井さんこれ階段上ったら確実に見えるやつです…!


「桐皇の制服って帝光とあんまり変わらないけど、赤いリボンは気に入ってるんだ」

リボンタイをつけようとしたところで桃井さんの手が重なり、そのまま引き継ぐように手を放すと慣れた手つきでリボンをつけてくれた。

伏目がちの桃井さんの睫毛が長くて、それが妙にドキドキして『改めて見ても美人だなぁ』としみじみ見つめていると、視線に気がついたのか彼女はパッと顔をあげにっこり微笑んだ。


「できたよ!うん、バッチシ!」
「ありがとう…」
「私もどうかな?似合ってる?」
「うん。似合ってる」

くるりと回ってみせる桃井さんにも微笑み「さつきさんはどんな制服でも似合うよ」と素直に返せば、彼女は照れて「もう!さんってばうまいんだから〜」と赤くなった頬を両手で隠した。
全然嫌味に見えないのが本当に凄い。そして羨ましいほど可愛い。



「じゃあ行こうか!」と手を引く桃井さんに連れられて更衣室を出ただったが、途中で自分が穿いているスカートの丈を思い出した。
なんとなく持ってる書類で押さえながら体育館に入ると早速桃井さんが黒子君に手を振った。

黒子君達は丁度練習を始めた辺りだったようでボールを持ちながら桃井さんの格好を見て驚いたように目を丸くしている。はそこはかとなく桃井さんの後ろに隠れておいた。

「げ、何してんのあんた達」という顔のリコ先輩の近くにいた景虎さんを見つけたは、ウキウキと黒子君に話しかけている桃井さんから離れると体育館の隅を通って景虎さんに書類を手渡した。


ちゃん。これ急ぎのやつかい?」
「急ぎというかなんというか…事務所宛てに請求書が来てまして」

どこかといわれるとお店なのですが、といい難そうに答えると景虎さんの顔色が一気に悪くなった。
事務所じゃ処理しきれないから、といわれて持ってきたけど景虎さんの顔色を見る限り請求書の額はかなりヤバいような気がした。

「あ、ありがとよ…」という声すら消え入りそうで再戦前に相田家が破産してしまわないかほんのり心配になってしまった。


「それはそれとして、あんたまで一緒に何やってるのよ」

落ち込む景虎さんを横目で見やり、話しかけてきたリコ先輩はの格好を見て溜息を吐いた。「再戦まで時間がないってのに遊んでる場合じゃないでしょ」と案の定怒られた。

それはわかってるつもりなんですけど、「前に約束したので…リコ先輩も着てみます?」と肩を竦めつつダメ元で誘ってみたら「結構よ」とバッサリ断られた。



「いいじゃないですか。制服交換するくらい」
「だったらジャージにしなさいよ。ジャージに!」
「ジャージじゃ可愛くないじゃないですか〜」

誠凛のセーラー服が良かったんですよ、といつの間にかの横にやって来た桃井さんが「ねー」と腕を絡めにっこり微笑むのでなんとなくつられるようにも笑ってしまった。

そんな2人を見てリコ先輩は呆れたように盛大な溜息を吐いたのはいうまでもない。すみませんリコ先輩。私桃井さんの押しに勝てそうにないです。


「まったく。仕事はちゃんとしなさいよ」
「わかってますよ〜。行こう!さん」
「え、私も?」
「そうだよ。だって書類渡したから手が空いたでしょ?だったら私と一緒にマネージャーやろうよ!」

さんもマネージャーなんだし!とにっこり微笑んだ桃井さんはの手を引っ張っていく。

それは構わなかったんだけどヒラヒラと揺れる短いスカートがやっぱり気になってしまい片方の手で後ろを押さえながら桃井さんの後を追いかけたのだった。



2019/10/16