EXTRA GAME - 09


「あーさつきの料理はやべーぞ。たまにマジで死ぬ」

何度か三途の川ってやつ見たわ、と明後日の方向を見ている青峰の話を聞き決意を固めたは丁度ドリンクの粉がなくなったのもあって自ら買い出しを申し出た。

桃井さんの仕事の邪魔をしてるように見られたらどうしよう、とちょっと心配になったけど赤司君と日向先輩が何とか上手くいってくれたので(その後の青峰の一言で若干水の泡になったけど)なんとかもマネージャーとして参加することになった。


「つーか、何でこうも毎日紫原の菓子まで買わなきゃなんねーんだよ」
「だってこのお菓子、ウチの方のコンビニじゃないとないみたいなんだよ」

現在実家に戻っている紫原君は時間を持て余しているのだが自分が探したコンビニやスーパーではが持って来たお菓子は見つからなかったらしい。
それでどうしても食べたくなり昨日の練習帰りにお願いされてしまったのだ。同じ都内でそんなことがあるのかわからないけど、今日も覗いたら売っていたので買ってきたまでである。

「だからあいつに神様とか呼ばれるんじゃねぇのか?」と隣を歩く火神に苦い顔をされ肩を竦めた。それは望んでないです。


「仕方ありませんよ。あそこで引き受けなければさんの家までついてきそうでしたし」
「…まぁな」
「だね、」

それはそれで困るよね、と乾いた笑いを浮かべると練習に使っている体育館に向かう道沿いに見覚えのある金髪とそれを取り巻く女の子が数人道を塞ぐように立っていた。



「あれって…あれだよね」
「あれだな」
「黄瀬君ですね」

思わず立ち止まり眺めているとどうやらファンの子達に囲まれているらしい。
邪魔だな、と3人がシンクロしつつ思い浮かべたが、そこを通らないとかなり遠回りをして体育館に行かなくてはいけないので仕方なくその道を突き進んだ。


「あ!火神っち!」
「……」
「え、ちょ!っち?黒子っちも何で顔隠してんスか!」

こちらに気づいた黄瀬君が先頭の火神に声をかけたが彼はドリンクの粉が入っているビニール袋で顔を隠し、その後に続いたもお菓子の袋で顔を隠し、黒子君も顔を手で隠して足早に通り過ぎていった。

後ろから「ちょっと!置いていかないでくださいっスよ〜!」と騒ぐ声が聞こえたが無視してそのまま体育館がある建物の中へと駆けこむように逃げたのはいうまでもない。



*



「酷いっスよ3人共!俺を置いてくなんてー!」
「酷くねーよ。巻き込まれるこっちの身にもなれよ」

ぜってーめんどくせーことになるだろ、と休憩中にぼやく黄瀬君に火神が嫌そうな顔で返していた。は黒子君にドリンクを渡して遠巻きに黄瀬君を見やる。

あの後、練習開始ギリギリまで捕まっていた黄瀬君は景虎さんに嫌味をチクチクいわれて余計にストレスを溜めてしまったらしい。
発散の矛先がこっちに回ってきたのだけどドリンクを飲んだらそのまま倒れていた。


「黄瀬良かったな。大当たりじゃねーか」
「あ、あ、あ、青峰っち交換してぇえええ〜っ!!」
「嫌に決まってんだろ」

誰がそんな毒物飲むかよ、と黄瀬君から距離を取る青峰だったが「大ちゃんひどい!」とプンスカ怒った桃井さんにノートで背中を叩かれていた。

ちゃんサンキュー!こんくらいでいいわ」
「はーい」


高尾君を見やれば指でOKマークと一緒に笑みを作っていて、緑間君もこっちを見てしっかり頷いていた。2人共大丈夫らしい。

本当は全員分作れれば良かったんだけど、ベテランの桃井さんの方が仕事が早くて何人かドリンクが作れなかったのだ。
その何人かの中に黄瀬君がいて、しかも泣くほどに凄いドリンクを引き当ててしまったらしい。日向先輩はまだ飲めるみたいだけど顔が固まってるな。

これはもう少し早くドリンクを作れるようにならなくてはいけないかも…と真剣に考えていると袖をやんわりと引っ張られた。



身に覚えのある感覚にギクリとしながらも振り返ると、ドリンクを飲んだままの紫原君が見たことないくらいほんわかというかトロンというかちょっと形容しがたい、多分幸せそうな顔での袖を引っ張っていてビクッと身を引いた。

誰だこの人?と思うくらい知らない顔の紫トトロがいる。

「神様〜陽泉おいでよ〜」
「え?!」
「俺のマネージャーになって〜」
「俺?!」

専用?!と益々ぎょっとしていると同じくドリンクを持った赤司君がやってきて「随分懐かれたな」と感心していた。
懐かれたの…?え、と思うのと同時にサァっと顔色を悪くすると「紫原のドリンクを作ったのもかい?」と聞かれ恐る恐る頷いた。


「甘めがいいっていうんで、ちょっと粉の量多くしたくらい…なんだけど」

注文を受けた中で1番面倒だったのは緑間君だったから紫原君の反応はある意味意外だ。
最初にドリンクの注文をしてきた赤司君も「ありがとう。丁度いい味だよ」と丁寧なお礼をいわれたけど、ここまでフワフワな紫原君にはなっていない。

「だってうちのドリンクって、一斉に作るらしくてみんな量が決まってるから、個別に味変えるなんてことしてくれないんだよね〜」

いや私もこんな個々に味を変えて作ったの初めてでしたよ。
もしかして誠凛って味のこだわりが少ないのかな、と思っていると「ドリンク普通に飲めるし〜お菓子も俺の好きなの買って来てくれるし〜もう神様の家に婿入りしたい」いいだしたので恐怖で首を光速の速さで横に振った。何かのドッキリでも恐ろしいので辞退させてください。



「ちょ!紫原っち俺にもひとくち!というか、交換して…!」
「え〜っ絶対にやだし!」
「私だって甘めのドリンク作ったことあるよ!」
「さっちんのは粉が底で固まってて危うく喉に詰まらせて俺死ぬとこだったし…」

それかドロドロな常温スムージーになってたから。あれ飲めないから。と嫌な記憶を呼び起こしたらしい紫原君が顔をしかめていた。

そこまでいわれた桃井さんは勿論「ムッ君ひどーい!」といって泣いてしまい、黒子君に慰めてもらっていた。
いやでも、むしろどうやったらそんなドリンク作れるの…?と思いつつ黒子君に頭を撫でられている桃井さんを微妙な気持ちで見ているとまた袖を引っ張られ視線を強制的に戻させられた。


「神様。陽泉においでよ〜それか住まわせて〜」
「いや、そ、無理、です…」

現実的な話無理だからね?といいたかったのにろくに言葉が紡げず片言になってしまった。というか泣いてる桃井さん放置していいのか?黒子君慰めてるからいいのか?

「え〜行こうよ〜」と不満そうに袖を引っ張ってくる紫原君は一見可愛い仕草にも見えなくはないが相手が腰下くらいの小さなトトロならまだセーフなのであって、2メートル越えの紫トトロにされるとどうにも身構えてしまう。
圧迫感しか伝わってこない視覚情報に冷や汗をダラダラ流していると、袖を摘まんでいる手をパシッと火神が叩き落とした。



「その辺でいいだろ。あんましつこいと余計に嫌われんぞ」
「…火神、」

ずいっとの前に進み出た火神は紫原君を見えなくすると、一気に紫トトロの声色が1トーン下がりぶるりと震えた。

「別にしつこくねぇし」
「じゃあ迷惑してんだろ」
「いってるだけだし!」
「どっちも同じだろうが。つーか休憩も終わりでいいだろ?」
「そうだな」

これ以上休んだら身体が冷えちまう、と火神が視線を投げると赤司君はフッと笑ってドリンクとタオルをに渡しコートに戻って行く。

それに反応するように他の選手達も動き出し、も近くにいた人達のタオルをドリンクを慌てて引き取った。


「俺、しつこく誘ってねぇし」
「しつこいだろ。が嫌がってたじゃねぇか」
「嫌がってねぇし」
「嫌がってたっつーの。どこ見ていってんだよ」

そして本人不在の状態でいってる、いってない論争を続ける火神と紫原君にの顔が引きつった。
殴り合いのケンカとかしないでよ、と願ったが言い争いの原因が自分になるかもしれないと思うと居心地悪いこの上なかった。胃の辺りがぎゅっと締め付けられてしんどい。

それでも自分が陽泉に行くことはないんだけどね…、といがみ合っている2人を恐々と見ていると手の中にあった紫原君のボトルがひょいっと抜き取られた。
見れば黄瀬君が紫原君の残ったドリンクに口をつけている。



「うおっ…本当に甘いっスね」
「そういう注文だったから…」

ある意味目が覚めるかも、とビックリした顔のまま黄瀬君がボトルを戻してきて、自分のボトルもその中に入れてきた。

「俺はここまで甘くなくていいんで。むしろ薄めでもイケるっス」
「そうなんだ」
「俺の特技、利きミネラルウォーターなんスよ」

粉っぽくなければ濃くてもいいんスけど、かなり薄めも好きっス。と好みを報告してくれる黄瀬君にうんうん、と聞いていたら、おもむろに屈んできての耳元まで顔を近づけた。

その距離に思わずビクッと肩を揺らしてしまう。


「そういうわけで、次はドリンク、っちにお願いしてもいいっスか?」
「え?私?」

の手が早ければ黄瀬君の分も作る予定だったけど、桃井さんのドリンクを悶絶しながらも結構飲んでいたからそこまでは問題ないのかと思っていた。

内緒話をするかのように手を添える黄瀬君を驚き見やればギクリともドキリともする距離に彼の端正な顔があって固まった。
髪を切って少しスポーツ青年っぽくなったと思ったけどやっぱりイケメンはイケメンだよね、と第三者気分で納得している自分がいる。

「桃っちのドリンク飲むのはいいんスけど、その後の飯とか飲み物の味全部なくなるんスよ」
「そ、そうなんだ…」

それはどんな劇薬なんだろうか。
それでもちゃんと飲んでる黄瀬君偉いな、と感心したは「わかった。頑張ってみます」と頷くと、「よっしゃ!」と黄瀬君が嬉しそうに小さくガッツポーズをしていてなんだか可愛かった。



「うわあ!く、黒子っち?!」

黄瀬君の素っぽい笑顔もよく見るようになったなぁ、と感動半分緊張半分で目を合わさない程度にドキドキと見ていると、視界に入ったらしい黒子君に大いに驚いていた。
すぐ後ろでじっと黄瀬君を見ていたのに気づかなかったらしい。

で黒子君が近くにいるとわかっていたから黄瀬君とまともに話せていたのだけど。
そんな黒子君がこっちを見てきたのでボトルを受け取ると変なタイミングで「美味しかったです」という言葉を貰い思わず噴き出してしまった。


お礼は定期でいわれてるけどまさか味の感想をいわれると思ってなくて少しビックリした、というかなんかツボったかもしれない。

「ありがと。次も頑張ります」とクスクス笑いながら送りだせば、不思議そうな顔をしながらも黒子君に続くように黄瀬君も歩き出した。


「…なんか、黒子っちに全部持ってかれた気分っス」
「そうですか。それは残念でしたね」


視線を寄越した黄瀬君と目が合い、緩んだ口許を慌てて引き締めると彼は黒子君に視線を戻し何となく面白くなさそうに口を尖らせる。
それを受けた誠凛の影である水色頭はしれっとした声で返していて、まだいがみ合いが終わらない光の相棒と紫トトロ達がいる輪へと戻って行った。




2019/10/18
ドリンクって今迄言及されたことなかったけど役割欲しさに模造してみました。

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