EXTRA GAME - 22


みんながいつも以上に優しい。
最初は気がする。だけだったけど、別れ際の緑間君の対応で確信してしまった。

「?どうしたんだよ」
「ううん」

なんでもない、と返したが緩んだ口許が戻せなくて手で隠すと「何笑ってんだよ」と火神に乱暴に髪をかき混ぜられた。

結局、泊りがけになりそうだから…という話に行きつき、一旦解散になったのだけど、みんなそれぞれ帰宅する中、の隣には火神がついて来ていた。
そこまで暗くないし見知ってる道のりだから大丈夫、といったのだが火神の買い物に付き合う流れになってしまってこういう組み合わせになった。

ダラダラと歩きつつ隣を盗み見れば練習終わりの気だるい表情の火神がいて、でももう反対の隣には黒子君がいなくてなんとなく落ち着かない気分になる。
3人でワンセットだよな!なんて木吉先輩にもいわれてたから少し寂しいのかもしれないな、なんて思った。


「…なんていうか、緑間君に撫でられた時間がいつもより長かったなって」
「は?」

あくまでの体感でしかないけど必要最低限のみ接触しないのが緑間君スタイルだ。
去年の夏の合宿は緊急だったからカウントしていいかわからないけどそれ以降はウインターカップまでなくて、それも髪に触れただけ。
頭をちゃんと振れるようになったのはごく最近で今日が1番長かった。



最初は人に触れるのが好きじゃないのかな、と思ったけどそうでもないらしくて、先日動画を見た時にはぴったりとくっつくこともできていた。
それがなんだか緑間君と仲良くなれた証拠みたいに見えて嬉しい、と思ってしまう。

それだけ緑間君達を、リコ先輩達や桃井さんにも心配かけてたんだなって改めて気づいて、だから赤司君がいきなり抱きしめたりしたのかなってわかってしまって、そしたらなんだか口許が緩んでしまった。


家に着くとやっぱり家の中が暗くて人の気配もない。ポケットから鍵を取り出したは鍵を回しドアを開けると火神を招き入れた。

「なんか、空気がこもってるね。外の方が涼しく感じる」
「日中天気良かったしな」
「暑かったら外に出てていいからね」
「わーってるよ。さっさと用意して戻って来い」

ドアを潜ったものの、上がる気がない火神は電気をつけ振り返ったに早くいけ、と手を振るので足早に自室へと向かった。
充電器と寝巻のジャージをバッグにつっこみ、いらない教科書類を投げ捨て一応課題が出てる教科を入れ直すと玄関へと急いだ。


「お待たせ」
「あれ。着替えなくて良かったのか?」
「う、うん。明日また帰るから…」

その時はジャージに着替えるだけだけど、と心の中で呟きながら火神に近づくと手が首元に伸びてきて少し身構えた。

「首、見ていいか?」
「う、うん…」

無意識に身を固くしたせいか火神の眉間に皺が寄ったが、こっちに怒ってるわけじゃないよね?と自問自答してしまった。
火神の怒った顔はいつまで経ってもちゃんとは慣れなくて、不意を突かれるとどうしても怖くて思考が止まっちゃうのが難点だ。



冷や汗を流しつつ見やすいように顔を背ければ、怒ってるような顔をしてる割にそっと肌に触れるか触れないかの間隔で髪をかき上げてくる。そしてサインが書かれていた首を露わにさせた。

何もしない、とわかっていてもじっと見つめられる視線が強いのかムズムズとして落ち着かない気持ちになる。ちょっと怖いと思っているのも見透かされたらどうしよう。


「…綺麗に消えるもんだな」
「うん。リコ先輩とさつきさんが真剣に消してくれたし、あと最後に石鹸で洗ってお湯で流したら1発だった」

消してる時のリコ先輩がかなり怒ってて『絶対に落としてみせるわ』と消毒液と日焼け止めを2重に使っていたし、最後にシャワー室を借りて洗い流したらものの見事にいつもの肌に戻っていた。

2人にも大丈夫、と太鼓判を押してもらえたし、とまっさらになった腕を見せると火神も安心したように目を細めた

「ありがとね。火神君」
「…は?何で、」
「心配してくれて、ありがとう」


本当は心配かけてごめんね、といいたかったのだけど、こういう時に謝ると火神はいつも不機嫌になるから口許をつり上げお礼を述べた。

主にキセキの世代関連でよく迷惑をかけているからどうしても感謝よりも謝罪の気持ちの方が出てしまうのだけど、ここはちゃんと伝わるように言葉にしなくては、と意気込んだのに火神は何故かぎゅっと眉間に皺を作っていた。あれ、言葉の選択を間違ったのだろうか。



怒っているようにも見えなくない顔に反射的に表情を引っ込めてしまった。息を呑むように火神を伺えば何か言いたそうに「バッ…」といいかけたけどそこで止まり、歯噛みをしてから視線を逸らしてくる。

そんな彼の態度にも戸惑っていれば、いきなりこっちを向き直りの腕を引っ張った。
え?と驚いた身体は躓くように傾き、真っ直ぐ火神の胸の中へと落ちていく。そして思考が回転するよりも先に火神の腕に抱きしめられていた。


「え?ちょ、か、火神君…?」
「バカ。俺の前でまで気を遣って笑うなよ」
「…っ」
「怖いのも、きついのも、見え見えなんだよ。それでヘラヘラ笑われても薄気味悪いだけだっつーの」
「(…酷いいわれようだ)……」
「泣きたいくせに我慢されると、こっちまで調子が狂っちまう」

ダイレクトに伝わってくる体温が熱くて仕方がない。火神ってこんなに体温が高かったっけ?と思うくらいには触れてる部分が燃えるように熱い。

髪の中に差し入れられた指は後ろ頭を掴み彼の肩に押し付けてくる。制汗剤に混じって彼自身の匂いまで嗅ぎ取ってしまいの顔が伝染したように熱くなる。


それは匂いを嗅いでしまったという羞恥もあったけど、彼だと認知して安堵した自分に驚いたからだ。
他人の匂いを嗅いで安心するとかどうなの自分。理性ではそんなことを考えていたがそれは隅に追いやられ思考が熱さで焼き切れる。



安心は警戒心を簡単に緩ませの視界を歪ませた。ぼろりと零れ落ちた涙に身を引こうとしたが自分よりも太くてがっしりとした腕の包囲網から逃げることは出来なかった。

ボロボロと落ちていく涙は火神のシャツにどんどんシミを作っていく。それが汚してしまったような悪いことに見えて慌てて自分の手で顔を隠した。
早く泣き止まなきゃ、と呼吸を整えようとしてるのに火神の手は優しく頭を撫でてくるし、放してくれないし、ちっとも落ち着かないし、涙が止まらなくなる。

熱を持った瞼に目が溶けてしまうんじゃないかって心配になる程涙が止まらなかった。




2019/10/31
火神って氷室と米帰りで香りの嗜みもありそうだけどとりあえず。