EXTRA GAME - 10


才能があるが故にぶつかってしまい、チームの崩壊にまで至ってしまったキセキの世代は2年の時を経て再びチームとして試合に出ることになった。

公式試合で個人としての能力は見ていたけど練習の流れを伺う限り味方としてのキセキの世代は心強いなんてものじゃ収まらない気がした。中学の時に見た彼らよりも断然強く見える。


「なんというか、公式試合で当たらなくて良かったーって気分になるね」
「んなことになったら中学の悪夢再来、だからなぁ」

休憩中、高尾君にタオルを渡しながらそんなことを呟くと、が言いたいことがわかったのか乾いた笑いで返された。

同じ世代で同じバスケ部なら中学の時も当たってたよね、という回答にも肩を竦め視線を投げると緑間君と紫原君という珍しい組み合わせが一緒に桃井さんからタオルを貰っていた。

「つーか、こうして見てっと何で高校割れたんだろって気にさせられるよな」
「だねー」


青峰は火神と、赤司君は日向先輩と若松さん、黄瀬君は桃井さんと話している。今の光景を見る限りとても険悪だった仲とは思えないくらい和やかだ。
勿論本番に向けての緊迫感はあるけどいい意味でだし、黒子君から聞いていたどうしようもないギスギスとした空気は見る影もなかった。

これだったら何人か一緒の高校に行っても良かったのでは?という気持ちにもなったが、横からスッと出てきた彼の顔を見たらそれは違うのかも、と思ってしまう。



「それはどうでしょうね」
「うおあ!黒子!」

最近、高尾君の死角をわざと狙って来ているのだけど今日は概ね成功したらしい。
ホークアイを持つ高尾君に驚いてもらい満足そうな顔をした黒子君はそれぞれ和やかに話しているキセキの世代を見て「そろそろかもしれませんよ」と肩を竦めた。

「そろそろってどういうことだよ」
「言葉のままです」


試合以外でも黒子君の位置を把握している高尾君だが、と話している時はちょこちょこ忘れてしまう時があるらしい。

理由はよくわからないが素に近い顔で驚く高尾君はなかなか見れないのと高尾君のリアクションが結構好きだったりするので黒子君に合わせている。
苦々しい顔をする高尾君との間割って入った黒子君はポーカーフェイスのまま嘆息を吐いた。


「遊び程度だったり短時間なら特に問題ないと思いますが、卒業してこれだけの長い時間を共有するのは今回が初めてなんです」
「え、」
「それって」
「成長してお互い見え方も変わったとは思いますが、中学までの記憶が消えたわけでも昇華できたわけでもないと思います。
というか、そもそもそのことについて改めて話す機会もなければ根本的解決もまだしていません」



一癖も二癖もある面々が衝突し崩壊して再構築しないまま高校へと移っていったが、それぞれの高校生活や張り合った公式試合で成長したと思われた。
普通に考えたらバスケの姿勢の違いからくるケンカなのだろうから、時間を置けば特に問題ないのかもしれない。

けれどここはキセキの世代がいる空間だ。長時間の負荷がどのようなストレスを与えるかは定かではない。しかも帝光時代の残った記憶がまだそこにあって異物として燻っているとしたら。


「だから、何度言ったらわかるんだ!」
「はああ?意味わかんないんだけど」


普通に話してる姿しか見てなかったから大丈夫かと思ってたけど特に仲直りとかしてなかったの?と顔を引きつらせるといきなり声を荒げた長身組にギクリとして視線をそちらに向けた。

黒子君の読み通りとか笑えないんですけど。

目線の先には予想通り緑間君と紫原君が睨み合っていてはそれなりに遠くにいるのに身構えた。男同士のケンカって怖すぎる。


「…ちなみに中学の時はアレどうやって止めてたわけ?」
「赤司君がいれば赤司君が…監督が健在だった時は監督もですが。ボクが仲裁に入っても上手くいく時といかない時がありましたし、黄瀬君は気が向いた時にしか入ってくれず青峰君は基本的に放置でした」
「へぇ。つか、真ちゃんが誰かと怒鳴り合ってるの見たことねーかも。新鮮だわ〜」

一方的にキレられることはあっけど、と笑う高尾君には高尾君の心臓強すぎる、と顔を引きつらせた。道理で青峰達がぼんやりとした顔で見てるわけだよ。



「それに緑間君と紫原君は昔から何かと気が合わないことが多かったので…」
「そういう空気だよね…!確かに!」

どう見ても日頃の鬱憤もあったみたいな顔つきだもの。
声を荒げる緑間君は見たことがあるけどあそこまで相手を睨みつける姿は試合で見たことがあるかないかだし、紫原君はお菓子切れを起こした時の顔になっている。

お菓子切れ、と思い出したと同時には壁際に置きっぱなしの自分のバッグに走った。


今は景虎さんはいないしリコ先輩や日向先輩達も驚いた顔で2人を伺っている状態だ。掴み合いにでもなれば動いてくれるかもだけどそこまでには至らないような気もする。

そして元帝光生の動かなさよ。

桃井さんは心配してる感じだけど、日常茶飯事だったのでもう少し様子見ておこうかな、みたいな顔で見てる赤司君に『おい!』とつっこみたかった。
本番の試合はすぐそこなんですけど!!とバッグからお菓子を取り出すと高尾君が大きく息を吐き、緑間君達の方へと歩き出した。


「ちょっと真ちゃん。何熱くなってんの〜?今日は練習だぜ?」

ギリギリと睨み合ってる2人に笑って仲裁に入った高尾君を射殺さんばかりに緑間君が睨んだが、「ぶふっ!真ちゃん何その顔!余裕なさすぎじゃね?」と笑っていなしていた。凄いな高尾君…!

「あ、あの!紫原君!お菓子食べませんか?」

私も頑張らねば、みたいな気持ちで予備で持ってきていたお菓子を掲げると紫原君の視線がこっちに向き「食べる…」と歩いてきた。



また身長が伸びた紫原君がのっしのっしと歩いてくる姿はまさに進〇の巨人そのものだ。対峙したら最後、掴まれて頭からガジガジと食べられてもおかしくないような顔つきと圧迫感にの目には涙が浮かんだ。

やっぱり怖いものは怖い…!

内心悲鳴を上げたは自分で呼びよせたにも関わらず「ああああ、あの、パスします!」といってこれ以上近寄らせないようにお菓子を投げた。


「あ……」


が、何故かお菓子は紫原君の顔に見事クリーンヒットして床に落ちた。
いつもは届かず落ちるとか暴投するのになんでこういう時ばっかり!と泣きそうになったのはいうまでもない。


「ぶは!ちゃん!!!ナイッシュ…あはははっ」
「お前、わざとだろ」
お前な…」
「ち、ちちちちちちがっ!!」

お腹を抱える高尾君の隣で緑間君も噴出したように見えたが、それなりに近くにいた青峰と火神に呆れられ、青い顔で首を横に振った。

断じてわざとじゃないです!私のコントロールが死んでるだけです!!無罪無罪!当てたけど故意じゃないです!と心の中で訴えていると「…神様」と何も言わず立っていた紫原君が静かにを呼びビクッと肩を揺らした。

油の切れた機械のように顔を戻すと彼は落ちたお菓子を拾っているところだった。



「お菓子を投げちゃダメだよ。中が粉々になるから」
「はい…ごめんなさい…」

しゃがみこみ、見上げ形でを諭す紫原君を不可思議な気持ちで見ながらがっくりと肩を落とし謝った。止めに入ったのに逆に諭されるって…と反省したのもいうまでもない。




2019/10/19
キセキの世代ってケンカしてるわけじゃないけど仲がいい設定でもなかったですよね、と思い。