EXTRA GAME - 24


ぱちりと目を開ける。開けてみたけど辺りは真っ暗だった。
そこで手を伸ばし携帯をとろうとしたのだけどいつもの場所じゃないところに置いていて、探すのに苦労した。

手探りでやっと見つけた携帯を手に取り開くととてつもなく明るい光にうっと顔をしかめる。眩しさに目が眩んだが時間を確認すれば2時を過ぎた辺りだった。

2時…という中途半端で怖い時間に眉が寄ったがトイレに行きたくなってしまったのだからしょうがない。


「う、ん…」


すぐ隣から声が聞こえドキリとしたは慌てて携帯を閉じると布が擦れる音と一緒にの手に温かさと髪の毛の感触が伝わってくる。
そういえばアレックスさんが使っていた…元々は火神のお父さんの部屋を借りて一緒に寝ているんだっけ、と思い出した。

友達同士で並んで寝るなんていつぶりだろう、思えるくらいには懐かしかったし人の家に泊まるのも、というか男子の家に泊まるのは初めてでそれで夜中に起きたのかな、なんて思った。


桃井さんを起こさないように静かにベッドを降りたは音を立てないようにゆっくりドアを開け、廊下に出る。

手探りで電気をつけてみたがやはり他人の家のせいか明るくてもなんとなく落ち着かなくて怖いような気持ちにさせたられた。
あまり考え込まないように足早にトイレに向かったはさっさと用を済ませて部屋に戻ろうとしたがなんとなくリビングの方を見やった。

廊下とリビングを隔てるドアには縦長の小窓があるのだけど、スリガラスの向こう側が光っているように見えた。もしかしてみんなまだ起きているのだろうか?



桃井さんと同じ頃に寝るといって退席した時も楽しそうにみんな起きてたから(黒子君は半分くらい寝てたけど)、まだ起きていてもおかしくはないけど。
さすがに夜更かしが過ぎるし、明日の練習にも響く気がして声をかけようとリビングに繋がるドアをかちゃりと開けた。

部屋の電気は消されているようである一点以外は真っ暗で誰がどこにいるかまではわからない。
中を覗き見ようとドアを開けたら何かにぶつかったのか開閉が止まり鈍い音が小さく聞こえた。

下の方を見れば足だけがにゅっと伸びていて少しぎょっとしてしまった。その持ち主は体勢を変えたくらいで起きることはなく、もゴメン、と心の中で謝りこっそり覗き見るとテレビがついていてそれで明るく見えたようだ。


つけっぱなしで寝ちゃったのかな、と思い視線を動かせば誰かが見ているようで、ぼんやり浮かぶ影のような人の形に危うく悲鳴を上げそうになった。

内心悪い意味でドキドキしながら目を凝らすとテレビを見ていたのは青峰で、彼だけが起きているみたいだった。
紛らわしいな、と思っていれば、あっちも気づいたようで、こちらを振り返えりビクッと肩を揺らすとじっとこっちを見てそれからこっちに来いと手招きしてきた。


「(何だろう?)」

さっき確実にビックリしてたよね?と思いながらももう少しだけドアを押して隙間を作ると身体をリビングへと滑り込ませた。
足元で寝転がる誰かの足を越えて青峰に近づくともっとこっちに来いと手招きされ、何?と思ってる間に彼の隣に座らされた。

完全に頭が起きていればもう少し警戒したりしたのだろうが今は寝起きで思考が定まらず、周りが暗いから近くに人がいる方は安心できる気がしてそういうものを全部放置してしまった。



前を向く青峰に合わせてテレビを見ればNBAの試合が流れていた。消音にしているのか声は聞こえない。でもプレイの凄さは音がなくても伝わってきても一緒に試合を見つめた。

やっぱり手足が長いとシュートやカットの時に有利だよね、なんて考えていると、いきなり頭が温かくなりグイっと引き寄せられた。体育座りをしていたは簡単にバランスを崩し青峰に寄りかかってしまう。

驚き彼を伺えば彼も少し身体を傾けの身体を固定するように寄り添った。

そこでやっと青峰は隙を突いては変なことをしてくる奴だと思い出し慌てて距離をとろうとしたけど頭に回っている手は思った以上に頑丈でピクリとも動かなかった。
ヤバい…と顔を引きつらせただったが、いくら警戒しても青峰が悪戯をしてくる気配はなくただ試合だけが進んでいく。


チラリと青峰を仰ぎ見ればぼんやりとした顔だけど視線は試合に釘付けになっている。もしかして大丈夫なのかな?と首を傾げつつも息を吐くとゆるりと頭を撫でられた。

え?と目を瞬かせれば青峰の手がの頭をゆっくりと撫でている。それは規則正しい動きで何度も繰り返され、青峰らしからぬ優しさに思わず身を固くした。なにこれ、恥ずかしい。

なんとなく犬とか猫にするような撫で方に感じなくもないけど、青峰が何もいわず撫でてくるなんて違和感が有り過ぎる。
もしかして青峰にも気を遣わてしまったのだろうか?いやでもそれすら青峰らしくないような。みんなに優しくされるとか私の寿命そろそろ終了になるのだろうか。

事故とか災難前のフラグだったらどうしよう。ただ優しく撫でられてるだけなのにそんなことが過ぎって仕方ない。青峰、罪深い奴だ。



「(心地いいのと緊張の間、かな…日頃の行いだよね…きっと)」

そういえば青峰とは火神の家に来てから特に話していなかったけど、今日は火神によく突っかかっていたのを思い出した。

あの後、顔を洗い目を冷やして少しマシになってから家を出たのだが、火神とろくに話さないまま買い出しに向かって、ぎこちない空気のまま彼の家に戻り、ぎこちない空気のまま料理を手伝っていたのだ。


意識するつもりはなかったんだけど、目が合うとなんとなく気恥ずかしくなるし、こういう時に限ってよく手が触れあったりしてたからその度におたおたしていたのが悪かったのだろう。
青峰は青峰でお腹すいてイラついてたみたいだったし。

「うっぜーんだよ!」と青峰にお尻を蹴られて火神は怒ってたけど、顔を見合わせたら火神の方が黙り込んでいた。

みんなが集まったらその空気が薄れてきて、体裁程度の課題をやる頃には殆どなくなっていたように思う。というか、どうでもいいと思わないと火神の課題を進められなかった。


火神が指だというならその通りなんだろうし、いつまでも気にしてるのも意識してるみたいで迷惑だよね。自分の態度も反省しなきゃな、と考えていると黒人の選手がまたダンクシュートを決めた。
物凄く格好いいし、フォームが青峰みたいだった。


しばらく青峰に撫でられながらテレビを見ていたがくっついてる体温が心地いいのか、大きな手の温かさと心音と合わせるような撫で方に程よい眠さを感じて欠伸を噛み殺した。

周りも青峰以外は寝ているようで寝がえりをうったり、いびきをかく音が聞こえる。さっきは「お菓子…」という寝言も聞こえた。紫原君は夢でもお菓子を食べているらしい。



「(さっきは神経をかなり削ったな…)」

思い出す協力マルチには遠い目になる。火神も火神で緊張しっぱなしだったのだけど、黄瀬君と紫原君という組み合わせでゲームをするという一大イベントも緊張感が半端なかった。


ゲーム内容というよりは現実の方が大変だったけど、ミッション自体も結構大変だったなと思う。

黄瀬君は最近プレイしてないとかいいながらも相変わらず羨むほどの最高ステータスで臨んできて、お兄さんの私物の中で眠っていたPSPを発掘した紫原君は昔のデータしか残ってなくて参戦しても殆ど役に立たなかった。

お陰でミッションはギリギリのギリギリでクリアし、アイテムもかなり使い込んだ為何個か底をついていた。
その上、一緒にプレイしてるのに紫原君はの手元ばかりを覗き込んでいたので、げっそりと疲れたのはいうまでもない。


やっぱり、私には紫原君と友達になるにはまだ早いのかもしれない…と難しい顔で考えつつ重い瞼に逆らっていたが、青峰の撫でる感覚や温かさが心地よくて程なくして意識を手放した。



*



ぐっと重くなる隣の人物に視線を向けると瞼は閉じられたまま寄りかかっていて、片眉を上げた。寝ちまったか。
倒れないように腰を引き寄せた青峰はを寝やすいように寄りかからせると顔に零れた髪を掬い、耳にかけてやる。


「(アホ面…)」

警戒心が全くなく無防備に寝ているに呆れた顔になったが、ほんのり残る目元の赤みに無意識に溜息を零した。

ナッシュの件で大分恐怖を抱いていたはテツに対しても動揺していて、内心火神や赤司以上に腹が立っていたのはいうまでもない。
にとってテツはある意味最後の砦だ。こいつはテツがいるから異性でも誰でも受け入れることができる。

昔のは誰も受け入れるつもりがない目をしていた。全部が敵で誰も信じる気がない。それを変えたのがテツなのかと思うと内心面白くないと思う部分もあるが自分には到底できないことだとも思っていた。


火神と話して少しは顔色が戻ったがついでに余計なこともしでかしたようで2人がギクシャクしてる様に、蹴りをいれてやらないと気が済まなかったのはいうまでもない。

どうやら付き合うとかナニしたとかそういう話までには至らなかったようだが、青峰の当てつけにも火神は文句もいわずに受けていたのを思うとあっちもあっちで反省してるようだった。

反省するものでもないようにも思うが、とまともに話せないと困る、ということに気づいたのは良かったのかもしれない。



「(俺からすれば別にどっちでもいいんだけどよ)」

が火神とギクシャクしようが、テツと話せなくなろうが、自分の元に来るのなら特に問題はないのだ。

以前からそういう風に伝えてるつもりだし態度でも示しているのだけど、当の本人にはさっぱり伝わってないようでこの関係は拗れたまま平行線だ。

理性で考えるから答えが遠のいているんじゃないだろうか、なんてさえ思う。好きなものは好きでいいし嫌なら嫌で突き放せばいいだけの話なのに。


そう思いつつの顎を持ち上げた青峰は自分の顔を寄せると無防備にも薄く開いたままの口を食べた。
テレビはなんとなく見ていただけでが傍らに来た時点で既に興味がなくなっていた。

唇を食べながら空いてる手での太腿を撫でる。柔らかいが去年よりは筋肉がついた気がする。
そういえば前にこいつに膝枕をしてもらったのはいつだっけ?今度公園かどっか寝転がれるとこで寝てぇな、と考えつつ歯列を割って舌を差し入れた。

顎を少し引っ張り口を開けさせキスを深くした青峰は舌先での舌を撫でる。起きていれば絡めたり駆け引きもできるのだが生憎と相手の反応がなかった。

口を放してみてもの目は閉じたままで起きる気配はない。その無防備で可愛いけれど警戒心のないアホ面の唇はテレビの光の反射にキラキラと濡れていて妙に物哀しくさせた。



「(俺ばっかヤル気になってんのもアホらしいな…)」


続きはまたが起きた時にでもすればいいか、と思い直した青峰は未だ眠ったままのお姫様にキスを落とすと、彼女を抱き上げ王子様のように…とまではいかなくても(ドアにの頭をぶつけたのだ)自分の幼馴染が眠る部屋へと連れて行くのだった。




2019/10/02
一応心配している青峰。伝わるかは不明。
※よろしければ→元気注入拍手