EXTRA GAME - 18


昨日ちゃんが編集したJabberwockの試合を見た俺達はやる気というか、奴らのバスケに触発されて今日の練習に熱が入っていた。
真ちゃんも熱くなってるしこれは俺も気合いれねぇとな、と思っているとちゃんが知らないおばさんと一緒に体育館に入ってきた。

練習しながらだったからちゃんとは見ていないが持ってる段ボールは再戦用のユニフォームみたいだった。出来上がったんだ、と思っているとボールを盗られ真ちゃんに睨まれた。
今は敵同士なのに睨むとかどうなの真ちゃん。

その視線から逃げるようにディフェンスに回ると景虎さんが騒ぎ出し俺達の動きも止まった。なんとなくただならない気がしたからだ。


ついっと視線を流せば黒子がちゃんの元に駆け寄っていて、彼女の表情を見てあれ?と思う。それから景虎さんが彼女の元に行き、俺達も何となく集合するように歩み寄った。

「たいした話じゃないんだけど…」

景虎さんに散るようにいわれて少し離れたが、その景虎さんはちゃんと一緒に来たおばさんと出て行ってしまい、ちゃんは所在なさげに苦笑した。

下げられた視線と空いてる方の手で首を押さえる彼女に眉をひそめると隣にいた真ちゃんも同じように、でも少し心配そうにちゃんを見ていた。


端的に言えばJabberwockのあのナッシュって野郎に絡まれたらしい。それを聞いた火神が「なんでんなとこに行ったんだよ!」と怒ったがJabberwock側と主催側がごたついていて行かざるえなかったようだ。

自分は荷物持ちでついていっただけだったのだけどまさか絡まれると思ってなくて怖かった、と青白い顔で笑っていた。
笑う必要はないのにまるでこの空気を気遣うような素振りを見せるから余計に痛々しく見えてしまう。



「それだけではないでしょう。さん」
「……っ」
「首に何をされたんですか?」

首?と黒子の言葉にちゃんに目を向ければ彼女は見てわかる程に顔を強張らせた。一瞬、いいたくないといわんばかりに黒子を見たがそれを許してもらえなくて目を伏せるとまたぎこちなく笑った。

「あーと、サイン書かれた…」

ぎゅっと髪を引っ張るように握る手にそこにそれがあるんだとわかったけど見せたくないように見えた。
何でそんなことになったのかと女カントクに聞かれたちゃんはぽつりぽつり事情を話してくれたがいくら勘違いとはいえ肌にサインなんか書くか?と思った。

しかも首とか、と眉をひそめると赤司がちゃんに近づき首を見せてほしいと進言していた。
おいおい、と思ってるとちゃんはとても辛そうに眉を寄せたものの髪をかき上げ、首を晒した。


掬いきれなかった髪が零れて顔にかかっているのと晒された顎から首のラインがスッと伸びていて変な話だが妙に色っぽく見えた気がした。

その白い肌にはラメを引いたように文字だか線がタトゥーのように描かれていて、ちゃんに似合わないなと思いつつも彼女の表情が妙に絵になっていて場違いにもドキリとしたのはいうまでもない。


そんな動揺した高尾の気持ちとは裏腹に赤司は冷静にそれを見て他にも書かれただろう、と聞いている。

「これはナッシュのサインじゃない。彼にはどこに書かれた?」



首以外にも書かれたのかよ、と緊張した空気で高尾も息を呑んで伺っているとちゃんは散漫とした動作で利き手の袖を捲くると前腕いっぱいに文字が書かれていた。まるで奴らとお揃いみたいだった。

そんなサインに高尾は顔を歪めドン引きしたが近くにいた火神はビクッと肩を揺らすような反応していた。
視線をそちらにやると火神は今にもちゃんに噛みつかんばかりに彼女を、恐らく腕を睨みつけていてぎょっとした。

そんな顔で睨んだらちゃんが泣いちまうだろ、と危惧したが、睨みつけてはいたものの無言のまま岩のように動かない火神のお陰でなんとか気づかれることはなかった。

そしてちゃんは赤司がサインを落とすよう指示され、黒子と女カントクと一緒に体育館の外へと出て行く。


「確か油性って石鹸じゃなかなか落ちないよね?」

ちゃん達が体育館を出ていくとなんともいえない重苦しい空気が広がる。その空気に顔をしかめていると桃井さんがぽつりと切り出し視線を向けた。そういえば、油性って簡単には落ちなかったっけ。

「そうだな。桃井、消毒液を試してみてくれ。それで無理そうなら日焼け止めか歯磨き粉があれば」
「俺、日焼け止め持ってるっス!」
「私も歯磨き粉持ってる!」

ちゃんが出て行ったドアを見ていた赤司がそう答えると桃井さんは救急箱を手にし、黄瀬は壁際に置いていたバッグから日焼け止めを取り出して桃井さんに渡していた。
ついでに「でも歯磨き粉は肌傷つけるかもだから最後の手段っスよ」と付け加える黄瀬に「わかってる」と彼女が返して足早に体育館を出て行った。




2019/10/27