EXTRA GAME - 11


紫原君のお菓子を落として巨人ばりに捻り潰されるかと少し不安があったが紫トトロはが考えているよりも冷静で大人だったようで、緑間君といがみ合っていたテンションを萎ませいつもの彼に戻っていた。

緑間君も練習が再開される頃にはいつもの表情に戻っていて高尾君流石だな、と感心したのはいうまでもない。


「え?俺、ちゃんが動かなかったら何もする気なかったぜ?」


さすがに試合本番近いのにガチギレケンカはしないっしょ!と練習が終わりさっきのことで高尾君に声をかけたらそんな風に返され、過剰に心配したのは自分だけだったと知り衝撃を受けた。

あんだけ怖い雰囲気だったのに大丈夫だったのか…マジか…。
黒子君も赤司君も動かなかったのはそういうことだったのか…とか。
本当に困ったら日向先輩とか若松さんとか景虎さんいるんだしそっちに頼れば良かったのか…とか。

何も自ら進んで爆心地に行かなくても良かったことに今更気づいて溜息を吐く。


また新しいお菓子買ってこなくちゃな、と更衣室でしょんぼりとした気持ちで制服に着替えているとノックと共にドアが開いた。ドアを開けて入ってきたのは桃井さんでどうしたのだろう?と首を傾げた。

彼女はと違って制服で仕事をしてることが多い。なので着替えることもないんだけど、どうしたのかな?と思いつつスカートに穿き替えていればロッカーを開ける音が聞こえた。何か忘れ物だろうか。



さんって帝光の時の大ちゃん達知ってた?」

テツ君達、といわなかった桃井さんになんとなく気になって振り返ると彼女はロッカーに寄りかかりながら俯いていて表情は見えなかった。

「テツヤ君に聞いてなんとなくは」
「試合は観に来てなかったの?」
「2年の時にちょっとだけ。練習も公開してる時に観に行ったよ」
「そっか」

聞かれた意味が読み取れずとりあえず質問に答えてみたが沈黙が流れる。俯いたまま動かない桃井さんにも動けず彼女を見ていると「驚いちゃったよね」と先程の緑間君と紫原君のいがみ合いを話し出した。


「怖かったでしょ?」
「うん。ちょっと焦った」
「でもあれはまだいい方だったんだ。もっと酷くなると目も合わせないし会話も殆どなくなるの。ケンカ以前に無関心って空気になって」

あれは本当に怖かった。と小さく零す桃井さんに驚き目を見開いた。
ああそうか。桃井さんもずっとマネージャーとして崩壊していく彼らを見ていたんだ。

ケンカしてる方がマシだと思えるくらい、その後の光景が辛かったのだろう。俯いたまま表情は伺えないが声色が少し震えてるようにも聞こえた。


ただ見ているしかなかった自分を、何かしたとしても変わらなかった彼らを想って後悔してるのかもしれない。



「じゃあ、高尾君様々だね。お陰で練習も普通に出来たし」
「そうだね」

高尾君は偉大だ。一見怒らせるような素振りをするけど、緑間君だけじゃなくてみんなの毒気を抜いて練習に集中させてくれる。
彼がいるお陰で本番までの練習も大丈夫そうだ、と思えるくらい安心できた。

ただまあ、今日のケンカは特に心配する程のことじゃなかったみたいだけど。

マネージャーの方があたふたしてたら選手も落ち着かないよね、と内心自分のことを思い出し後悔していると「さんもだよ」と桃井さんの声が聞こえた。


さんがいてくれたからムッ君も練習サボらなかったんだよ」


顔を上げた彼女を見ればいつもの優しい微笑みでを見ていて少なからず照れた。女に子にも照れるって、と思ったけど相手が美人さんだからかな、と思い直した。

「あ、のさ。さつきさん」
「うん?」

着替えを終え、待っていてくれた桃井さんと一緒に更衣室を出たは彼女の桃色の髪を見ながら声をかけた。


「こんな風にキセキの世代がチームで何かするってことが今後もあったらさ…あ、今回でもいいんだけど。さつきさんが大変だったら頼ってくれていいからね」
「え…?」
「今だったら高尾君いるし、うちの主将…日向先輩も結構強いから。ケンカとか何か怖いって思うことがあれば頼って。あと一応私もいるし…役に立つかはわかんないけど」
「……」
「もう1人で頑張らなくていいからね」



帝光中のバスケ部に桃井さん以外にもマネージャーはいたからこの言葉が正解かどうかはわからない。
けれど1番近くで見ていたのは確かだから。

それだけ心を痛めてる気がして、イジメの経験を経てなんとなくそういう機微に敏感になったのとどうしても放っておけなくて、余計なことだと思いながらもにっこり微笑んだ。


桃井さんを見れば桃色の髪が揺れ、の身体が温かくなった。気づけばは桃井さんに抱きしめられていて、耳元で「…うん、」と泣き声のような小さな声が聞こえは彼女の背をそっと撫でた。

ずっと頑張って来たもんね。苦しかったよね。悔しかったよね。そんなことを考えたらまで泣きそうだった。




2019/10/20
桃井のこともまるっと愛でていくスタイル。

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