EXTRA GAME - 08
フワフワ、フワフワ。
ソワソワ、ソワソワ。
チラチラ動く視線に日向は汗を拭いながら必死に笑わないように堪えた。
キセキの世代だとか、平均身長が180センチ越えというでかい奴らばかりでも自分と同じ高校生で年相応な反応もすんだなぁとしみじみ思った。
視線が集中している先は、今にも胸の辺りがはちきれんばかりの白のセーラー服を纏う桐皇のマネージャーである桃井さんで、見慣れないと思ってる奴らがなんとなくチラチラ視線を寄越している。
日向もあの強烈なインパクトしかないアレに無意識に視線が向いてしまうが、もう片方のうちのマネージャーにも目が行ってしまっていた。
部活中のは基本ジャージなので制服姿でいることが少ない。だから、というわけではないがやはりセーラー服じゃない格好は物珍しくなってしまう。
その上、動く度に片方の手は必ずスカートを押さえていてそのせいか妙に足に視線が向いてしまっていた。
狙ってはないんだろう、と思うのだが、多分桃井さんのスカートの丈がの丈よりも短いのだろう。
そう思うと桃井さんはなんという攻撃力で普段から桐皇に通ってるんだと内心ドキドキというか少し心配になってしまった。
そんな自分の視線はさておき、休憩に入ったのもあって周りにいる後輩達を見やった。
まあ黄瀬は特に反応しねーわな、と思った。さっき桃井さんに感想述べてたけど自負してるだけあって女子に慣れてるのがよくわかる。
緑間や紫原も最初ガン見した以外は我関せずって感じにしてるな。まぁ視界には入れてるみたいだけど…ムッツリなのだろうか。緑間はそれっぽいな。
赤司はそんな感じしねぇけど視界にいれて…あ、に話しかけて逃げられてるわ。うちのマネージャーは恥ずかしがり屋だからなぁ。赤司の背中がちょっと寂しそうだ。
高尾もチラチラまだ見てるな…ホークアイだけじゃ足りねぇって感じ。桃井さんには話しかけてたけどとは距離があって話しかけられずウズウズしてるのが透けて見える。高尾ってのこと好きなのか?
黒子も見てるっぽいけど…アイツはよくわかんねぇな。チラ見しててもわかんねぇとか影薄いのちょっと羨ましいかも。
残る2人は、と視線をずらしてみたが危うく噴き出すところだった。
がビビって桃井さんの後ろに隠れるくらいにはじぃーっと見ている火神と青峰にちっとは隠せ、と思った。見てるこっちはおもしれーけどこえーぞお前ら。
「(つーか、火神の奴なんであんな嫌そうな顔してんだ…?)」
「日向。悪ぃんだけどそのドリンクひとくちくれねーか?」
青峰は純粋にの太腿をガン見してるっぽいけど、火神はどことなく桐皇の制服を着ているが気に食わない、みたいな顔に見えて苦笑した。
そこかよ。どんだけだよ。それくらい許してやれよ。そう1人で震えながら笑いを堪えているといきなり若松に話しかけられドキリとした。
しかも自分のドリンクがあるのに何で俺のも飲みてーの?と疑問符を浮かべながらも差し出すと、一口飲んだ若松がカッと目を見開き、少しビビった。
「同じ味だ…!」
「え?…それ普通じゃねーの?」
驚き固まる若松にちょっと引きながら聞くと「ゴフ!なにこれ」と近くにいた高尾がドリンクを噴出していた。それを見た日向はハッとなり、ドリンクを持っている手が急に震えだした。
「桐皇ってもしかして、ドリンクの味、毎回違ったりするか?」
「…ああ。毎回同じ分量で入れてるはずなのに…つーか、全部同じ粉と水使ってるはずなのに、なにひとつ同じ味がねぇんだ…」
「……」
「しかも、5本中2〜3本は、かなり不味い」
遠くを見て顔色を悪くする若松に日向は心の中で『リコと一緒じゃねーか!!』と戦慄した。
一昨年前バスケ部を設立し、最初のうちはカントクであるリコにもマネージャー業を手伝ってもらっていたのだが、ドリンクを作ってもらったら先程のことのような現象が起こった。
日向自身何で市販の粉とただの水を混ぜただけであそこまで化学反応を起こすドリンクになるのか謎だったのだが、彼女の手料理を食べてこれは自分達で何とかしなきゃ間違いなくいつか死ぬ、と確信した。
それがまさか桐皇にも起こってるとは思わず、日向は震えたまま『やべぇ!桃井さんもロシアンルーレットの人か!』と驚愕した。
「まあ、死にそうなレベルのやつは桜井がこっそり入れ替えてくれてっからギリギリなんとかなってるし、今回も今のとこはまだなんとか耐えれる味だからよ。
大丈夫かもなって思ってたけど…良かったな。お前んとこは普通で」
「あ、ああ…」
俺達もリコが作ってた時は同じ気持ちだったぜ、とは言えずカラ笑いで返すしかなかった。まさかあれだけ強い桐皇にもこんな弱点があるとは思いもしなかった。
普通って大事なんだな、と考えているとドリンクを飲んだらしい赤司がを呼んで何やら話しだし、次いで紫原や高尾、あと緑間も集まっての姿が見えなくなった。
あ、ヤベーんじゃねぇか?と思っていると火神が颯爽と割って入りを救出していた。
ああいうことは黒子よりも火神の方が上手いよな、と感心していると火神とがこっちに来てその後を黒子が追いかけ、キセキの世代から少し離れた場所で3人でしゃがみこんだ。
話し声は日向の位置から近かったので聞き耳をたてているとやはりドリンクのことで赤司達が話しかけていたらしい。
元帝光中である黒子達はそれなりに慣れているらしいが大当たりした時は1番慣れてるはずの青峰も倒れるレベルのようだ。
それ、マジでやべーんじゃないか?と冷や汗が出てきた日向はおもむろにその輪の中に割って入った。
ただ3人の目の前に座っただけだが驚き目を丸くする達に何となく噴き出しそうになる。エサ待ちの雛鳥みたいだ。
まあやたらとでかい赤い雛鳥は真ん中の小さい雛鳥の肩に手を回してべったりくっついていて正直ウゼーと思ったけど。
内緒話すんのにそこまでしなくていいだろ。どんだけくっつきてーんだよ。独占欲丸出しだろ。
つか、黒子が可哀想だから仲間に入れてやれよ。
あとも何か反応してやって。火神が不憫に見えてくるから。
そんなことを考えながらも3人を見やるとやはり噴出しそうになった。
「…で、赤司達はなんだって?」
「あ、はい。自分の好みの味があるからそれとなく調整してくれないかっていわれました」
「桃井さんは……できないんだよな。やっても」
「そうですね。何度か頑張ってくれてたみたいでしたが…たまたまちゃんとした味になったこともあるにはあったんですが、きっちり分量を量っても2度と同じ味になることはありませんでした」
「それ逆に凄くねーか?」
たまらず視線を逸らし、震えたまま話を聞くと普通の味を知ってしまった面々がが来た時だけでもなんとかならないかと相談してきたらしい。
まあそう思うよな、と日向もリコのロシアンルーレットを思い出し、ならばとが任された仕事の話を聞いてみた。
「なくはないんですけど」
「例の危篤のパソコン以外の仕事は?」
「あ、それなら今のところないです」
ユニフォーム等は前日くらいまでに届く予定で他の重要な仕事は景虎さんの事務所の人達がやっているし、メール管理も持ってきたノートパソコンでできるから問題がないらしい。
気がかりがあるとすれば誠凛の部活が、といわれたのだが特に差し迫った試合もないのでこっちにいてもいいんじゃないか?
と、火神がいっていた。お前毎度毎度、俺のセリフいいとこどりで奪うよな。
「、」
「いで!」
「誠凛としての試合じゃねーけど、今回の再戦は絶対に負けられねぇし憂いはなくしておくことにこしたことはねぇだろ?」
「そう、ですね」
「いで…!」
腹を下すってことはねぇけど気絶レベルの不味さはあるので、それがないって思えるだけでも楽になるんじゃねぇか?と難しい表情をするを諭せば「とはいっても普通の味しか作れないんですけど」と眉尻を下げた顔で返された。
その普通がどんだけ大事か、両側の2人や俺達は十分身に染みてるよ。
火神の頭にチョップを落としながら「やれるだけでいいから頼むわ」と頼むと、困った顔のまま「頑張ってみます」と前向きな意見でが微笑み、やっぱ桃井さんよりもうちのマネージャーの方が可愛いわ、と思った。
勿論、1番なのはリコなのだけど、と内心惚気たのは内緒だけどやっぱりうちの子は可愛い。
2019/10/17
気づいたら日向が溺愛してた。
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