EXTRA GAME - 17


チカチカとウインカーの音を聞きながらは車のドアを開けると、先に出て台車に荷室から下ろした段ボールを積んでいるおばさんに声をかけた。

「やっぱり私が持って行きます」
「いいのよ。ちゃんは乗ってなさい。これ置いてきたら送ってあげるから」
「ありがとうございます。でも…」

逆に1人にされる方が今は怖いです、と素直に吐露するとおばさんが申し訳なさそうに俯き「じゃあ一緒に行こうか」と荷室のドアを閉めた。


おばさんに腕や首を入念にチェックしてもらい、台車を運んでいくと体育館から複数のバッシュのスティール音とボールの音が聞こえてきた。
それだけでホッと息がつける気がして、手に力を込めると引き戸を開けた。

中に入れば廊下とは打って変わってめいっぱいの光を受け、少し目が眩む。その目をこじ開けると公式試合か?と思わせるような気迫で練習をしてる黒子君達がいて思わず目を見開いた。
昨日も十分真剣だったけど今日はそれ以上に集中してる気がする。


「おーちゃん。お疲れ…てあれ?」

壇上にいた景虎さんにおばさんが声をかけ、も段ボールを壇上に上げ箱の中身を見せるとおばさんと話をしていた景虎さんがこっちを見て「お、いいんじゃねーか」といってくれた。
「後であいつらに渡してやりな」と練習してる彼らを見たが、視線がスッとこっちに戻った。



ちゃん。あいつらが妙にやる気になってる理由聞いてるか?」
「え?」
「試合が近いから気合入ってんのはわかるんだが、今日はまた一段といい面構えになってるからよ」
。もしかして昨日の動画見せたの?」

景虎さんも思ってたのか、と考えていたら傍らにいたリコ先輩に聞かれ頷いた。どうやらリコ先輩も見てくれたらしい。


「あーそれのせいか。なら納得だな」
「そうなんですか?」
「あれはあいつら『Jabberwock』がテレビやらプロに注目された切欠にもなった試合だからな。残念ながらフルで撮ってる奴がいなくて未だに断片的に誰かしらが語ってるいわば"伝説級"の試合だ。
前に俺もその動画を見たが、ちゃんが編集してくれた動画を見て更に納得したわ」
「……」
「奴らは強い」

だからこそガキ共が躍起になったんだろうよ。と顎に手をあて口許をつり上げる景虎さんにも振り返り選手達を見やった。
火神達はゾーンに入っていないものの綿密な視線のやり取りをしているみたいで緊迫感がこちらまで伝わってくる。


笠松さん達が負けてしまったくらいの強さだから容易には勝てないのはわかっていたつもりだけど、キセキの世代がここまで真剣に取り組む様はよりJabberwockの強さを引き立ててるようにも見えた。

「それどころじゃないんですよ!大変なことが起きたんですって!!」

Jabberwockの名前で嫌が応にもナッシュの顔が浮かんだは青白い顔で自分の袖を掴むと、おばさんが景虎さんの腕を引っ張り壇上の隅で内緒話を始めた。
それをぼんやり見ただったが視線を戻し見せる為に出したユニフォームを段ボールに仕舞いもうひとつの段ボールを壇上に上げた。



。来るの遅かったわね。何かあったの?」
「あーえっと、ちょっとJabberwockの方で問題が発生しまして」
「問題?」

話していいのかな?と思いつつマネージャーがクビになった話をしたら「はあ?!」とリコ先輩と景虎さんの声がハモった。その2人の声に練習をしている黒子君達の視線もこちらに向く。

「え、それ大丈夫なの?」
「どうですかね…主催側は今大騒ぎみたいですよ」
「そうよね。パイプ役が1人減るってことだもの…」
さん」


顔をしかめるリコ先輩にこれがJabberwockでなければここまで心配にならなかったんだろうな、と他人事のように考えていると名前を呼ばれ視線を戻した。
の目の前には黒子君が少し荒い呼吸で立っていて、顔を覗き込むように見つめられたが無意識に逸らしてしまった。

「テツヤ君どうしたの?休憩、だっけ…?っ」

まだ練習時間じゃなかった?と聞こうとしたけどその前に頬に触れられ、わかりやすく肩が跳ね身を引いた。
そんな自分の行動に動揺して、固まる黒子君を見て視線を泳がすと景虎さんが黒子君とリコ先輩を割るように入ってきた。


ちゃん。ちょっとごめんな」

視線を合わせるように屈んだ景虎さんがの髪に手を差し入れると隠していた首を覗き見た。
何を見られたかわかってしまったはまた肩を跳ねさせると景虎さんはもう一度謝り、首が見えないように髪を整えた。



ちゃん。おじさんちょっとあのバカガキ共のところ行って風穴開けてくるわ」
「い、いえ、銃はダメです…犯罪になりますから」
「そうはいかねぇ。嫁入り前のちゃんにこんなことしたナッシュの野郎はシメておかねぇと俺の気が済まねぇよ」

本気じゃないにしろ、どこから取り出したのかわからない銃を構える景虎さんの顔は本気にしか見えなくての方が焦ってしまった。


たかだかサインを書かれたくらいでそこまでしなくていいと諫めようとしたが「どうしたんですか?」とまた新たな声が聞こえはそちらに目をやった。
ただ事じゃないと思ったのか赤司君達までがこっちに来てしまったようだ。

集合をかけてもいないのに集まってしまった選手達に景虎さんは眉を寄せると、伺うようにを見てきたので小さく首を横に振った。


「あーなんでもねぇよ。練習に戻りな」
さん。ボク達に話せないことですか?」

練習の邪魔をするほどでもない、と思ってこのまま景虎さん達と体育館を出ようと身を翻すと黒子君に手を捕まれた。

追い払うように手を振った景虎さんなど見ず真っ直ぐを見つめる黒子君にやはり肩が跳ねる。
無意識に焦点が合わないように視線を揺らすに、黒子君は辛そうに眉を寄せ「話してもらえませんか?」と冷えた手を握りしめてくる。



「リコ。ちょっと早いがあっちに行くわ。後のことは頼んだぞ」
「わかった」
ちゃんも辛いかもしんねーけど話してやりな。でないとうすいのが練習に戻らねぇって顔してら」
「景虎さん…」

実はその後ろにいる火神も訝しげに見ているのを景虎さんは気づいていたが、の頭を軽く撫でると「ちゃんを家までちゃんと送り届けてやるんだぞ」と言い残し事務のおばさんと一緒に体育館を後にした。


おばさんまで連れていかれると思ってなかったは少し途方に暮れたが、現実に引き戻すように手を再度握られ、ドアに向けていた顔を戻した。

じっと見つめてくるガラス玉になんとなく苦笑してしまう。熱を貰って笑える程度には少し元気になれたらしい。多分だけど。




2019/10/26