EXTRA GAME - 15


黒子君はこっちが気恥ずかしくなるようなことを平然といってしまうけど、火神も火神でこっちが照れてしまうことをさらっとやってしまうよな、と行動力がある2人に何とも言えない顔になりつつ席に戻ると自分の席がなくなっていた。
というよりもシャッフルされたらしい。

黒子君の姿が見えなくて視線を巡らせると少し離れた端の席に紫原君と顔を突き合わせて何やら話している。

珍しい組み合わせだな、と思いつつどこに座ろうと足を踏み出すと首に絡められた色黒の腕にうげ、と顔をしかめた。というか早速ポテト摘まむとかこの食いしん坊はまだ食べ足りないのか。


「お前、またおもちゃ付きのセットなんか頼んだのかよ」
「…食べるか座るかどっちかにしてよ…」

まだ席についていないの横でモリモリポテトを食べてるかと思いきや、おもちゃの袋を摘まみ上げ勝手に封を開ける青峰に呆れた顔で見てしまったが出てきたおもちゃは新しいものだった。


「緑間ぁ。これやる」
「っ!何なのだよ。いきなり…」
「あれ。ちゃんまた頼んだの?」
「飲み物だけにしようかと思ったんだけどなんか小腹がすいた気がして…」

ついっと緑間君を見たのがわかったのか青峰は、が言うよりも先に緑間君におもちゃを放っていた。
相手が緑間君だからキャッチできたけど普通の人だったら取れなかったぞ、というタイミングに本当自由だな、と思ったのはいうまでもない。



メニューを見た時はシェイクでもいいかなって思ったんだけど満腹中枢も壊れてるのか見ているうちになんとなくお腹が減った気がして気づいたらセットを頼んでいたのだ。
あっちでは高尾君が「良かったな真ちゃん!」とにこやかに話してるから良かったんだろう。

空いてる席にトレイを置き、自分も座ろうかと腰を下ろそうとしたらさっきよりも高い位置に椅子の座面を感じて振り返ると青峰が先に座っていてぎょっとした。

いるならいるっていってよ。危うく上に座るとこだったじゃないか、と眉を寄せるとジャイアンは悪びれもせずポテトを食べながらこっちを見ている。
何その期待してるような目は。しかももう1人収まるくらいの空間を空けて座ってる様はなんなの。


「なんだよ。座らねぇのか?」
「座るか!」

座るってその膝の上にでしょ?!バカじゃないの?!と顔を赤くして青峰の頭にチョップをしたは飲み物を持って他の席に移った。


「騒がしいな。何やってんだよ」
「青峰っちがっちを膝に乗せて一緒にポテト食べよって誘ってたんスよ」
「はああ?!おまっ!何考えてんだよ!」

さっきよりは控えめだけどバーガーを何個も買い込んだ火神が戻ってきたのだが、話を聞いて顔を赤くした。
公共の場だろ!と怒ったけどキミにも似たようなことをされた気がします火神君。

というか黄瀬君に事実説明されるの凄く恥ずかしいのは何でだろう。いや、黄瀬君じゃなくても恥ずかしいか。



「別にいいだろそれくらい。減るもんじゃねーし」
「減る問題じゃねーし!」

が座らないと分かった青峰はダルそうに行儀悪く座り直しながらポテトを食べていると「それ、のじゃねーか!」と火神につっこまれていた。
食べるか?と今更こっちを見てくるジャイアンに首を横に振って全部あげる、といってあげると彼は嬉しそうにニヤリと口許をつり上げた。


「ごめんねさん。大ちゃんが迷惑かけちゃって…」
「おいさつき!何保護者気取りで謝ってんだよ!」
「大ちゃんがちゃんとお礼言わないからでしょー!」

かがみんにも奢ってもらったのに、と小言をいう桃井さんに青峰は苦い顔をすると「ーありがとよ」と適当にお礼を言ってトレイを抱えそっぽを向いてしまった。まったく子供なんだか素直じゃないんだか。

ストローに口をつけながら呆れた顔で青峰の背中を眺めていると「。」と呼ばれ振り返った。
赤司君に誘われるまま席に座ったのだが、両隣が赤と緑というサンタクロースが逃げてしまうような鉄壁の布陣になっていた。うん、黄瀬君は落ち着かないかもねここ。私もちょっと緊張する。


「礼を言うのだよ」
「ううん。あと何種類?」
「あと1種類。さっき行ったらダブっちまってよ〜」
「それ全部制覇しなきゃならないんスか?」
「全部集めると合体が出来るのだよ」
「そのロボットが欲しいんだと」
「ロボットならおもちゃ屋とかに売ってるあれじゃダメなんスか?」

緑間君は少し照れ屋なのかよく眼鏡を弄ってるし目も合ったと思ったら逸らされるのだけど、嬉しそうなのは態度でわかった。それに安堵して聞いてみると途中まで組み立ててあるロボットを見せてもらう。



お店で見るようなロボットとは形も色も幼稚に見えてしまうのだがそこがラッキーアイテムとしていいらしい。というか黄瀬君のいうロボットは既に持っているそうだ。

おは朝占いに備える緑間君に手抜かりはない。流石人事を尽くす男、なんてテロップみたいな文字が浮かんだのは秘密だ。


「そうだ。さん、赤司君にアレ見せた?」
「あ、忘れてた」
「アレとは何だい?」

今度は火神のハンバーガーに手を出している青峰を目の端に入れながら桃井さん達と話していると、彼女がハッと思い出したようにこちらを見てきてもそうだったと辺りを見回した。

私の鞄、と見回すと高尾君が何も言わないのに気がついてくれ渡してくれた。
流石だ、と礼をいいつつ中からノートパソコンを取り出したは電源を入れると慣れた手つきでアイコンをクリックしファイルを立ち上げた。


「選手のデータ自体はさつきさんが集めてくれたから特にいらないと思ったんだけど、赤司君がナッシュ・ゴールド・Jrとはやりづらいかも…っていってのが気になってちょっと動画を漁ってみたんだ」
「動画ってネットのっスか?」
「そうだよ。さんすっごいの!私が探した倍以上の動画を見つけててね!中には結構いい動画とかあって!私が探した時は思う程いい映像出てこなかったんだよ〜」
「画質はいいんだけどね」
「そうそう。プロが撮ってるやつはいいんだけど、他のはブレるしいいところ見切れるし!」
「桃っち達っていつもそうやってデータまとめてくれてたんスね」

大変だったんスね〜と感心するように労う黄瀬君の言葉を聞きながら、赤司君が視線を寄越してきたので「でね、」とファイルの一つをクリックした。



「色々回って見てみたんだけど、あの人達の試合で人気なのってカメラが入ってない正式な試合じゃないやつなのね。でもそういうやつって観客が撮影するから短かったり見づらかったりするんだけど、」
「へぇ、」
「長めに撮影してる人の動画を集めて繋げて編集してみたのがこれ、です」

なるべく全体が見渡せる動画とブレないものを選んでみたけどフランケンシュタインなのは否めない。変なところでいきなり画面切り替わるし。


ただ寝る時間を削って作った甲斐もあって桃井さんに見せた時は「そう!ここ見たかったところ!」といってもらえたので個人的には満足している。
リコ先輩と景虎さんにも一応ディスクを渡してあるけど見るのは明日かな、と考えていると流した映像が終了した。

思ったよりも近い距離にいる赤司君を伺えば「さっきのところ、もう1度見せてもらえるかい?」とリクエストされたので再生ボタンを押す。

「……なかなか興味深いな」
「みんな派手なシュートに集中するから見切れるんだけど繋げるとわかりやすいよね」


撮影してるとどうしてもボールを追いかけるから見落としがあるんだけど見つけた抜けた部分を見たらナッシュ・ゴールド・Jrの動きが特殊でかなり目を惹いた。
逆にその動画を見つけなければここまで一生懸命に動画を編集しなかったといってもいいだろう。隣で画面をじっと見つめる赤司君に1人満足しているとその赤い瞳がを映した。



「赤司。近いのだよ」
「え?…あ、ご、ごめん!」

苛立たしげな緑間君の声にビクッと肩を揺らすと赤司君の瞳に自分が映るくらい近いことに気がつきパッと離れた。よく見れば赤司君と脚がくっつくくらい近い距離にいて内心咆哮する。

そうだった。動画をスムーズに動かす為に軽くしたら画面がちょっと小さくなったんだった。赤司君に見せるために用意したのに自分も一緒になって見たらこういう距離感になるよね。

失敗した、とテンパって謝ると赤司君は「いや、」と微笑み、その笑みのまま緑間君を無言で見つめた。一瞬、火花が散る音が聞こえた気がした。


。この試合はこの部分だけかい?」
「え?あー雑に編集したのでよければ…抜けあるけど、1試合丸々あるよ」
「構わない。見せてくれないか?」

黄瀬君や高尾君は桃井さんと話をしている光景を遠く感じながら両隣の無言のプレッシャーに身を縮みこませていると赤司君に顔を覗き込まれドキリと肩が跳ねた。

その前にタッチパッドに置いていた手の上に重ねるように置かれた自分よりも大きくて綺麗な肌に驚いたのもある。重みと動揺でカーソルが変な風にうねった。


本当は生で試合を見れればいいんだけど今回はそれができないし、試合映像も少ないから、少しでもナッシュ・ゴールド・Jrを攻略する補強になればと思って作ってみたけど、赤司君のお眼鏡にかなったみたいだ。

なるべく平然な顔をしてもうひとつの動画をクリックし再生させると、赤司君が見やすいように今度は身体を引いた。すると背中に背凭れじゃないものが当たり振り返る。



ぶつかったのは緑間君の腕で、が座っている椅子の座面に手をついていたようだ。

緑間君も動画に興味があるのか、身を乗り出し画面を覗き込むの彼に慌てて身体をずらそうとしたが、あ、と思った時には緑間君の肩に寄りかかるような形で彼の腕と身体の絶妙な隙間にすっぽりハマってしまった。

「緑間、」
「……」

ヤバい、と頭では思ったが緑間君は更に身を屈め、見やすいようにの顔近くまで寄せてきたので逆に身動きが取れなくなる。
固まるに赤司君が横目で緑間君を呼んだが彼は無視して画面に視線を食い入るように見ているみたいだった。


今迄、緑間君は人と触れ合うのはあまり好きじゃないと思っていたけどそうでもないらしい。心なしかちょっといい匂いがする。
お香というかお線香というか制汗剤とはまた違った匂いに気がついて少し緊張した。

なるべく体重をかけないように身を正すと緑間君が視線をこちらに寄越してきた。なんとなく、寄りかかれと言われた気がする。

そう言われても、と眉尻と下げると、と赤司君を引き離すように火神が割って入ってきてハンバーガーを食べながらしゃがみこんだ。
一応これ、赤司君に見せてるんだけど、と火神を見やると半目で見られ、そして緑間君を睨んでから画面を見やった。


何?その視線誘導、と首を傾げるといきなりの頭が重くなり視界が下がる。これは確認しなくてもわかる。ジャイアンも見に来たのか。

反対側に誰もいなくなったから多分高尾君や黄瀬君達も動画を見ているんだろう。想像以上に真剣に見てるみんなには微妙に集中できないままなるべく小さくなって動画を見つめるのだった。




2019/10/24
緑間の匂いっておばあちゃんかお線香と同じ気がする(偏見)

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