EXTRA GAME - 20


黒子君達男子がそんな不穏な会話をしてるとは露程も知らないは、腕と首のサインを落としてもらいながらリコ先輩と桃井さんの前で少し泣いてしまった。
気を張っていて理解してなかったが、思った以上に怖かったらしい。

少しずつだけどやっと戻ってきた感情に鼻をすすれば「しょうがないわね」と姉みたいに笑ったリコ先輩に抱きしめられた。


「そうだ。さん今日うちに泊まる?」

今日は早めにあがろう。という赤司君の提案で練習が切り上げられも桃井さんの手伝いをしてみんなと一緒に体育館を後にしたのだが、隣にやってきた桃井さんが人好きのする顔で微笑んだ。

そんな、大丈夫だよ、と返そうとしたがその前にリコ先輩が「いいんじゃない?」と乗ってきてパジャマパーティーしましょ!と桃井さんがの手を握りしめた。
桃井さんの笑顔も手も温かく柔らかくてなんとなくドキリとしてしまう。


ナッシュに書かれたサインを落としてもらっていた時に泣いていたも帰る頃には落ち着きを取り戻していたが、桃井さんにもやはり心配をかけていたらしい。

というか、いつもの如く私パジャマなるものがなく、ジャージなのですが…。どうしよう、と少し困惑した顔でいると前を歩いていた男子が一斉に振り返りこちらを見てきた。

「なんだよさつき。に料理でも習うのか?」
「ム!そうじゃないけど、今日さん1人だっていうから、どうせ明日は土曜で休みだし練習も一緒に行けばいいしって思ってうちに誘ってるの!」
さん。ご家族は今日いらっしゃらないんですか?」
「うん。たまたまね…」



青峰と桃井さんの話を聞きながら黒子君に肩を竦めて小さく笑った。父親が出張で家を空けることは多かったが、昨日母親の実家…にとっては祖母が腰を痛めて動けない為今日の夜から手伝いに戻っているのだ。

その為、家に帰ってもしかいないのだけど別に1人はそこまで苦じゃない。それに祖母の家もそこまで遠くはないから困ったらそっちに行けばいいだけだ。
難点があるとすれば練習に使っている体育館や再戦の試合会場から遠いということくらい。

なので気を遣ってもらう程じゃないんだけど、今日の一件を思い出すと桃井さんの申し出は心底嬉しかった。パジャマはないけど。


「なら、うちに来れば?」


パジャマ、パジャマ…どこかに仕舞ってなかったかな…?と記憶を掘り返していると火神がいつものようにさらりと自分の家を提供して、そして何人かに赤い顔で引かれていた。

「おま…火神、まさかお泊りしてけっていうつもりか?」
「え?ち、ちげーってっ…ですよ!この後黒子と、が編集したJabberwockの試合を見る話をしてたんスよ。ついでに飯作るつもりだったんでどうだって誘うつもりで」
「ちょっと火神君!さっきのことあってそれはないんじゃないの?」

ちょっとはのことを考えなさいよ!としかめた顔で怒るリコ先輩に火神も気づいたようでこっちを見てバツの悪い顔をした。

いやまあ、今はナッシュを見ると動悸が激しくなるけど火神なりに気遣ってくれてるのは何となく伝わってるから気にしなくていいよ、と肩を竦めた。



「カントク。半分は誤解です。試合の復習はするつもりですがそっちはおまけなんです」
「どういうこと?」
「実は今日、かなりの課題が出てしまい、さんに手伝ってもらおうかと話していたんです…」

リコ先輩に睨まれ苦い顔になった火神の代わりに黒子君がフォローに入ると、リコ先輩の視線がこっちに向いた。確かに休みを挟むからということで複数の教科で面倒な課題が出ていたのを思い出す。

「次、未提出をすると火神君は放課後罰則なんです」と零す黒子君にそういえば尾白先生にそんなこといわれていたな、と思い出した。
全部本当です、と頷けば、頭を押さえたリコ先輩が盛大な溜息を吐いた。


「かがみん。私も行っていい?」
「あ?あーいいけど」
「はいはーい!俺も俺も!火神っちのご飯食べたいっス!」
「んじゃ俺も行くか…火神の割に作る飯はまともだからな」
「飯限定かよ!つかなんなんだよ"割に"って!」
「お前みたいなバスケバカが料理できるなんて思わねーだろ」
「1人暮らしなんだから仕方ねぇだろ!」
「じゃあ俺も行こ〜!ごちになりまーす」
「お前ら材料費出せよ!」

「テツ君の分は私が作ろうか?」とウキウキで黒子君の腕を取る桃井さんをやはり強いな…と思いつつ眺めたが、増える人数に課題なんて夢のまた夢なのでは?と思った。

どう考えてもお喋りして終わりな気がする…と見ていると黄瀬君がいきなりこちらに振り返ったので、身構えてなかったはドキリと肩を跳ねさせた。



「そうだ!っち久しぶりにゲームしないっスか?!」
「神様と黄瀬ちんゲームするの〜?」
「するっスよ!っち超強いんスから!」
「へぇ〜そうなんだ」
「紫原っちもPSP持ってたっスよね?」
「うーん。持ってるけど秋田に置いてきた。兄ちゃんのなら置きっぱなしのやつあるかもしんない〜」
「じゃあそれで一緒にゲームやればいいっスよ!」

…益々課題をする状態じゃなくなってきた。しかもご機嫌な黄瀬君が紫原君を誘ってきて冷や汗が流れる。事情を知らないとはいえやっぱり黄瀬君は曲者だ。
なんというタイミングで誘うんだと戦々恐々としていると紫原君の顔がこっちに向きやっぱり肩が揺れた。


「俺も混ざってもいい?」


コテン、と可愛らしく?傾げた首にはウッと言葉に詰まったが隣にいるニコニコ顔の黄瀬君がキラキラ眩しくて仕方ない。

マルチプレイをするとなると2人では確実に苦戦か全滅の可能性がある。3人ならなんとかなるかもしれないけどこのピンポイントの人選って…と思ったのはいうまでもない。

心配そうに伺ってくる日向先輩やリコ先輩の視線を感じながらは「うん、」となるべく笑顔になるように頷いた。


ここで嫌だ、と突っぱねる度胸がなかったのは否めないが、自身は紫原君と決別したいわけではない、のだと思う。
仲良くしたい、とまではまだ考えられないけど、でも友達のように接することができたらいいな、とは思っているのだ。



苦手だと、嫌ってると思われるような態度をとっている、とバレてしまったことに物凄く後悔もしてるけど、それをどう伝えたらいいのかわからなくて、でも拒絶することは違う気がして了承したけれど紫原君はどう思うだろうか。

愛想笑いにしか見えないかもしれない、と思いながらも紫原君を伺うと「うん。じゃあ俺も火神んちに行く〜」と少し嬉しそうに微笑んでいた。




2019/10/28
黄瀬なりの気遣い。でも青峰呼ぶよりは人選マシだと思う。